18. Pietra filosofale
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「戻ったのか、セナ」
「…っ、…はぁ…はぁ…」
光を放ち、その獣の姿からセナは人間へと戻る…。
同時に、彼女が降り立ったのはデビトが捕えられていた牢から程近い、隠れた、古ぼけた屋敷だった。
そこで待っていたのは、もちろんロベルトだ。
「どうだ、久しぶりの飛行は?」
「ぐっ…」
その胸元を抑え込み、セナが倒れかける。
反動で抱えていたデビトとパーチェが床に音を立てて転がった。
「おやおや……随分と無茶をしたようだね」
落ちついてさながら他人事という空気は変えずに、ロベルトがセナの状態を見下ろした。
「石にヒビが入っているね」
「……っ」
「今、変えてあげよう」
ロベルトが背を向けて、ある部屋の方へと歩き出した。
セナはその背について行くことも、見上げることも出来なかったが、彼の呟いた言葉は聞き取れていた。
「時期、ここに君の“親友”が来るだろうね…」
「く……っ」
「その時、君が万全の力で彼女を殺せるように」
「ロベルト……様……ッ」
「そのために…ユエをおびき寄せるために、連れて帰ったのだろう?」
先を行っていたロベルトが振り返り、倒れているルカ、デビト、パーチェを見つめた…。
「彼女は君と幼馴染……どちらを取るのだろうね…?」
不吉に魅せられた笑顔は、もはやユエの前に1度現れた彼ではなかった…。
18. Pietra filosofale
「退けッッ!!」
ものすごい剣幕で、道を封じていたダンテとリベルタを弾く者がそこにいた。
「落ちつけユエ!!」
「落ちついてられるかこのハゲ!!」
ダンテの制止の声も聞かずに、ユエがルペタの屋敷へと乗り込もうとしている。
それを何とか止めていたのは、ハゲ呼ばわりされたダンテと、状況がいまいち掴めていないリベルタだった。
「ハ…ッ!?」
「邪魔をするなッ!!」
ハゲと言われたことにショックを受けつつ、ダンテがきちんとユエの腕を掴んで彼女を留める。
その部屋……――幹部長執務室にいたのは、ダンテ、リベルタ、ノヴァ、フェリチータ、ジョーリィ、そして暴れているユエ。
腕を押さえられて、どこへも行けないユエは今にも鎖鎌を抜き出しそうな勢いだ。
「落ちつけお子様」
ジョーリィが前に出つつ、ユエの視線を合わせるために彼女の顎に手を当てる。
「触るなッ、ハゲもいい加減放せ!!」
「いい加減にするのはお前だユエ!!でないと、「でないと何だッ!!殺すか!?やってみろ!!」
ユエの目は半分パニックだった。
その理由が、フェリチータには痛いほどわかった。
攫われたのは幼馴染。
そして攫ったのは、ずっと探していた相手。
どうしていいかわからないのだろう。
リベルタとノヴァも、ユエの焦りは伝わっていたようで、今の彼女が誰の話も聞かない…聞けない状態であることは理解出来た。
バタバタと未だ暴れる彼女に、ジョーリィがうちポケットから小瓶を取りだす。
同時にもう1度、ユエの顎を抑え込み、彼女の口にそれを半ば無理やり流し込んだ。
「んっ!!!?」
拒絶はしたものの、反射的に飲みこんでしまったそれ。
同時に心臓が跳ねあがり、脚、腕、体から力が抜けていってしまう。
「…っ」
がくり…と倒れ込む彼女をジョーリィが抱え込む。
ダンテがようやく手を放し、ジョーリィの相変わらずのやり方に溜息をついた。
「ジョーリィ、何を飲ませた……?」
「緊張を緩和し、力を抜く薬だ……」
文句など言わせん。という面でジョーリィが笑う。
「20分程で元に戻る。どうということはない」
ジョーリィがユエを抱え込み、部屋を出て行こうとする。
ダンテがどうするかを尋ねた。
「ジョーリィ、どうするんだ」
「ルペタの狙いはわかっている。屋敷に赴き……私の箱の中身を取り戻す」
「ユエは……―――」
「この娘は置いていく」
「ユエ……」
力なく、ジョーリィを睨むことしかできなかった。
ダンテがリベルタやノヴァに準備しろ。と伝え、2人も一度部屋を出ていく。
フェリチータは、連れて行かれるユエの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
「……」
◇◆◇◆◇
ジョーリィは、ユエを部屋に戻し、手錠で彼女を縛り上げた。
このまま付いてこられても、ユエは暴走するだけでだ。
それを見越しての行動だった。
もちろん、体は動かないのでなすがまま。
「放せ……っ」
「…」
「ジョーリィ…ッッ!!」
「ユエ」
すっ……と、ジョーリィがその叫びをあげていたユエの唇に、指を這わせた。
「…っ」
「お前は、母親に似ている……」
「……」
「娘であるということはいうのはよくわかるが、本当にそっくりだ」
ジョーリィが少し懐かしいという顔で、彼女の紅色の瞳を見詰めた…。
「迷いを見せない色だ」
ユエの髪を掬いあげ、ジョーリィが弄ぶ。
「あの女を愛おしいと思ったのは一度きりだ」
「だから捨てたんだ?」
「…」
「母さんは……ジョーリィを待ってただろうに」
「……」
ジョーリィが立ち上がる。
ユエの薬の効果が切れる前に立ち去ろうと、背を向けた。
今はその話をしている暇はないとでもいうようだ。
「その色を、2度も失う必要はあるまい」
パタン…と閉じられた扉。
ユエは近くにあったチェストを蹴りあげた。
悔しい。
目に見える、わかる場所に探していたものがある。
助けたい人物がいる。
自分の無力さで、連れていかれてしまった大事な人を…
「こんな所にいても……」
守れない……―――。
◇◆◇◆◇
「お前は優秀な子だ……」
ついにサファイアの鍵を手に入れてしまったロベルトが、セナの治療を施してから、箱を前にする。
目の前には同じ宝石が埋め込まれた箱と鍵。
一見シンプルに見えるが、その中身が一番彼にとって重要なもの……――。
「コレがあれば…キマイラは更に生産性を増し、そしてタロッコの力の秘密を知る…―――」
ガチャン…と重みのある音がして、箱は開かれた。
ロベルトの背後では、身なりを整えたセナがその光景を黙って見ていた。
その表情は、ユエに再会する前より、明らかに曇っていた…。
「思った通りだ……」
開かれた箱の中から資料を取りだし、息もする瞬間さえも惜しいという風にロベルトは一気に読み上げた…。
「愚者、皇帝、恋人たち、正義、隠者、運命の輪、力、死神、節制、塔、月、審判、世界……」
読み上げたのは、現在契約者が確認できているタロッコの名前。
それを見て、くつくつと笑いだすロベルト。
「そうか、そんなにいたのか……。だがこの資料1枚で全てのアルカナファミリアの大アルカナは私に効力を成さなくなる!!」
「…」
黙って事のあり様を見つめるセナ。
彼女はロベルトの力を知っている。
彼もまた……ただの人間ではないのだ。
ただの人間が、こんな人を率いて思うように相手を駒扱いできるはずがない。
「バカなジョーリィめ……!!私に殺される日など、夢にも見なかっただろう!!」
声をあげて笑い続けるロベルト。
セナが視線を背後で捕えている3人に向けた。
3人の周りには淡い光と縦にエネルギーのようなものが流れる回路ができている。
「アルカナファミリア……ね」