【Another Day】 節制と見つめる あの日とキズアト
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「おや……?」
アルカナファミリアの館の中。
フェリチータはそろそろ巡回から戻ってくるだろうか…と、お茶の支度をしていた時だ。
空が泣きだしたのを見て、お茶の準備をしていた従者であるルカは窓辺に寄り添う。
「あぁ……やはり雨ですか……」
お嬢様は大丈夫だろうか?とふと、溺愛している少女の姿を想う。
濡れて帰ってきたら大変だ、と、せめて風邪をひかないように。
万全の態勢で彼女を待つためにバズルームに向かった。
お湯をためておけば、何かあった時もすぐに温められるだろう……と思ったからだ。
だが、それはフェリチータより先に―――別の人物のために用意する羽目になる。
玄関ホールを抜けて、逆側の棟へと移動しようとしていた時だ。
ガチャリ。と館の扉が開かれる。
隙間から入り込んできた風の強さが、これがただの雨ではなくて嵐であることを伝えた。
そして入り口からびしょ濡れで返って来たのは……
「ユエ……!」
ルカの半分同じ血を通わす、妹だった。
Another Day
~ La Temperanza ~
「ルカ?」
呼ばれて、玄関ホールの階段を見上げればそこにルカの姿があったので、まるで“何?”と告げるようにユエが返す。
「アナタ、出かけてたんですか……」
「うん」
こんな嵐の中?と思いながら、それは自分のお嬢様もそうであるので、なんとも言えず。
だが彼女は配属のセリエがないので、私用でないと外へ出る必要はないのだ。
今日は午後から天気が崩れるのは誰もが知っていただろう……と思ったのだけれど。
しかもよくよく見れば、スーツはボロボロで脚やら顔やら腕やら……全身、満身創痍な姿だった。
「どうしたんですか、その切り傷……」
「まぁ、色々」
紅色の瞳を横に投げた彼女。
白い頬にも切り傷、そして泥や血が流れている。
「色々って……」
水を吸った服から、雫が滴り、その場に水たまりを作り始めた。
あぁ、これも大変だ……とルカが、一旦ユエの元から離れる。
「こ、ここに居てくださいっ!」
「?」
なんで?という顔したユエをそのまま、バスルームへ行き、お湯をためる。
同時にタオルを2、3枚手にしてルカは玄関ホールに戻った。
が。
「ちょ、ちょっと……ユエ!?」
その場には水たまりしかなくて、びしょ濡れの本人はいなかった。
まぁ、濡れているので足跡でどこへ向かったのか分かるのだけれど。
絨毯の上を裸足で歩いているようで、それを追いかければ自室へ戻ろうとしているユエの後ろ姿。
「ユエッ!」
わりかし本気で声をあげたが、本人は“うるさい”と背で語り、前を行く。
歩きながらブーツを脱ぎ、ニーハイを脱ぎ、上着をはぎ取り……。
裸足で、シャツとスカートネクタイ姿で歩く彼女にルカが顔を赤らめる。
「そんな姿でどこへ行く気ですか……っ」
「どこ……って、部屋」
「濡れたままでは風邪をひきます!」
「すぐ着替えるよ」
「そーゆー問題じゃないです!」
「……」
怒った、という顔ではなく、拗ねたが正しい表現。
もう、うるさい。と無言で伝える彼女。
ルカが更に言い返そうとしたが、――濡れて透ける素肌に――黙ってしまった。
「と、とにかく……シャワーを浴びて下さい!」
「わっ…」
持ってきたタオルでその姿を隠すようにしつつ、ルカは俯いた。
「…?」
そのままタオルをかけた状態で俯き、固まるルカに逃げられなくなったユエは首をかしげつつ、仕方なく頷いた。
◇◆◇◆◇
ユエがタオルだるまになりながら、ルカに連れられてやってきたバスルームは既に湯気が立ちこめていて、温かかった。
「お湯の加減は言ってくだされば、調整します」
「ありがとう……」
タオルをとり、ネクタイに手をかけたユエにルカがまた顔を背ける。
「(自覚……してないんですか……っ)」
顔をしかめつつ、赤面してしまうルカに、背を向けていてそれに気付かないユエ。
だがネクタイをとった段階で、ユエが前を向きながら静かに呟いた。
「いつまで居んの」
「へっ?」
「脱ぎたいんだけど」
「あ、すみません!!」
じゃあ、外にいるんで……と一言残して、更衣室を離れた。
扉一枚隔てた向こう側で、着替えを済ませ、大きなバスルームへと足を進める音がする。
「いくら幼馴染で兄だからって……ッ」
ずるずる……と背をドアに預け、廊下で蹲ってしまったルカ。
ルカと彼女は異父兄妹ではあるが、事情が複雑だ。
家族であるのだが、家族とはまた別の見方もできてしまう……。
透けて見えた項。
細い肩、鎖骨、腰のライン、細くて白い脚。
ルカは、全て……ユエとどう出逢い、そしてどう3年間を過ごしたのかアルカナ能力のおかげで覚えている。
幼くてあどけなかった少女は12年前、ここを出て行ってしまった。
そして僅か2週間前……あのパーティでこのファミリーへと戻って来た。
その時の彼女ときたら、もうあどけない少女となんて呼べないくらい“女”になっていた。
同じ血が半分通っているからと言っても、容姿自体はルカは父親似、そして彼女は母親似。
傍から見ても、血の繋がりがあるなんて一目では看破できないだろう。
ルカ自身もそう思ってる部分がある。
そんな状態の妹だと思えないユエに、あんなに“女”であることを無防備に曝されては、ルカが惑うのだ。
「ユエ……」
名を呼んだ瞬間だった。
「っったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「!?」
バスルームの中から叫び声。
ルカが反射的に、彼女の危険を感じ取ったのか迷うことなく扉に手をかけた。
「ユエ……っ?」
「~~~っっ!!!!!」
更衣室に入り込めば、もう1枚……湯気の生まれているバスルームから何かを我慢するような声が聞こえてくる。
不安と危険を確信してしまった彼は、そのまま扉を開け放ってしまった。
「ユエ……ッ!」
「っ!!!?」
湯船につかりながら、振り返った彼女。
あ、やべ、しまった……ここは入浴場である……と思い返したルカだったが時すでに遅し―――。
今度は自分の危険を感じ取ると同時に、ユエの手元にあったボトルが、速球で従者に向けて飛んできた。
「な……に、開けてんだこのヘタレ従者ぁぁぁ!!!」
背を向けてくれていたので、真正面から目撃することはなかったが……。
もちろん、本人は怒るであろう。
右手で振り返るように投げられたボトルは見事、ルカの顔面に直撃する。
「ぐはぁぁぁッ!!!?」
「…ッ」
もちろん、そーゆー関係でもない男に……いくら後ろ姿であっても、一糸纏わぬ姿を見られては赤面せざるを得ない。
ユエが悔しい……という顔で赤く、彼を睨む…。
「ユエ、ご、誤解で「出てけッ!!!」うぎゃッ!」
起きあがった所にもう1発…今度はジャッポネからマンマが持ってきた木製の桶が飛んできた。
ゴーンッッ!といい音を立てて桶も命中すれば、ルカは扉を急いで閉めた。
「ず、ずみまぜん…ユエ」
「……っ」