【Another Day】 剛力と食すラザニア祭り
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「ねぇ、なに食べてるの?」
「あ、ユエも一緒に食べる?ラ・ザーニア」
「ラ・ザーニアじゃなくて、ラザニアっていうんだよ?」
「いいじゃんいいじゃん。ほら、あーんして」
「あーん……」
相手の口に、フォークを持って行って、ラザニアの一欠片を渡す。
満面の笑みになった、ユエの姿を見て、安心した。
「―――……あれ…?」
よかった、と思い笑顔を見せた所で……目を開ける。
気が付いたら、見えるのは射し込む朝日と、見覚えのある天井だった。
「夢……」
そういえば、出てきた少女は幼かった気がする。
これは、ただの夢だろうか?
それとも……
「……失くした、…記憶の…?」
Another Day
~ La Forza ~
「なんだよ、デビトもルカも……」
その日は、パーチェにとっては大事な日だった。
大きな花束を派手なものではなく、白をベースにした花束を手にレガーロの町を行く、長身の彼。
傍から見たら、プロポーズに向かう途中にも見えただろう。
スーツ姿であったし。
いや、ネクタイをしていないからそれは難しいか。
いつも3人で行動しているように見えたので、彼が1人で町を行くのは少しだけ……違和感があった。
「特にデビトの奴……すっごい機嫌悪かったしさっ!」
なんでさ!と言うように、先程今から自分が向かう場所へ誘った時の彼の態度を思い返して、パーチェは膨れっ面になった。
ぶつぶつ文句を言いながら、レガーロの表通りを抜けて、教会の裏にある……墓地を目指した。
今日は、彼の母親……カテリーナの月命日であった。
そのため自分とよく行動し、共に育ったルカとデビトにも、一緒に来れないかと声をかけたのだが、彼らは“あとから行く”と返してきたのだ。
ルカは、単にフェリチータの今日の予定を確認しつつ動くため。
だが、デビトに関してはイライラしているので“今は1人にしろ”と言っているようだった。
すれ違い様に聞こえたデビトの声の中には“ジジイ、ブッ殺す”が鮮明に聞きとれた。
「またジョーリィと何かあったのかな……」
幼馴染でありパーチェより2つ年下の彼を心配しつつ、目的地へと辿りつく小道を抜けた。
今日も緑を揺らして平和であることを告げる小道。
その先の開けた場所に、彼の母親は眠っている。
もしかしたら、アルベルト……腹違いの弟が来てるかな?と思ったが、その期待は裏切られた。
「……!」
見えたのは、アルベルトより小さく、小柄な栗色の髪の後ろ姿。
「ユエ…?」
「!」
呼ばれたな、という顔してユエが振り返った。
「パーチェ」
相手も彼を確認すると、“来て当り前か”という顔して紅色を見せた。
「どうしてここに……?」
パーチェが記憶を忘れていることを、忘れていた。
彼女は、その問いに特に何も感じなかったようだったが、顔を背けて返してくれた。
「月命日だから」
「あ……」
「カテリーナさんの」
そうか。
パーチェが覚えていないだけで、ユエと母さんは面識があるんだ……。
納得しつつ、心の中にないその欠片をどうしても探してしまいそうになる。
苦笑いしつつ、パーチェが礼を告げた。
「覚えててくれたんだ」
「……」
「ありがとう。ユエ」
告げたお礼には何も返ってこなかったが、パーチェがユエの隣に並んでも、踵を返す素振りは見せなかったので安心する。
「!」
持ってきた花を手向けようとした時、既に供えられていた花の数に、首をかしげる。
2つの花束。
1つは、恐らくユエだろう。
もう1つは……
「さっきまで、アルベルトさんがいたの」
「アルベルトが……」
パーチェが義理の弟の名前を呼んだのは、“来ていたのか”というものではなく、“アルベルトとも認識があるのか”という意味だった。
「パーチェによろしくだって」
「……そっか」
「待ってればって言ったんだけど、忙しいからってさ」
「ははは……だろうね」
パーチェが家から離れたせいで、彼は領主という地位にある。
だが、それを悔やんだこともないし、自分の家族は……アルカナファミリアだと思っている。
特に気にしたことはなかった。
望みは、彼を含めみんなが幸せになることであるからだ。
「こっちの花は、ユエが……?」
「……うん」
小さく頷いた彼女に、パーチェが微笑んだ。
「ここ3ヵ月……この花をずっと供えてくれてたのは、ユエだったんだ」
見覚えのある、白い花。
パーチェが用意したのと似たようなそれに、カテリーナの趣味を理解しているなと息子は思う。
本当にあの時、その場に彼女がいたことを語っていた。
「ありがとね」
「カテリーナさんには、お世話になったから」
「……」
「パーチェは覚えてないだろうけど」
「ユエ……」
「いいけどっ」
いたずらのように冗談めかして笑う#NAME1##。
返す言葉を失くしそうになったパーチェに対し、彼女が先に続けた。
「ルカとデビトは?」
「え?」
「一緒じゃないの?」
「あ、うん……」
話題は変わったが今度はきちんと目を合わせてくれたので、パーチェも少し安心した。
ふと、この安心感が夢にもあったな……と思いながら頭の片隅で考えていた。
「2人とも、忙しいから後で別々で来るって」
「薄情者だなぁ」
「まぁ、そう言わないであげてよ」
パーチェが笑えば、ユエが横目で彼を見上げる。
一瞬、見透かされた気がした。
「来なかったら言って」
「え?」
「あたしが引っ叩くから」
わりかし真面目に言うので、パーチェが笑ってしまった。
「ユエに叩かれたら痛そうだね……っ」
「あんだけお世話になったのに、来ないのはオカシイ。あたしが許さない」
「…っ、ありがとう」
不器用な優しさが嬉しくて、今日何度目か分からない“ありがとう”を告げる。
それと同時に、彼女の頭をぽんぽんと撫でてやった。
「な、なに……っ」
「ん?お礼」
何故だかわからないけれど、ユエに触れていると昔あったような出来事や、感じていた事を思い出せる気がした。
「あ、そうだ」
パーチェが、ユエに視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「オレ、ユエと一緒にラ・ザーニアを食べるつもりでいたんだよ」
「ラザニア……?」
「うん。ほら、セナが出航するまで、ユエはアルカナ能力の反動で眠ってたでしょ?」
もう2週間近く前のことになるのだけれど、思い出して頷く。
「その時、お嬢たちと“ユエが起きたら、何する?”みたいな話になってね」
「……」
「オレはユエにラ・ザーニアをお腹いっぱい食べてもらおうと思ってたんだ」
「パーチェ……」
ごく自然な動きで、ユエの手をとって、パーチェが歩き出す。
「母さん、ユエもオレも、あとデビトもルカ……今日も元気だよ」
ニカッと笑い、そのまま花を手向け祈りをささげる。
祈りを負えると、掴んだ手はそのまま、パーチェは市街地へと戻り始めた。
「ぱ、パーチェ……!」
“手、放して……”と告げたが、彼は全然気にしていなかった。