21. L Appeso
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誰もがそこで勃発していたケンカのような言い争いに、動きを止めていた。
そしてそれが今、解決へと導かれた……―――。
12年、ユエはこの時のために時間を費やした。
大きなものも失った。
大事な人を、大事な気持ち、そして……
「セナ、どいゆうつもりだ?お前が寝返るなんて……」
「ロベルト様……っ」
「そのままの意味だ」
潰れかけた喉を押さえながら、ユエが振り返る。
真正面にロベルト、その奥にはフェリチータ、ノヴァ、ダンテ、リベルタ…。
自分の左後ろ側には、ジョーリィが横腹を抑えて立ち上がったのも確認できた。
「お前の野望もここまで」
「ほお……。ユエ、お前が私を止めるか…」
ロベルトが笑う。
「だが、お前に私は止められない」
「……」
「ここにいる者、もちろんお前のフェノメナキネシスの力を含め、私は全ての“能力”を知っている」
セナが立ちつくし、黙り込んだ…。
ロベルトの力の原理を、セナは理解しているのである。
「大アルカナを契約している全ての者が、どのような力を見せ、効果を発揮するのか」
「……」
「この研究資料が教えてくれたのだ」
指示しだされたのは、ジョーリィが長年研究し、保管して来た資料そのもの。
背後でジョーリィが殺気立たせているのが感じられる。
「ロベルト様の能力は、賢者の石の影響で与えられた時間を、契約した悪魔に渡して、特殊な能力や攻撃から身を守るもの……。そして、一部をコピーすることができるの」
「悪魔と契約、ね」
「発動条件は、自分が所有する時間が悪魔が求める分だけあること。そして……」
ロベルト。
彼もまた健常ではない。
自分と同じ、異常の持ち主……。
「相手の力を知っている事」
その条件を聞いて、ユエが顔色を変えた。
「―――なるほど。世の中、確かにそんなうまくできてないもんだね」
「え……?」
「全部の力を無効化させるなら、勝ち目はないけれど」
鎖鎌で戦っても、相手はアルカナファミリアの力をコピーしている。
勝機は難しいだろう。
だが……
「あたしの力を知らないなら、ダメだよね」
「ユエ……?」
ルカもパーチェも“え……”と声を漏らす。
デビトも怪訝そうな表情を見せた。
「お前……」
「無駄に奴が手駒を使ってスリや恐喝を繰り返していたのは、あたしの力を見るためでしょ」
「うん……」
セナが答えた。
ユエの中の推測は確信へ変わった。
「フェノメナキネシスは、術者の実力によって扱える物や量、時間が変わってくる。それを防ぐために、レガーロであたしを見てた」
「……」
「でも、あたしは伝えたはずだ」
ユエが凛として、鎖鎌を携えながら、ロベルトを視界に捕えた。
「“お前たちが望む力は使わない”って」
21. L Appeso
ユエの言葉の真意を未だ掴み切れていないようで、ロベルトが顔に疑問を見せている。
ユエはそれに答えることはなかった。
「何を言っている。貴様の力は十分に見せてもらった」
「……」
「お前の力はタロッコなどと契約をしているものではないからな……。体質上、扱える力だ。コピーは出来ないが防ぐことはできる」
その言葉を聞き、溜息をつきながらユエが呆れた態度をとる。
それが気に入らなかったようだ。
「何が言いたい」
「“お前、自分の力を過信しすぎだぜ?”」
「!」
「アンタの部下……?海底の洞窟で、あたしにそんな風に言ってきたよ」
「だからどうした」
「それと同じ」
ユエの表情は、真っ直ぐだった。
それを後ろから覗かせるセナが、惑いを見せる。
見ていられないという顔で、視線を背けたが……―――
「セナ」
「!」
ルカが、セナの小さな肩に触れて言った。
「見ててあげてください」
「……っ」
「あなたのために歩んだ12年です」
「お前、記憶が……―――」
セナの問いかけに、ルカが苦笑する。
「どうして……忘れていたんでしょうか……。自分と同じ血を通わせる、彼女のことを……」
「……」
「思い出しました。幼い日々、ユエが私にどれだけセナのことを話していたか……」
ルカが切ない瞳で視線をユエに向ける。
「ルカ……思い出したの…?ユエに関する記憶……」
「えぇ」
「俺は……」
「オレもさっぱりだよ……?」
デビトとパーチェがルカに確認したが、彼は今度こそ否定はしなかった。
「ユエは……いました。私たちの中に」
「まさか……」
「本当に……?」
ルカが言い切るので、さすがに今回はないがしろに出来なかった。
その本人は、ロベルトに嘲笑いを見せた後、呟いた。
「賢者の石。錬金術師の間で流れた伝説の賜物」
「あぁ」
「どうやって手にしたのか知らないけど、それでキマイラが生成されている」
ユエは知っていたのだ。
12年、ただセナを……キマイラを探すために行動して来たのだから。
「あたしの知り合いにも、トラに化ける錬金術師がいる」
「トラ……?」
「だが、そいつはタロッコでも賢者の石で造られたキマイラでもない」
「……」
「賢者の石は、この世にいくつもない。キマイラを造る時に錬成された動物と人間は拒絶反応を起こして、人間が必ず“時間切れ”となり、壊死する」
ジョーリィが“よく知っていたな”という顔でユエの後ろ姿を見つめていた。
「それを補ったのが、賢者の石」
「ほお……。思っていたより博識のようだな」
「賢者の石の“永久的な時間”をアンタから拡散させて錬成の時間を伸ばした……。それでセナの中にキマイラが生まれたんだ」
どうやら彼女が立てた仮説に間違いはなかったようだ。
そして、ユエが知りたいのはここから先……―――。
「キマイラを持続させるために、お前の賢者の石は力をセナに拡散させてる」
「……」
「その力が切れるとセナの中のキマイラはどうなる」
ロベルトが目を見開いた。
「お前が実験の時に与えた時間は、セナの寿命を延ばすもの。そして錬成が成功してから拡散させている“時間”はキマイラを持続させるもの……。なら、セナの“寿命”の方には影響はない」
ユエの言葉を聞いて、ジョーリィが息を止めた。
彼女がここから何をするのか、読めたのだ。
「やめろ、ユエ」
「だったら、壊しても何にも問題ないよね」
ユエが言い切った。
それを聞いて、ロベルトが動きを止めたが……
「くくくっ……ハハハッ……」
両手を広げて嘲笑い始める。
それもそうだ。
ユエの力は彼にバレていて、防がれてしまう。
それに……
「永久的の時間を与えるこの石を壊す?」
「…」
「それはお前が永遠を手に入れ、破壊をし続けなければ基づかない。不可能だ」
「だから……」
「!」
ユエが睨みを利かせて、ロベルトに告げた。
「あたしの何をわかってて、そんなことが言えるんだ」