24. Capacità e prezzo
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「ユエ」
セナに呼ばれた気がした。
だから振り返った。
「ユエは、死ぬまでに行きたい場所ってある?」
「行きたい場所?」
「うん」
この光景は依然、セナと海が見下ろせる丘……レガーロの港と町が一望できる場所。
そこにセナと一緒にピクニックに行った時のものだ。
「僕はね、あるんだ」
「どこに行きたいの?」
そのアメジストの瞳を覗きこめば、彼は笑った。
「この海の向こうに、どんな心や体の傷も癒してくれる楽園があるんだって」
「それ天国じゃなくて?」
「ははっ、それは困るね」
セナが笑ってる。
あたしは、それだけでいいよ。
「もし僕がそこへ旅立つ時……、ユエは僕を見送ってくれる?」
「え?」
「こんな心を持った僕を……このレガーロから、きちんと送りだしてくれる……?」
―――……思えばこの時から。
こんなことを呟いていた彼の言葉に、ちゃんと耳を傾けるべきだった。
どうしたの?と。
聞いてあげるべきだったのに。
「うん」
無邪気に頷いてしまった自分を、怨んでいる…―――
24. Capacità e prezzo
「う……、」
気が付いたら、天井が目の前にあった。
体には大きな疲労感。
どうしよう、腹部にチクチクと痛みが刺している。
再び手放しそうになる意識をしっかり持って、目を開けた。
辺りを見回すと誰もいなかった。
でも誰かが自分の部屋に侵入した形跡がある。
恐らく、幼馴染ではない。
想像ができたサングラスの男が来る前に、ここを出ようと決めた。
腹部の痛みが教える。
どうしてこの痛みが在るのか。
何を成すために、これを刻んだのかを。
「!」
ベッドから抜け出した時、扉の方に気配。
ゆっくり顔を上げた。
そこには誰もいない。
音もしない。
廊下から足音も聞こえないし、誰かがそこで突っ立っているとも思えない。
だけど、確実に感じた。
ゆっくり近付いて、空を切るように見えたが、確実にその手は掴んだ。
「デビト」
見えないけれど、感じる。
この気配は……
「なんで力使ってるの…?」
彼に間違いない。
その手は実際、何か服のようなものを掴んでいた。
だが、彼は能力を未だ解かない。
「デビト……」
怒っているのがわかった。
手を引こうとしたのと同時に、逆に腕を掴まれた。
「わ……っ」
ドンッとベッドに押されて倒れ込む。
次に目を開ければ、眉間に皺を寄せた彼の姿が光が割れるように現れ、自分の上にあった。
「説明しやがれ」
ガッと乱暴のように見えたが、デビトがどこか丁寧に、だが素早くユエの上着を腹部―――スティグマータが見えるまでめくりあげた。
「“コレ”はなんだ」
「……」
「説明しろ!!!」
怒鳴りつけられ、ビクッと肩が反応した。
いつもならそれを見て、デビトは表情を緩める。
だけど、今日は違った。
「大アルカナは、パーパの娘の力が暴走したのをきっかけに契約は禁じられてる」
「……っ」
「知らなかったなんて言わせねェゼ?」
本気で怒ってる彼は、初めてだった。
「なんで……なんで今更タロッコに興味を持った」
「…っ、」
「答えろユエ」
夕方とは違う、デビト。
怖かったけれど、うまく答えられなかった。
「この力がどれだけ危険なものかわかってるのか!?」
「でもセナが死んじゃうのはイヤなのッッ」
「っ…!」
セナという言葉が出て、デビトの顔が少し歪んだ。
ユエはそれに気付かなかったが、デビトが自分がアルカナと契約したことに怒っているのは理解できた。
「また……“セナ”かよ」
「え……?」
目の前で自分を押し倒した男が、目を伏せたのがわかり、戸惑う。
本当なら今の体制に戸惑うべきだが、ユエにとってはデビトの見せた表情の方が重要だった。
「デビト……?」
ボスン…と音を立てて、デビトが自分の上に沈む。
ぎゅう…と抱きしめられれば、自然と手がそれに倣い、彼の体に手を回した。
「…」
「デビ―――「うるせ……」
壊れる物を扱うように、ゆっくり。
でも大事なのに壊そうとするように力が込められる。
泣きたくなった。
「ねぇ……なんでさっき、ちゅーしてくれたの?」
ここで聞くのか?とデビトは思っただろう。
だが、ユエは素直にそれが疑問だったから尋ねた。
他意などない。
デビトは溜息をついたが、消え入りそうな声で答えた。
「気付けよ」
「?」
