28. Magenta another sky 【最終話】
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いつか、セナと約束を交わしたマゼンダ色の空。
彼女はその向こう側へ、自分で決めた道を突き進んだ。
なら、あたしはどうだろう。
自分で決めることができるだろうか。
その向こう側へ……自分の足で向かうことができるのか。
不安はあるが、歩き出そうと思う。
逃げず、自分の本当の気持ちで……あの空の向こうへ―――。
「ルカッッ!!」
その日は特別だった。
フェリチータが、この館にやってきて半年。
そのお祝いをしようというパーティになっていた。
アルカナ・デュエロが終わってからバタバタしていて、きちんとお披露目などが出来ていなかったのもあり、それも合わせてのパーティだった。
もちろん、そこにはアルカナ・デュエロには参戦しなかったが、新しい仲間になったと思っていたユエも参加するのだろうと、フェリチータは思っていた。
しかし、館のどこを探しても彼女の姿はなかった。
だからフェリチータは走りまわり、結果彼女の幼馴染であり、自分の従者の元へと辿りついた。
ノックもなしに彼の研究室を開けると、ルカとデビト、パーチェがそれぞれ本を読んだりと、くつろいでいるのが目に入った。
「お嬢様?」
「どーしたァ、バンビーナ」
今日は機嫌もいいようで、デビトがフェリチータの姿を見て問うた。
この広い館を走りまわり、体力を結構消耗してしまったフェリチータだったが、黙って見過ごすわけにはいかない。
「ユエがレガーロを出て行ったって本当!?」
告げられた言葉は、幼馴染の誰の耳にも入って無かった。
「えぇっ!?」
28. Magenta another sky
フェリチータからの悲報に、ルカやパーチェ、そしてデビトも館を捜し回る。
標的はただ1つ、紅色の瞳の少女だ。
「ユエッ!!」
だが、どこを捜し回っても、彼女の姿はなかった。
「……っ」
デビトがユエの部屋へ入り込めば、そこはもぬけの殻。
ベッドには太陽の匂いのするシーツがきちんと畳まれており、いつか見た懐かしい写真と写真立ては…もうそこには無かった。
「……ッ、ざけんなッ!!」
乱暴に扉を閉めて、もう1度行っていない場所を探す。
合流した4人はそれぞれがユエの部屋、食堂、庭、ルカの研究室、棍棒の部屋、金貨の部屋、厨房、入浴場、念のためジョーリィの元も尋ねた。
しかし、どこにも彼女の姿はなかった。
「ユエ……本当に……―――」
「まさか……っ!そんな何にも言わずに……?」
パーチェが嘘でしょ……と呟く。
ルカも状況打開のため、切りだした。
「諜報部にユエが船で出航手続きを取ったかどうか、確認しましょう」
「うん……」
「このレガーロを出るのであれば、船を使わずに出るのは不可能ですから」
「そうだね……」
「ノヴァにユエを町中で見かけなかったか聞いてみるのも手です」
「なら俺が行く」
デビトが切りだし、すぐさまその足をノヴァ・聖杯がいるであろうフィオーレ通りへ向けた。
パーチェは諜報部へ。
そしてルカとフェリチータはそのまま館と町へ、ユエを探して走りだした……。
その後、町行く人へユエの特徴を伝え捜しまわった。
フェデリカドレスにも寄ったし、バール、リストランテ、ドルチェの美味しいお店……。
この町でよく立ち寄られるような場所は全て回った。
デビトがノヴァにあたったが、彼も何も知らず。
協力はしてくれたが、収穫はなにもなかった。
対してパーチェはリベルタとダンテにユエが出航手続きを取ったかどうかを尋ねたが、それも履歴はなし。
だとすればまだ島にいることも考えられたが、あの娘は並大抵ではない。
やろうと思えば、無銭乗船もできるだろう。
―――1日中、捜しまわった結果……彼女を見つけることはできなかった。
がちゃり、とユエの部屋の自室を訪れる。
今日、これで2度目だったがその光景は何も変わらず。
窓から見える空の色が、茜色に変わっただけであった。
「ユエ……」
デビトが頭を抱えた。
何も覚えていない。
変わりないことだったが、こんな終わりは納得がいかない。
自分は……彼女を、どう想い、過ごしていたのか。
このモヤモヤが胸の中から消えない。
ユエが必要以上に自分に気を使っているのが、“過去の自分”を捜していることからだとすると……今の自分は―――。
「……っ」
そこで気付く。
自分のこの……いつの間にか停滞していたモヤモヤが、なんなのか。
そして自分が、何が欲しいのか。
「……ンだよ」
消えてしまった写真。
思い出は持ち去られてしまった。
置いて行かれぬだけマシか。と思ったが、深く考えると逆かもしれない。
いつまでも彼女はその写真に写しだされた“デビト”を求めるのだとしたら。
今の自分は応えられない。
「忘れたくて……忘れたンじゃァねェのによォ……」
胸が押しつぶされそうになる。
この眠った記憶の底に、自分は大事なものを置いてきてしまった。
取り戻せないもの。
そして、新しく手に入れた感情……。
それが失くしたものより小さなものだとしても、同じ感情であることは違いないだろう。
でも、そこへ飛び込むには自分だけの気持ちではダメなのだ。
「ユエ……」
ユエがきちんと“今のデビト”を認め、求めてくれないと……。
◇◆◇◆◇
陽が沈んだ。
館のホールでは、何も知らないファミリーの人間がフェリチータを歓迎するムードで立食会を既に始めていた。
約3ヵ月前。
ここでパーパの誕生日が行われた時に、開催宣言があったアルカナ・デュエロ。
今ではそれすら懐かしい。
誰もがあの戦いを終えた後、新しい仲間ができ、過去と出会うなど思ってもみなかったはずだ。
そして……このような別れなど―――。
「お嬢?」
今日はきちんとドレスを身にまとったフェリチータの横で、リベルタが顔を覗きこんできた。
「気分悪いのか?」
「え?」
「顔色よくないぞ?」
熱でもあるのか~?なんておでこに触れてくれたリベルタの優しさに、その場で微笑む。
「だいじょうぶ」
「そうかぁ?ならいいけど……」
心配そうに顔を覗かせたのは、リベルタだけではなかった。
「体調管理も幹部の仕事だ。疲れているのなら、早めに休め」
「うん……。ありがとう」
ノヴァもこちらを見て、眉間に皺を寄せていたので心配するなと返した。
だが、パーティどころでなかったのは、幼馴染3人も同じであろう。
「ユエ……」
フェリチータが呟く。
どこへ行ってしまったのかと……―――。