【Another Day】 隠者と想う 心かくれんぼ
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『そっちこそ、』
俺に宣戦布告したあの女
『一筋縄でいくと思わないでね?』
紅色の瞳の奥まで光を取り込み、揺るぎなく進む女……―――
あぁ、そうだな
「―――……チッ」
ユエ、お前は
「明日からカップルイベントで、そこでしかそのドルチェが食べれないんだって!」
「そんなこと言っても、アナタとユエはカップルじゃないんですし」
「えーいいじゃん!一緒に行こうよ、ユエ!」
「ドルチェって……甘いじゃん。あたし生クリームは苦手なんだよね」
「お願い!オレの一生のお願い!」
「パーチェ!ユエとカップルという肩書を背負って、ドルチェを食べに行くなんて……。腹違いの兄として、断じて許しませんっ!」
「ルカちゃんには聞いてないってば!」
「―――……」
誰よりも、手強い女だ
Another Day
~ L’ Eremita~
「あ、デビト」
その日、金貨の仕事は思ったよりも早く終わった。
だから早めに館に戻りワインでも飲もうかとしていた時に食堂にルカ、パーチェ、そしてユエの姿があるのが目に留まった。
声をかけるつもりでいたのだが、デビトはその光景の1つに目を止めて、黙り込んでしまっていた。
そんな彼に先に声をかけたのは、話題の中心にいた――最近、このアルカナファミリアに帰還した――少女だった。
「あ、デビト」
「おつかれー!」
デビトに気付かないくらい、ユエとの話に夢中になっていたパーチェとルカが、“お疲れ様”とねぎらってくれた。
「……あぁ」
イライラしても仕方ない。
軽く返事をし、彼は薄く笑顔を見せた。
それを見て安心したのか、ユエも紅色の瞳を穏やかに見せてくれた。
―――……あぁ、イライラする。
「で、話は戻るけど。どーしてもダメ?」
「まだその話?」
ユエが呆れた。という顔でパーチェを見る。
ルカはもう止めるのも面倒くさいようで、デビトの隣にやってきた。
「なんの話だァ?」
「港の近くにできたリストランテが明日から、特製ドルチェが食べれるイベントをやるみたいなんです」
「お願いっ!ユエ!」
「それがどうやら、カップル限定のイベントらしくて、どうしてもドルチェが食べたいパーチェがユエに頭を下げている所です」
「カップル限定?」
ルカが簡潔にデビトに伝えれば、パーチェがそのまま一生懸命に頭を下げ続けた。
が。
「うーん……ごめん、他を当たって」
ユエが申し訳なさそうな表情でそれを断る。
「えぇぇ………そっかぁ……」
パーチェがうなだれつつ、仕方ないかと頷いた。
「わかった。お嬢を誘っていくよ」
「ダメです!」
ルカが間髪いれずに止める。
「カップル限定のイベントに、お嬢様を連れて行くなんて……!こちらは従者として許せません」
「なにそれルカちゃんッ!」
「ルカはルカで欲張りすぎでしょ」
ユエが食堂のテーブルに頬杖ついて、笑った。
デビトは黙りこくったままだった。
「だいたい、カップル限定のイベントと銘打ってる時点で、証拠か何かが必要になるかもしれないでしょう!“入店の際にキスしてください”とか言われたらどーするんですかっ!」
「え、すればいーじゃん」
「パーチェ、アナタ殺されたいんですか……?」
ユエが耳を塞ぐ仕草を隠さずにする。ルカの声がだんだんと大きくなっているための主張だったようだが、それすら届いていなかったみたいだ。
ルカとパーチェがそのままギャーギャー続けている中に、たまに何の違和感もなく、ユエの一言が入る……。
デビトはその光景に目を丸くし、ただ驚くだけだった。
「……」
ここにいても煩わしい会話しか聞こえないと判断し、デビトは苛立ちを隠しながら自室へと踵を返すことにする。
