25. Permanente assoluta
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紅色の光は強さを増した。
まるで12年前、あの病院の地下でキマイラを消滅させた時のようだ。
その光から逃れられることは…ない。
「ユエの力って……」
パーチェが小さく呟いた。
隣にいたダンテがノヴァを抱えて、答えた…。
「スミレに……確認してきた」
「え…?」
「マンマに…?」
「アイツが契約した“吊るし人”のカードはどんな効果を発揮するものなのかを」
ダンテが間の当たりにしたその力を……半ば信じられないという顔で見ていた。
「第12のカード ラ・ペーソ。あれは数字を操るものらしい」
「数字?」
「なるほど」
ジョーリィは納得していた。
思いだせば、思い当たることばかりだ。
「金貨の手錠が錆び、脆くなり、拘束部分が折れたのは……」
「ラ・ペーソは主に時に関する“数字”を操る。金貨の手錠が折れたのは、手錠固体に時間を加算させて脆くしたからだろう」
だが、その時はダンテやジョーリィが記憶を失うことはなかった。
「力が暴走した12年前と今のユエはまず精神力が違う。恐らく強制的に解放をしなければ、代償という代償を払うことはないのだろう。だが今は……」
ダンテがその後ろ姿を見つめる。
タロッコの部屋で倒れていた時。
病院の地下で気を失って倒れていた、あの頼りない背中が12年の時を経て、強さを掲げたものに変わった。
「ユエ……っ」
ルカが力をユエと同時進行で、ファミリーがいる一帯に使う。
しかし、ルカだって力に限界があるのだ。
「う……、」
「ルカッ」
苦しそうに胸を押さえる彼にパーチェとフェリチータが寄り添った。
「大丈夫……です……ッ」
「どうにかできないのか……ッ!」
パーチェが役に立たない自分に腹立たしさを感じていた。
はっ…とフェリチータが自分の手を見つめた。
「リ・アマンティなら……」
もし、自分の中にある力が……人と人の絆を結び、力を発揮できるこの力があるのであれば―――
【頑張って追いかけたんだから、自分の手柄にしないと。ね】
【フェル】
【デビト、パーチェ、ルカ……】
「ユエ…」
【ありがとう】
思い返せば、確かに過ごした時間はとても短い。
だけど、フェリチータだからこそ理解できるものがあった。
記憶を失うことはとても切なくて、虚しい。
そしてそこに残された者の哀しみも見てきた。
自分が運命の輪を使って、パーパが館から自分を離した。
マンマが自分を責めた。
ルカが懸命に守ってくれた。
リベルタもノヴァも。
もちろん、パーチェもデビトもダンテやジョーリィだってそうだ。
同じ運命を背負った家族。
同じアルカナを宿した者……。
「もう……2度と……」
彼女が忘れられないように……―――。
[やぁ…フェリチータ……]
私は、この力を……使いたい…
[優しい宿主よ…。2度目の私を求める声……君が望むのであれば、私もそれに応えよう]
25. Permanente assoluta
ルカの力…そしてそこに織り混ざるようにピンクの光が射す。
フェリチータが手を合わせ、祈った。
「お願い……リ・アマンティ……」
光が強くなる。
それに反応するように、ユエが放った紅色の光も強くなった。
「ロベルト……さま……」
光の向こうで、胸に一直線に射された光に苦しんでいるのが見える。
その光の先には、賢者の石があることくらい、わかっていた。
そしてセナの胸にもその石は拡散され、埋め込まれている。
自分の石に触れれば、それは今までにないくいら酷く、冷たくなり、濁っていた。
「…っ」
この石が割れれば、醜い姿になった自分は助かる。
だが、ロベルトはどうなる?