「なンでもねェよ」
しばらくそのままだったが、デビトが小さく息を吸って、今度はユエに尋ねた。
「アイツがどうしたって?」
「え?」
「死ぬとかなンとか、言っただろ」
そうだ。と体をもぞもぞ動かしはじめたユエに、デビトが起きあがる。
「あたし行かないと……ッ」
「人の話を聞けって!」
コツン!とボケとツッコミをしている暇はないんだよ、とデビトが目で語る。
こつかれた頭部を押さえながら、ユエがデビトの瞳を見た。
「……―――」
心配しているのがわかる。
彼は優しい。
そんなの出会った時からわかってる。
他の女の子にはすごくキレイなリードをして、いろんな人から好かれる。
少しだけ遠い人にも思えたが、彼は自分の幼馴染だ。
「セナがね、実験の対象になっちゃうの……」
「ジッケン?」
「人体実験……。セナ……、死んじゃう」
だから昨日泣いていたのか。とデビトがようやく理解した。
どうせならばあの時、ちゃんと聞いてやれば……と彼が心で少し後悔する。
「だからタロッコと契約したのか?」
「……」
図星だとはわかっていた。
だからこそ、彼女が口を噤む。
「タロッコと契約できたからって、すぐ扱えると思ってンなよなァ」
「え?」
「お前じゃ止められない」
「そんな……」
断言されてしまい、ユエが今度は不安に目を泳がせる。
それを見て、デビトが間を置いた。
同時に背後に2つの気配を感じる。
「だから、俺も行く」
「え?」
泳いでいた視線を止めて、ユエが顔をあげた。
そこにはデビトが少し……おもしろくなさそうな顔して、こちらを見ていた。
「俺も行く。お前だけ行くのは危険すぎる」
「デビト……」
「俺だけじゃねェけどな」
デビトの言葉と同時に、デビトの横にルカとパーチェの姿。
「しょうがないですね」
「デビトのお願い事じゃあ、断れないしなっ」
「ルカちゃん…パーチェ兄ちゃん…」
並んだ3人。
それぞれが目を合わせた後、ユエに笑いかけてくれた。
「もっと早く、ユエの事情に気付いてあげるべきでしたね」
「ルカちゃん……」
ごめんね。とルカがユエの頭を撫でた。
涙が零れる。
「でも、きっとなんとかなるよ」
「パーチェ兄ちゃん…」
涙の顔で見上げれば、パーチェがくれる太陽の笑顔。
その言葉に、デビトがボソっと呟いた。
「なんとかなるんじゃなくて、するんだろ」
「その通りですね」
ルカもデビトの意見が最もだ、と笑う。
なんて恵まれていたのだろう。
この3人はセナのことはそこまで詳しく知らない。
顔だって、何度かちらっと見ただけだろう。
なのに、自分が哀しめば、誰より先に駆けつけてくれた。
「……っ」
泣きじゃくって、どうにもならない時でも。
みんながいれば、自分は生きていける。
ずっとずっと……一緒だと思っていた。
「ありがとう……っ」
ユエの言葉を聞いて、さっそく4人は飛び出した。
これが結果的には、最後。
最後の、4人のやり取りになる……。
ユエはほぼ丸1日眠っていたようで、もう外は暗闇に身を投じようとしていた。
急いで町を駆け抜けて、病院を目指す。
途中、体力が持たなくて立ち止まったユエを、パーチェが抱えて走りだす。
……それをデビトが隣で睨んでいたのは、ユエもルカも気付いていたが、それどころではない。
ようやく病院へ着いた時は、陽は半分海の向こうへと消えていた。
「セナ……ッ」
真っ暗で廃墟のような面影を見せる、病院の扉を盛大に開け放ち、ユエが親友の名前を呼ぶ。
真っ直ぐに伸びる廊下には、自分達の影が伸びていた。
「セナッ!」
「あ、ちょっと……ユエっ!」
走りだしたユエを追うように3人が続く。
響くのも自分達の足音だけ。
他に物音は一切聞こえなかった。
「いないはずない……!」
いや、それはそれでよかった。
いなければ取り越し苦労で済むのだ。
ユエが先程まで背負われていないと走れなかった人物とは、別人のように病院内を駆けまわった。
するとカシャンと小さく、自分達が立てた音ではないそれを聞きとることができた。
足を止め、視線を向ければ真横にはワゴンや医療器具が倒れ、塞がれた道。
「……」
よく見れば、まだ新しい血の痕がある。
「血が……」
「セナ……!」
唾を飲み込んで、器具をパーチェがどかしてくれたので、そのまま進む。
足元は殆ど何も見ることが出来なかった。
ルカが錬金術で出してくれた青い炎で多少は明るくなったが、確認できるのは滴る血痕のみ。
全員黙って、ゆっくり足を突き進める……。