【Another Day】 恋人たちと過ごす乙女心爆発日記
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「これは事件です」
食堂に集まっていた一同に、ルカが机をバンッと叩いて、静かに告げた。
そこに集まっていたレガーロ男たちは、頭に?を浮かべていた。
「どしたの、ルカちゃん」
「どうしたもこうしたもありませんッ!今日が何の日だか、知っていますか!?」
パーチェの問いに、ルカが更に荒々しく手を振り回す。
遅い昼食を取っていたリベルタとパーチェ、そしてノヴァ。
たまたまそこに居合わせたデビト。
「今日は、自分の立場を確認する試練の日ですッ!!」
◇◆◇◆◇
チ・チ・チーン……。
「めんどくさい」
レガーロ晴れのある日。
アルカナファミリアの館の中にある、大きな廊下を抜けて、地下の実験室への階段隅、一角の部屋。
部屋の片づけをしていた部屋の主は、まるでマンガの1コマのような場面を作っていた。
3拍動きを止めて、きっぱりと“めんどくさい”と言い捨て、ベッドに腰を下ろした。
「はぁ~……別になんでもいいんだけどなぁ」
部屋の主・ユエは、1週間ほど前に大きな戦いを終え、アルカナファミリアに迎えられた身。
正確には、舞い戻って来た身だ。
7歳の時までここにいたので、彼女には既に与えられた部屋があった。
そこを使わないものを整理して、年頃の女の子の部屋にしましょう!とマンマが提案をしてくれたので――断り切れず、仕方なく――部屋の片づけをしていた。
クローゼットの中にある、もうまったく必要ない服の整理を一通り終えた所で、彼女が先程の言葉を吐き捨てた所だ。
「まず、女の子らしい部屋ってどんな部屋……?」
言われて想像すれば、それは恐らくフェリチータの部屋ような俗に言う“お姫様ベッド”でフリフリのレースで……お花がふわふわしているような……。
「……………。」
毎日、そんなベッドに迎えられるのか。
「…………。」
そこに誰が寝るのかを想像してしまった。
「いやいや、あたしじゃオカシイ」
自分が他者なら、吐き気がする。
生憎、ユエはそんな柄ではなかった。
外見からすれば、このレガーロ美人が寝ていたら、男は誰もが息を飲むだろう。
ただ、問題は中身だった。
ユエ……19歳。
アルカナファミリアの中の主要人物として捕えられる位置に居る、大アルカナと契約を果たしている少女。
宿したカードは第12のカード、ラ・ペーソ。
時間に関する数字を操り、固体の時間を止めたり、進めたり、戻したりできる。
ある時は、手錠の時間を加算させ、錆びさせたり。
またある時は、固定の空間の時間を戻し、何時間前にその場にいた者の行動を追うことが出来る力。
そしてそれ以外に彼女は、“フェノメナキネシス”という力を宿していた。
自然に干渉する体質であり、発火能力や静電気を常に帯びている体質である。
故に、彼女はその辺の男より遥かに上回る力を持ち、また努力を怠らない実力者。
巷では一時期、最強と謳われていたほどの娘である。
そんな娘が……フリフリの部屋で寝ている。
まして自分のことになれば、彼女は悪寒を感じずにはいられなかった。
「このままでいいんだけどな……。お姫様ベッドとかいらないし……」
第一、フェルの部屋より狭いんだから、ベッドでそんなスペースはいらん。とか考える。
「お姫様というより、お嬢ベッド……」
意味のわからんことを呟いた時。
コンコン!と自室のドアにノック音が響いた。
「ユエ、いる?」
許可もしないで開け放たれてしまった部屋の扉に、そこを訪れた者が誰であるか悟る。
「いますよー逃げてませんよ―ちゃんとここで暮らしてますよー」
視界に入った、ツインテールの女の子に、嫌味のように告げる。
言葉を聞いた彼女は顔をしかめていた。
「もう……!」
現れた少女・フェリチータは、ユエにとっては最近出来た友人……とはまた違うが、家族である。
あのパーティの日。
自分を助けてくれたパーパの、娘である。
「で。どうしたの? お嬢」
「……」
ベッドから動かずに首だけ、扉の方を向けると、少しだけ首をかしげたフェリチータが見えた。
「お嬢?」
「なんか、ユエに“お嬢”って呼ばれるのは、違和感がある……」
「じゃあ“おじょーさま”ってお呼びしましょうか?」
ニイっと笑ってやると、眉をさげて笑う彼女。
「お嬢でいいよ」
で?と続きを促したユエに、フェリチータがポケットからあるチケットを取りだした。
「コレ」
「ん?」
「一緒に行かない?」
目の前に差し出されたのは、“ドルチェ無料券”だった。