なにより……
「ユエは……」
知らなかった。
自分があんなに想われていたことも、探されていたことも。
何より、そのために犠牲にしたものがあったことも。
「ユエ……」
セナがユエの元へ行くために、ルカの光の中から飛び出そうとした。
しかし…
「ッ!?」
ガッとその腕を掴み、止めたのは―――
「お前……ッ」
デビトだった。
「状況を理解しやがれ」
「うるさい……ッ」
「今ここから出たら、出た瞬間に忘れるかもしれねェゼ」
「…っ」
何を忘れてしまうのだろうか。
全部跡形もなく、何もなかったことになるのだろうか。
自分がただの人間に戻り、のうのうとユエを忘れたこの世界で生きていくのだろうか。
それは……―――ダメだ。
それでも今の自分には、出来ることがないのが腹立たしい。
「ユエ忘れたお前が……ッ、そんなことを言える資格あんのかよッッ!!!!」
向けることが出来ず、どこへ吐き出せばいいのかわからない気持ちは、理不尽にもセナを止めたデビトに向けられた。
だが、間髪いれずに返される。
「だからだろうがッ!」
「ッ、」
掴まれた腕を乱暴に弾かれて、セナが背の高い彼を見上げた。
「幾年費やして、身を滅ぼしならが求めたお前を……ッ」
「…っ」
「助けられて忘れましたじゃ、アイツは救われるはずねェだろッッ!!!」
「―――」
ちがう…
ユエが本当に求めているのは、僕じゃない…
わかっている…
ユエの気持ちを聞かず、制止の声を押し退けて、ロベルトの元へ行ったのは自分。
それを止めるために、ユエは大きくて危険な力を得た…
そして代償を払う……
本当に怨まれるべきは自分だ……
セナが力なく、へたり込む。
涙が止まらなかった……
せめて…せめてこの声が届けば……―――
「ユエ…」
届けば……想いも……
「ユエーッッ!!!!!」
「(セナ……)」
声は、届いていた。
意識もあり、ただ精神力を著しく消耗するこの力を使いながら、それに答えることはできない。
目の前には、痛みを感じて暴れているロベルト。
背後に目を向けることが出来ないので、ファミリーがとうなっているかはわからないけれど、どうにか…
どうか、何もなく、終わればいい……
「ぐっぁぁぁぁああああああああ」
「…ッ」
「あぁああぁぁぁぁあぁぁぁああああああ」
「(まだ……耐えるのか、賢者の石……ッ)」
もう幾千年分の時間を加算させたはずだったが、賢者の石はまだ滅びない…。
ここからは気力と、体力、精神力の戦いだった。
「ああぁぁぁああああああ」
「(ここで……終わらせる……ッ!!!)」
もう、長い時……この不安と孤独と戦った。
解放されたい。
それを望むのは、ユエだけではないはずだ。
―――この海の向こうに、どんな心や体の傷も癒してくれる楽園があるんだって
―――もし僕がそこへ旅立つ時……、ユエは僕を見送ってくれる?
―――こんな心を持った僕を……このレガーロから、きちんと送りだしてくれる…?
「セナ……ッ」
「ワタシハ……マダ…コワレ……」
―――僕ね、女なりたい…
「マ……ダ……ッ」
―――ユエ…
「マダ……ッ」
「ぐ……っ」
「マダ…ッ!!」
【ユエ…】
「マダダアアアアア!!!!」
【お前なら…大丈夫だろォ?】
「っ……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
デビトの声が聞こえた
うん…だいじょうぶ……
だいじょうぶ……だよ…………
力は更に増幅し、先程の倍のスピードで時間を加算させた。
そしてついに、限界がきた…。
紅色の光が爆発的に発生し……消えた……――――。
一度光が戦いの中心に寄り、解放したように―――12年前と同じ衝撃派が訪れる。
それがルカとフェリチータの光の前で消滅し、辺りに静けさが訪れた。
「終わった…のか……?」
キラキラと…季節外れの雪のように、紅色の光が淡く舞う。
その先で見えたのは倒れているロベルトと、ユエ…―――。
「ユエッ…」
気を失い、倒れた彼女。
それを見て、セナが一気に駆けだした。
「セナさん…っ」
フェリチータも後を追い、もちろんファミリーが全員で彼女達に駆け寄る形になる…。
「ユエ……ッ…、ユエ…!!!!」
セナがその体に触れた。
反応は、ない。
「僕を怨んでるでしょ……ごめん…っ、ごめんユエ」
返ってくるはずもない答え。
気を失っているだけではないのだろうか…?
