23. Cuore è nato da una donna
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―――幼きユエがレガーロに来て、そしてアルカナファミリアに保護され、2年の時が流れた。
「セナーっ」
幼女から、少女へと成長を遂げ、間もなく7歳になろうとしていたユエは、今日も大好きな親友の元へ行く。
「あ、ユエ」
噴水広場で待ち合わせをしていたので、人が多かった。
特に今日はラ・プリマヴェーラ。
春の式典で、レガーロ島はにぎわいを増していた。
「ごめん!館出るの遅くなっちゃって……走ったんだけど」
「うん、だいじょうぶ」
にっこりいつもと変わらず、笑ってくれたセナに、ユエも笑顔を返す。
「じゃあ、あっちから回ってみようか」
「うんっ!」
春のお祭り―――ラ・プリマヴェーラは必ずセナと過ごすとユエは決めている。
ルカやパーチェ、デビトはいつも通り3人で回っているようで、もしかしたら町ですれ違うかもしれないと思っていた。
「あ……」
「ん?なあに?」
セナが行く足を止めたので、その視線の先を見つめる。
ユエが首をかしげて、?を頭に付けるとその先には仕立て屋のガラスケースが。
「……」
「セナ……?」
セナの視線は真っ直ぐに、レースの付いた赤やピンク、オレンジや白のリボンに向けられていた。
「かわいいなぁ……」
「リボンほしいの?」
「っ!」
ハッ……と自分の呟く言葉の意味を考え直して、セナが首をブンブン振る。
「まっ、まさか!僕、……っ、男だよ!?こんなレースのついたリボン持ってたら……」
「可愛いと思うよ?」
「え?」
ユエがその仕立て屋に入り、赤のリボンを2つ買って、扉から出てきた。
「はいっ」
「ユエ……」
「ほら、こーやって…」
ユエがセナの白いシャツの襟の下に、買って来たリボンを通した。
「蝶ネクタイみたいにしたら、男の子でも似合うよ!」
「……」
ユエがつけてくれたリボンを手にして、セナが黙る。
その目は、半分涙が溜まっていた。
「え、セナいやだった!?」
「違う……」
セナがゆっくり、そのリボンを指先で触れてユエににっこり囁いた。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
おそろいだねー!と言いながら、手を繋いで人の中を歩いた。
この日のことを、今のユエもセナも覚えているだろう。
この時の変化が、悲劇を生んだのかもしれない。
お互いがもっと早く、違う形で話していれば、この戦いは止められたのかもしれない……。
23. Cuore è nato da una donna
「ただいまー」
式典から戻ったユエは、ファミリーの館の地下―――ジョーリィの元へ向かっていた。
相変わらずその薄暗い部屋に閉じこもって、本を読んでいたジョーリィ。
ユエが少しだけ呆れて呟く。
「おかえり、ユエ」
「ジョーリィ、お祭り行かなかったの?」
「忙しくてな」
「本読んでるだけじゃん」
「錬金術についての本だ……。研究に必要な知識を収集することを怠る訳にはいかない」
めんどくさい話が始まると思い、ユエは耳を塞いでお土産をそこに置いて部屋を出た。
ジョーリィの錬金術の話はいまいちわからない。
まぁ、自分が興味も持っていないからだろう。
「あっ!」
ジョーリィの部屋を出て、角を曲がった先に見覚えのある後ろ姿が3つ。
よしっ!と決めて、ユエが走りだす。
ダダダダダ……という足音を聞いて、パーチェが半身振り返った。
「パーチェ兄ちゃん!」
「ユエっ」
ガバッとその背中にジャンプして抱きつく。
パーチェの身長は抱きつきやすい。
ルカはちょっと大きすぎるし、デビトはジャンプして抱きつくには小さすぎる。
なにより、デビトとユエの関係は、ルカとパーチェと比べると少し違ったからでもある。
「おかえりなさい、ユエ」
「ただいまルカちゃん」
パーチェに抱きついたまま、おんぶしてもらいそのまま運んでもらう。
それを機嫌が悪そうに、デビトが見つめていた。
「ラ・プリマヴェーラはどうでしたか?」