「この前、マンマと食べに行った時にもらったの」
「へぇ、こんなの配ってるんだ」
「期限も迫ってるし、どうかなって」
それに、と続けたフェリチータに、ユエがチケットと見つめていた視線をその翡翠色に向けた。
「ユエと、ちゃんと話したこと。ないから」
「……」
そう言われてみればそうだ。
正直、ルペタとの戦いの時は自分のことで精一杯だった。
フェリチータが心配してくれていたのは知っていたが、彼女に1つ1つを説明する暇はなかった。
自分の幼馴染とのこと、セナのこと、能力のこと、記憶のこと……。
考え直せば、“最強”と謳われた割りに他者に頼ることがなく、余裕のない自分がいたことがわかる。
情けなくなり、顔を逸らした。
まして彼女は、“恋人たち”という能力がある。
ユエの心の中の混沌は幾度か見られているだろう。
―――心配をかけた……。
この日、初めてきちんと自覚したかもしれない。
「しょーがないなぁ」
悪態を付きつつ、彼女へのお礼も込めて、まずはお嬢様・フェリチータと向き合おうではないか。
「ラズベリータルトがあるなら、行ってもいいよ」
◇◆◇◆◇
早速だが、そんなフェリチータとユエはレガーロの町へ赴き、その店へと訪れた。
隣を歩く、自分より背の高い年下の少女は目が輝いていた。
「(楽しそう……)」
効果音にルンルンと音符が付きそうなフェリチータを見つめて、メイドさんに案内された席へ着く。
「どれにする?」
「どれでも無料なの?」
「うんっ」
差し出されたオシャレなメニューに、自分とは縁遠いものだ……とか思いながら、書きだされたメニューを見つめる。
別にケチではないので、無料でなくても誘ってくれれば来るつもりだが、彼女なりの口実なのだろう……と思い、素直にそのチケットを使わせてもらうことにした。
「ラズベリーはないね……」
メニューを見ながら、フェリチータが呟く。
先程、自分が言ったことを気にしていたようで、フェリチータがメニューの端から端まで“ラズベリー”を探していた。
ユエはその一生懸命な彼女の姿に、目をぱちくりさせる。
「(律儀だなぁ……)」
頬杖ついて、メニューを追いかけるフェリチータを見つめた。
「フェルはどれにすんの?」
「え?」
ユエが発した言葉に、フェリチータが顔をあげた。
「うーん……イチゴとホワイトチョコレートのミルフィーユがいい」
「じゃあ、あたしもそれで」
「え、ユエ……」
「いいの、それで。それがいい」
フェリチータが指差したメニューに視線を落とし、イチゴなんちゃらを指名した。
生憎、自分はそこまで器用ではない。
そして素直でもない。
相手に自分の気持ちを真っ向から伝えるなんて……死に物狂いの時しか出来ない気がする。
関わってきた者が少ないからこそ、アルカナファミリアでパーパからの『罰』を受け入れ、成長していかなければならない。
だからこそ。
こんな伝え方以外に、ユエの本心を届ける方法が見つからなかった。
彼女の力の前ではこんな小細工も丸見えなのだが。
「ありがとう」
「べつに」
嬉しそうに、頬を染めて微笑んだフェリチータに素っ気なく返しつつ、外を見つめた。
小さな庭園の中にあるその喫茶店は、とても静かで、とても美しい。
レガーロにしか咲かない花が、窓の向こうを彩っている。
「……」
「綺麗だね…」
「……うん」
アメジスト色した花が辺り一面を色どり、囲うように黄色や白、ピンクの花が咲いている。
どうしても、視線がそのにはちみつ色―――黄色へ向いてしまい、逸らせなくなった。
「……」
視線を見つめたフェリチータが、ユエを少しだけ切なそうに見つめる。
彼女にもユエが誰を思いだしているのかは想像できた。
「最近さ、」
「え?」
ユエが視線はそのまま花にやり、口だけをフェリチータに投げつけた。
一方の向けられた彼女は、ユエから口を開くと思ってなかったみたいで、驚いている。
「心が空っぽなんだよね」
「…」
「あの戦いから、その先の次が……やっぱり見つからなくて」
「ユエ……」
心に喪失感があるのは、わかっていた。
日々の習慣だったこと。
そして人生の大きな目標として、追いかけてきたことを…それだけのために生きてきたと言えるようなことを、彼女は見事にやり遂げた。
だが、同時に大きな達成感……そして喪失感。
「離れても……セナが幸せになるなら、あたしは嬉しいんだよ」
「……」
「だから後悔も何もないんだけど……気が抜けて。今まで出来ていた身の周りのこと全部が、めんどうになってきて……」
フェリチータが何を返そうか迷っていた。
しかし、路線が大きく変更される。
「だから、従者が欲しい」
「……え??」