「あ、デビト……」
食堂の出口へと向かってしまった彼の後ろ姿にユエが声をかけたが、デビトは振り返ってくれなかった……。
「……あたしちょっと行ってくる」
ガタン、とイスを引く音を鳴らし、ユエはルカとパーチェをそのままに彼の背を追うことにするのだった。
―――一方、デビトの心は一度は停滞していた雲が晴れ、穏やかに晴れやかな気持ちになったのだけれど……。
それは再び、暗雲を連れてきていた。
ユエはデビト、ルカ、パーチェの幼馴染。
だが、ユエがその身に宿したタロッコの代償でユエに関係する記憶は全て奪われてしまった。
ルカは“中和”というアルカナ能力を宿しており、代償を無意識に跳ね返すことが出来ていたが、デビトとパーチェには……ユエとの記憶が無い。
それでも違和感なく、まして12年というユエと離れていた年月を簡単に埋めてしまったあの2人。
傍から見ても“親しい”という雰囲気。
あそこに入るのが、彼女ではなくフェリチータであるのならば、見え方はまた違う。
“親しい”にはならない。
ユエだからこそ、ルカとパーチェが彼女の幼馴染だというのが、その空気で痛いくらいに分かった。
対して……デビト自身はどうなのだろう。
「記憶、ねェ……」
あのパーティ以来、きっちり話したこともなければ、何もない。
それどころかジョーリィにお姫様抱っこされて、部屋に連行される姿を目撃し、その後はパーチェに“はい、あーん”ってしてもらっているリストランテでの光景。
そして先日のルカとのバスルームでのハプニング的な事件が脳裏を過った。
どう見ても彼女の周りには通常の女の子に向けるものではない“好意”が他の男から寄せられているのは、よくわかった。
「デビト」
「!」
だからこそ。
この“レガーロ男”と名高いデビトだからこそ。
自分がうまく近付けない、この女にイライラしていた。
「部屋、戻るの?」
首をかしげて、食堂から自分を追って来たユエが尋ねる。
心の中にある感情をフェリチータと違って読めるわけではないユエに、曝そうとは思わない。
なるべく口角をあげて、カジノに来る女を口説くように、囁いた。
「あぁ……なァんか用か?」
「え……いや、べつに…」
その受け答えにも、デビトとユエとでは距離がある。
―――あぁ……イライラする。
「用がないなら、戻りな。“恋人”が待ってんだろ?」
「恋人?」
先程のパーチェの願いの件を、らしくもなく嫌味ったらしく告げてしまった。
「パーチェのこと? 恋人じゃないし、断ったの聞いてたでしょ」
パーチェたちの輪にいたきとは違い、悠に離れている位置から、ユエが会話を織り成す。
まさに心の距離を表しているようだ。
これがルカやパーチェ、ジョーリィが相手であれば触れられる距離まで近づいていくのだろうか。
ましてデビトは一度……ユエに触れて大目玉喰らうほどの拒絶を見せられていた。
「行ってやらァいいだろ。ケチな女は口説き甲斐がないんだゼ?」
「…」
一歩、近付いてからかってやろうと思ったが、足を踏み出せば彼女の表情が険しくなったので……止めてしまった。
「一緒に行って“キスしてください”なんて、言われても困る」
「してやればいいだろ、キスの1つや2つ」
「!」
「軽いもんじゃねェか」
ユエの眉間に、皺が寄った。
「デビトと一緒にしないで」
間を置くことなく返ってきてしまった言葉に、今度はデビトが眉間を荒くする。
「なンだと?」
「カジノに来る客の端から端まで、キスして回るデビトと一緒にするなって言ってんの」
「ハハッ、港で隙見せて女装家にキスされたお前が言うことか?」
「セナをそんな風に呼ばないで」
最後に聞こえた声は、どちらかというと本気に近い声だった。
表情を見やれば、怒る、とまでは行かずとも、不機嫌であるのは確かだった。
「セナねェ……」