「楽しかった!セナといっぱいお店見てきたの!」
よかったですね、と笑ってくれたルカとは、パーチェの背中に乗ってようやく一緒の目線になる。
まぁ、年が10つも離れていれば当り前か。
「でね、セナとおそろいのリボン買った!」
レースがついているリボンを自慢すると、ルカとパーチェが“よかったなぁ!”と言ってくれた。
だが……
「あ、デビト……」
スタスタと別の方向へ行ってしまったデビトを、ユエが声をかけたが無視。
そのまま彼は自分の部屋へと消えてしまった。
「デビト……」
そう。
デビトとは、なかなかその距離を縮めることが出来ずにいた。
年が一番近いということもそうだが、なによりユエはデビトとも気まずくない関係になりたかった。
しかし、デビト自身がここ最近…執拗にユエを避けているのだ…。
「……」
「デビトも難しい時期なんですよ」
「反抗期ってやつー?」
パーチェがルカの言葉に尋ねた。
本人が聞いたら怒るであろう。
「2人でいると、話してくれるのに……みんなでいるとデビトは怖い」
「…………。」
「……」
ルカとパーチェが顔を見合わせた。
「あーなるほど」
「あのデビトがねぇ……」
パーチェの納得に、ルカの笑み。
ユエはパーチェの背中で首をかしげて彼の肩を揺する。
「ねぇ、なあに?なんか隠してるの?」
「なぁんにも」
よいしょ。っとパーチェがユエを背中から降ろした。
「デビトの反感を買うのはやめておかないとね」
「?」
パーチェが自分を降ろす時に言った言葉の意味は、わからなかった。
「それよりユエ、セナくんは元気ですか?」
「セナ?」
ルカが話をガラリと変えて、彼女に尋ねる。
ユエは思考を巡らせたが、特に彼の異常は見当たらなかった。
「元気だよ?」
「そうですか……」
「なんで?」
子供特有の“なんでなんで攻撃”にルカが苦戦しつつ、そこは笑って流した。
同時に廊下にあった振り子時計が7時の鐘を響かせる。
「あ、いけない、マンマに呼ばれてるからあたし行くね!」
鐘を聞くなり、ユエが駆けだせば、ルカとパーチェは手を振ってそれを見送った。
「“元気”……ですか」
「……」
ルカがユエが残したセナの様子を繰り返す。
パーチェも顔をしかめた。
「でも、病院から何度も出てくるところオレ見てるよ」
「えぇ……私もです」
2人はユエが駆けて行った方向を見つめて立ち尽くした…。
「体のことならまだしも……」
そう、気にしていたのは体ではない。
彼が目撃されていた掛かりつけの病院が問題だったのだ。
「心のことだとしたら……」
◇◆◇◆◇
「もぉ……マンマめ……」
呼び出されたのはたくさんの本を渡すためだったらしく、マンマはそれを“宿題”と題していた。
語学、文化、生物。
中にはジョーリィが読んでいたような錬金術のものもある。
もちろん、物語のようなものも見えたが、こんなに大量に読み切るには時間がかかりそうだ。
「つかれたぁ……」
大量の本を運んで腕がしびれてきた所だ。
目の前で、腕の中で高い塔を造っていたその本の半分が浮いた。
「え……」
そのまますーっと運ばれていく本を見て、ユエがにやりと笑う。
「えいっ!」
「な……」
そこに“居る”であろう物体に突進すれば、案の定、本が揺れた。
「デビト!」
「ちっ……せっかく運んでやってンだから、そんな挨拶の仕方ねェだろォ?」
「いちいち隠れないでよ」
姿を見せたデビトにユエがにっこり笑う。
その笑顔を見て、デビトも少しだけ表情を緩めた。
「デビトも一緒に読む?」
「遠慮しておく。お子様用の本はごめんだァ」
「また子供扱いする!」
「ガキだろ」
空いている片手で、デビトがユエの頭をポン、と撫でた。
「レガーロ美人には程遠いなァ」
「な……!?」
ユエが顔を赤くして前を行くデビトに再び突進した。
デビトは2人の時だと話してくれる。
なのにルカやパーチェの前だと、口を聞くどころかだんだん不機嫌になっていって、必ずその場からいなくなってしまう。
「(いつもこうならいいのに……)」
微笑みを見せてくれた彼の顔を横目で見ながら、ユエはそんなことを思っていた。