【Another Day】 愚者と夢見るトロピカルサマー
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「おーい、リベルタ!そっちの積荷、ここまで持ってきてくれるかぁー?」
「あぁ、ちょっと待って!」
晴れ渡る空。
遮る雲も見当たらない。
もうすぐ真夏へと続く季節は、気温を徐々に上昇させ、太陽は肌を焼く。
だが、そんな日々もまた悪くないと思うのだ。
「ん?」
積荷を運ぶことを頼まれていたリベルタは、肩に積荷を抱えたところで、港の端で腰かけて海を眺めている少女を見つける。
「ユエ?」
Another Day
~Il Matto~
「ユエっ!」
「!」
積荷の移動を終えた、シエスタ時。
まだ港の端で座っていたユエに、リベルタが声をかけた。
「あぁ、リベルタ」
「よ!何してんだ?」
「何って……」
説明に困るなぁという風に、海の方へと指差して、
「眺めてる」
と伝えてきた、巷で最強と言われる彼女。
彼女の名は、ユエ。
アルカナファミリア……―――自分と同じ組織に所属している、大アルカナの1人。
紅色の誰もに印象が残る瞳と、色素の薄い栗色の髪。
レガーロ美人と言われるのに間違いない美貌と、そのスタイルは誰もが憧れるものだった。
「そっか」
彼女は親友を助けるために、幼い時から過ごしていたこのレガーロを発ち、そしてついこの間、ここへ帰還したと聞いている。
親友を助ける戦いに、微力ながら自分も協力させてもらったのも事実だ。
だが、それ以上に関わることが今までなかったので、リベルタは単調に返されてしまった言葉にたじろいだ。
「……」
「……」
リベルタを気にせず、また足をぶらぶらしながら水平線へと視線を送る彼女は、どこか楽しそうだった。
……確認しただけで、もうここに恐らく2時間はいるだろう。
「海……好きなのか?」
まぁ本人が楽しそうだから、いいか。とリベルタも続いてユエの隣に腰かけた。
「うん」
別にリベルタを邪魔だと思っていないようで、今度は少しだけ……本当に少しだけ口角をあげて、穏やかな表情で頷いてくれた。
「ここ10年くらい、船の上で過ごしていたから」
「船の上で?」
「うん。家が船だったの」
「へぇ!」
少しだけ彼女のことを新しく知れたこと。
そして自分と同じく海好きだということが、リベルタの胸を躍らせた。
「その船、やっぱりいろんな海路を航海してたんだろ?」
「そりゃまぁね」
ユエがまた海へと視線を向けて、懐かしい……というように目を閉じた。
「基本は食糧の調達とかが目的で、何かをするために島に寄るとかはなかったけど……」
それもそれで、楽しい旅だったんだよ。とリベルタに視線を向けたユエ。
おぉー!と、リベルタの表情も変わった。
「いいな!そーゆー自由な旅!」
「リベルタこそ、よく船の上にいるんだから、いろんな島に行ったことあるんでしょ?」
「そりゃあるけど、近海の調査が最近は多いから、そんな自由にあちこち行けないって」
「そりゃあそうか」
アルカナファミリアは、この島……レガーロ島の自警組織だ。
むやみやたらに島を離れてバカンス…も出来ないだろう。
「あ、そうだユエ!」
「ん?」
「海、好きなんだろ!」
いきなり立ち上がったリベルタ。
ユエが追うように顔をあげれば、位置関係で額のスティグマータが見えた。
「来いよっ!」
「え?」
リベルタに連れてきてもらったのは、諜報部が所有している……先程まで積荷の作業が行われていた船の上。
自分がいた船よりも、キレイであることは当り前だが、その広さもまた倍ではある。
「ユエがいた船がどんなんだか、わかんねぇからアレだけど。どうだ?久々の船の上は」
「そうだね……船にのること自体が久しぶりだから懐かしいや」
さっきいた港の端よりも高い位置から、水平線を見下ろすことができる。
そして太陽とも位置が近くなり、空を飛んでいるような気分になる。
静かに瞳を閉じて、船にあたる波の音に耳を澄ます…。
「……いい音」
「これで出航できたらいいんだけどさぁー」
残念!と笑うリベルタ。
だが、見える景色だけで、ユエは満足できていた。
「停泊船も嫌いじゃないから」
「そっか。でも俺はやっぱり、船が風を切って進む感じが好きなんだよなぁー!」
両手を広げて伸びをし、くるりっと回ったリベルタ。
彼はいつでも楽しそうだ。
「海って自由だし。しがらみが本当に何にもないんだよな」
「そうだね……」
リベルタとは、話が合うかもしれない。
ユエが頭の片隅でそんなことを思い始めた時だ。
「リベルタ!……って、ユエか?」
「おう、ダンテ!」
休息の時間であるリベルタの下へ現れたのは、諜報部の幹部・ダンテ。
そのスキンヘットを輝かせながら、リベルタとユエの所まで足を進めてくる。
「珍しいコンビだな」
「ユエが港の端で、海を眺めてたんだ」
幹部のダンテの許可なく、諜報部の船に侵入したことで、リベルタが怒られるんじゃないかとふと思ったユエだったが、問題はないらしい。
ダンテがユエに視線を送り、微笑んだ。
「まぁ、男ばっかりで華やかなものなんてないが、ゆっくりしていってくれ。ユエ」
「ありがとう」
華やかなものは、好きでもないし、ここでは求めてないよ。とは敢えて言わなかった。
「ユエも海が好きだって言うからさ!ダンテ、この機会に出航させちゃダメか?」
目を輝かせ……海へ出ることを望む少年。
「それはユエを利用した建前だろう、リベルタ」
「な……!?」
「別にいいよ」
本音は確かに、リベルタが海の上へと行きたかったのだろうが、彼女は自分が利用されることは何とも思わなかった。
「ユエ、あんまりコイツを甘やかすな」
「“甘やかしてやりたい”って思うほど、一緒に過ごしてないよ。ダンテみたいに」
「なっ……」
ユエが舌を出して笑いそうな表情に、ダンテが1本とられた……と心で負けを認めた。
当の本人は特に気にすることもなく、首をかしげていたが。
「な、ダメか?ダンテ」
まだおねだりは続いていたようで、リベルタが子犬のようにダンテに近付いているようにユエは見えた。
「(尻尾が見える……)」
ユエが冷静にリベルタを横目に見ながら、2人から視線を外し、船の上を歩きだす。
「うむ……。今日はこの後、特に急がなければならないような仕事もないし」
「いーだろー!それじゃなくても、前回の近海調査、俺留守番だったんだし!」
「結局、お前はそこかッ!」
ダンテが突っ込むようにリベルタに投げかけていた言葉は、逆側の甲板にも届いていた。
振り返り、微笑ましい光景だ……とか思いながら2人を見つめる。
自分がアルカナファミリアに戻り、1週間と少しが経過した。
以前の自分には無関係だったような、この穏やかさが……今は毎日の日常になっている。
この手の中に平和があること。
思わずにやけてしまうくらい、ユエにとっては嬉しかった。
「船……か」
乗船していたあの船は、今どこの海を彷徨っているのだろう……と思いながら、水平線へとユエ視線を戻した。
「……あれ?」