よく見れば、顔色もとても悪い…―――
「ユエ……」
フェリチータも彼女の腕を取った時だ。
淡く舞っていた光がユエに吸収されるように集まり、弾けた。
「!」
この不思議な現象が、辺り一面に走馬灯のように映像を映し出した。
映像はその場の全員に見えていたようだ……。
移り変わる中には、今のセナ……少女になった彼と、笑い合う強くなったユエ。
変わらずに毎年行われているラ・プリマヴェーラに2人で歩く姿。
フェリチータとリベルタ、ノヴァと共に館で過ごす姿。
ジョーリィとダンテに抵抗しつつ、楽しそうにしている姿。
そこにはエルモの姿もあった。
そして一番強く見えたのは、今現在の姿のデビト、ルカ、パーチェ。
その中にいる、ユエ。
ユエの小柄な姿が3人の中に、存在を示すように真ん中にある。
その慣れ合いの姿は、12年前のようで……―――
ぱっと、映像の中のユエが振り返る。
何かに気付いたようにこちらを見ていた。
視線の先には、少女セナ……。
何かに戸惑うように、セナは俯き、顔を歪めている。
それを見たユエが、何の迷いもなく幼馴染から離れ、こちらへ来た。
セナが顔をあげてユエを見ると……
「!」
いつか、自分がユエにしたように手が差し出されていた。
その後ろには、ルカ、パーチェ、デビト…。
向けられた笑顔は、セナを怨んでいるとは到底思えなかった。
デビトとパーチェがユエの横にきて、何か言ってからかっている。
ユエはそれに反論しつつ、半ば無理やりセナの手を引いた。
最初は戸惑っていたが、セナが……笑顔を見せてユエの横を歩き出す…
笑顔の2人をみて、微笑んだルカが1度目を閉じてから、とびきりの笑顔でこちらへ手を振っていた。
デビトとパーチェが前を行くユエとセナを見守りながら、前にいるルカの元へと歩き出す…
セナから涙が零れた…。
「ユエ…」
映像にばかり目を取られていた彼ら。
しかし、そのセナの目から零れた涙を…拭うように指先が触れた…
「!」
セナが視線を動かせば……自分の涙を拭っている#NAME1##。
外傷はなかったが、ボロボロだった……
そして彼女も……あの日以来、見たことのない涙を見せていた…
「セナ」
「ユエ……」
「おかえり」
「―――……っ」
「おかえり……セナ……」
セナの胸に埋められていた石は、割れていた…。
ダンテとジョーリィが確認すれば、倒れているロベルトの胸の石は粉々に割れ、元に戻すのは不可能であった…。
元の力を拡散させる石がなくなり、セナは………人へと戻ったのだ。
「…っ、ただいま……」
セナが大粒の涙を零して、ただただ呟く…。
「ただいま……っ、ただいまユエ……」
顔をぐちゃぐちゃにして、セナが泣きながらその体を抱きしめる…。
ユエの心が晴れていくのが、フェリチータにはわかった…。
「よかった……」
自然と2人を見て、涙が溢れる。
「本当に…よかった……」
ルカに肩を貸していたデビトとパーチェも、その姿を見て安堵を見せた…。
終わったのだ。
セナを探す旅も。
裏切り者を思い、待つ日々も……―――。
上がくり抜かれてしまったルペタの館の頭上から、朝陽が零れ落ちる。
今まで生成されていたキマイラたちも、賢者の石がなくなったことにより、姿を取り戻すであろう。
ロベルトも背後で呻き声をあげている。
生きている……。
また、やり直せる。
セナが確信し、また涙を流した……。
こうして、ロベルトを中心としたルペタはこの事件で消滅した……。
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