【Another Day】 死神と周るレガーロ島
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「……いない」
アルカナファミリアの館の一角。
整理整頓がきっちりとされた部屋の中に、1人佇む少女。
辺りを見回しても、見当たらない捜している人物に、一言……盛大な溜息と共に吐きだした。
「もー…」
その手に握られてたのは、自分が先程預かった、小さな袋だった。
Another Day
-La Morte-
それは今から約15分ほど前に遡る。
「ノヴァに?」
「えぇ。お願いできるかしら?」
「いいですけど……」
マンマの部屋に呼び出されたと思ったら、手渡されたのは花の肥料だった。
「聖杯の執務室にある、植木の花の元気がなくて。前から彼に頼まれていた花の肥料が手に入ったから、届けてもらいたいの」
「……」
「彼はあの部屋と町の行ったり来たりが多いから、必ず手渡ししてあげてちょうだい」
「え、手渡し……?」
「そう。お願いよ、ユエ」
花の肥料ぐらい、部下に手渡しておけばいいと思った。
だからすぐに終わると思っていたのだけれど……。
めんどうなことになりそうだ。
「まだ所属のセリエが決まってないアナタしか、頼める人が思い当たらなくて」
「……」
確かに自分は、このアルカナファミリアに来てから、まだ間もない。
そして配属されるセリエも決まっていない状態だ。
時間を自由に過ごし、行きたいときに行きたい場所に行けるのは恐らく今のファミリーでは、自分くらいだろう。
あと強いて言うなら、相談役くらいか。
「……わかりました」
顔には出さなかったが、ユエは面倒だなぁと肩をガックリさせていた。
町に出るつもりではいたが、今日は諜報部の船の上でゆっくりのんびり海を見て過ごそうと思っていのに。
とりあえず、ちゃっちゃと済ませて海へ行こう……。と、聖杯の部屋に来たのだけれど、やはり彼はいなかった。
「……」
面倒だと思ったのは、スミレの言うことを聞きたくなかったわけではない。
普段、絡みの少ないノヴァのことなんて、全く知らないので対応に悩んだからだ。
ルペタとの戦いの時、彼に協力してもらったのは感謝している。
けれど、それとこれとは話が別。
第一、ノヴァとユエは年が4つも離れている。
それはユエとセナ……そしてユエとデビトと同じ年齢差だったが、自分はどちらかというと年上と過ごしてきた。
年下の彼……ノヴァのことが目に止まったことがない。
「まず、聖杯ってどんな仕事してるんだろ……」
手に握られた小さな袋を見つめながら、ユエが首をかしげた。
「しょーがない、手渡しって言われたし、行くか……」
スーツのポケットに袋を詰め込んで、ユエは聖杯の執務室を出た。
◇◆◇◆◇
レガーロは今日も平和だった。
ルペタがいた頃とは打って変わって、スリや恐喝の姿も見当たらない。
市場には新鮮な魚がさばかれて並べられている。
もちろんその横には旬の野菜や穀物……そして豚のブロック肉。
どれも買い物に来ていた主婦たちの足を止めさせるものであった。
市場通りの方をじっくり探索するのは実に久しぶりであり、あっちこっちへと目が行ってしまう。
だが、今日は肉や魚を見に来たわけではない。
捜している蒼髪の動物愛護警備隊長は、なかなか見つからなかった。
「聖杯ってなんだっけ……なんのセリエだっけ……」
防犯じゃなくて……防波堤じゃなくて……とトンチンカンな考えを巡らせて、1人ぐるぐるしていた時だ。
「そこのお前」
「!」
背後から声がしたので、思わず自分が呼ばれたのかと思い、振り返る。
「あ、いた」
だが振り返った先に、ユエに青い瞳は向けられていなかった。
その代わり、真正面の店―――花屋の前で、その後ろ姿が男を捕えていた。
お目当ての人物はまさに彼……聖杯の幹部・ノヴァだった。
「今、その懐にいれた物を見せて見ろ」
どうやらその仕事を全うしているようで、邪魔ができない雰囲気。
戦闘になりそうな空気もないし、なったとしても男1人相手であれば、自分に出番はまずあり得ない。と思ったユエが、ノヴァをそのまま眺めていた。
「な、なんのことだ……?」
「はぐらかすつもりか……?」
カチャリと刀に手を添えたノヴァを見て、男が黙る。
どうやら何かを盗もうとしているように見えた。
「窃盗の現行犯だ」
「……っ」
「事情を聞かせてもらおうか」
「チッ!」
逃げろ。と本能的に語ったのだろう。
男が、店の前に置いてあった植木鉢をノヴァに投げつけた。
「な……っ」
「邪魔しやがって!!」
弾かれたその植木鉢が、ノヴァ目がけて飛んできた。
もちろん、避けるしかないので地面に叩きつけられた植木鉢がガシャン!!と音を立てて、割れてしまう。
「待てッ!!」
逃がすものか……とノヴァが足を踏み出す。
“なんだよ”と呆れつつ、ユエはこちらへ向かってくる男の退路を開けるために左に一歩ずれる。
だが、逃がすつもりはない。
「うわッ!?」
真横を通り過ぎようとしていた男の足を引っ掛けて、盛大にこけさせた。
鎖を使う時もそうなのだが、ユエはこの手の技は天下一だった。
「な、何すんだ!このアマッ!!」
「アンタが出すもん出さないからいけないんでしょ」
なんの感情も込めずに呟けば、男がユエを見上げて目を張る。
恐らく、一般市民だと思っていたが、よく見れば格好からして“アルカナファミリア”であることを理解したようである。
「くそー!」
男が嘆きだした所で、ノヴァが追いついた。
「お前……」
聖杯の部下も集まってきて、その男から事情を聞くために連行していく。
ノヴァは現場に現れたユエに、少し驚いていたようだ。
「よ」
手をあげて簡単に挨拶を済ませる。
ノヴァはまだ瞬きをしていた。
「あ、他意はないよ。たまたま通りかかっただけ」
「あぁ……。すまない、助かった」
足止めをしたことで、男を捕まえられた礼を言うノヴァにユエは頷く。
ついでにという形で、ユエはポケットから先程入れていた小袋を取りだした。
「はい、これ」
「え?」
「マンマからの預かり物。届けに来た」
ノヴァが片手を出し、袋を受け取る。
中身を確認し、納得したようで少しだけ笑みを見せていた。
「わざわざコレを?」
「うん。スミレさんに頼まれたの。あたししか、暇してる奴はいないってさ」
自嘲しながら踵を返すユエ。
さて、任務も終わったし、海にでも行くかな……と伸びをしかけた時だ。
「お前……配属のセリエは決まっていないのか?」
「え?」
いきなり会話が始まり、ユエが強制的に振り返ることになった。
「まぁ。決まってないね」
「……」
「永久シエスタ組かな」
それがいいなーなんて口にしたユエに、ノヴァが真面目な顔して突っ込む。
「……それだけの力を持ちながら、所属がないのは理由があるのか?」
「いや、特にないと思うけど」
忙しいんじゃん?決める側の人間も。
そう言い残しユエが今度こそ立ち去ろうかとするが、ノヴァがじっと射抜くような視線を向けてくるので、動けず……。
「な、なに……?」