17. Chimaira
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋の外に1つの気配を感じた。
それと同じくノック音。
今、この部屋の主は不在であるために帰って来たのだと思った。
「ジョーリィ……!」
エルモは寝ないで待ってた彼の姿が見えると信じていた。
しかし、そこに現れたのは…―――
「こんばんは。エルモくん」
「メイドの…おねえさん…?」
破壊を、始めよう。
17. Chimaira
温かく触れられた気がした。
優しい声で、自分を呼んでいた気もする。
何故だ…と考えながら、その時は意識は睡魔に乗っ取られ覚醒することはなかった。
だがしばらくして、ふと隣のスペースが空いていることに違和感を感じて、目を覚ます…。
「ユエ……」
名を呼んだが、そこに姿はなかった。
デビトはそのはだけたシャツのまま体を起こし、立ち上がる。
部屋の中を探したが、姿がない。
とても疲れているように見えたのだが、大丈夫だったのだろうか。
謎が多いままでは気に喰わないので、起きたら色々聞き出すつもりでいた。
お手洗いかと思ったのだが、隣のシーツの感触は既に冷たかった。
「ルカ、パーチェ」
そこで――何故だが――寝ていたルカとパーチェに声をかける。
ルカに関しては、はっ!と肩を揺らしてすぐ起きた。
眠ってしまってましたか…と呟いたが、眠りについてから3時間は経っているだろう。
示す時計の針は間もなく4時を迎える…。
「おはようございます、デビト」
昨日は一体何があったのですか…?と言いかけた所で、デビトが遮った。
「ユエ見たか?」
「え?ユエですか?」
見てませんけど…と続けて、確かに自分がここに来た時はデビトの隣で気絶していた少女の姿がないことに気づく。
「どこ行きやがった……」
ルカもそのシーツに触れたが、体温はない。
ユエにルカがかけてやったタオルケットもデビトにかけられていた。
「部屋に戻られたのでしょうか……?」
見てきますね。そうルカが扉に手をかけた時だ。
――バァァァァァン…!!
「!?」
「爆発音……!?」
館に地響きが起きる程の爆音が鳴り響く。
マーサが調理を始めるには時間も早いし、まず音がしたのは厨房とは逆の方向。
なにより、彼女が料理で失敗をするはずないし、したとしても爆発はさせないだろう…。
どちらかというと…――
「ジョーリィの実験室の方向ですね」
「おいパーチェ起きろ!!」
「んがー……まだ食べる……」
「どんな夢みてやがる…こっちが凭れそーだ」
デビトがパーチェの見ているラザニアの夢に呆れて、彼を蹴る。
うねり声をあげて、パーチェも目を擦って起きあがった。
「ん~……もう朝ぁ……?」
「あの爆音で起きないなんて……」
「テメーの脳は何聞きわけてんだァ?」
2人が呆れつつパーチェを見たが、今はなごんだ場面とやりとりをしている暇はない。
そんなことをしている間に、2度目の爆音が聞こえた。
「え、なんの音?」
「行くぞパーチェ」
デビトがパーチェを覚醒させて、服を直し、眼帯を素早く取りつけて部屋を出た。
「デビト……っ」
「ルカちゃんは従者らしく仕事してなァ!」
「待ってよデビトっ!」
ルカの横を2人が抜けていく。
従者の仕事……フェルの所へ行けという意味であることは容易く理解できた。
「はい…っ!」
帽子をきっちり被り、フェリチータの部屋へとルカは駆けだした…。
デビトとパーチェがジョーリィの研究室に着くまでにも、凄まじい爆音が何度か聞こえた。
これは実験などではなく、誰かが暴れているとしか思えない。
「チッ…」
「ねぇデビト!何が起きてるのぉ…!?」
「知ってたら苦労しねェ!!」
パーチェの問いにも立ち止まることなく呟いて、2人はジョーリィの研究室のある地下の階段前へとやってきた。
と、そこで大きくスペースを取り、存在したのは…―――
「!?」
「な…」
目を疑った。
「なんだ…あれ……」
ライオンの頭。
山羊の胴体。
そしてペガサスの翼に、蛇の尾…。
ギリシャ神話に出てくる…“キメラ”、または“キマイラ”と称される…―――。
「う、嘘でしょ…」
「ンなわけねェ…」
この目がきちんと見えていればだがな、と自嘲するが夢ではないようだ。
そしてそのキマイラの口にサファイアの鍵がくわえられているのが見えるならば、夢であってはたまるものか。
「デビト!!サファイアの鍵が…!」
パーチェが指差せば、その底光りするライオンの視線がこちらを捕える。
そしてキラリ…と輝くのはサファイアの装飾が付いた、盗まれた箱を開ける鍵…。
「ちっ…」
デビトが舌打ちをかまして、そのホルスターから――監禁されていた所から救出された時、ユエが一緒に回収してくれた――拳銃を取りだした。
「っらぁぁぁぁ!!!!」
キマイラ向けてその銃を乱射するが、相手の猛獣はビクともしないという顔してこちらに突っ込んでくる。
やばい…と一定の距離を越えてきた獣に、デビトが銃を止めた。
同時にパーチェが前に出る。
「ポルチトゥット・トゥラバッサーレ!!」
「パーチェ…ッ」
「止まれぇぇ!!」
突っ込んできたキマイラをパーチェが真正面から受け止める。
ギラリと光る牙が目の前に見えるにも関わらず、パーチェは怯まなかった。
これなら!!と思い、デビトが後ろに回り込んで銃を構えた。
「パーチェ動くなッ」
「んががががぁぁぁぁ!!!」
銃声を何発か鳴らした所で、キマイラの尾…大蛇の動ける範囲に入ってしまったらしく、蛇によってその拳銃が弾かれてしまった。
「なっ、こいつ…ッ」
キマイラは別の生き物と合成してつくられた生き物とされている。
ライオンの意識がパーチェに集中していたとしても、大蛇はデビトへ向けることができるのだ。
「デビト…ッ」
銃声が止んだことから、パーチェが彼を気にかけた時だ。
同時にライオンの前足が、パーチェを捕えた。
「うああッ」
「パーチェ!!」
前足に弾かれて、壁に背中を強く打ってしまったパーチェ。
呼吸もうまく出来なくなるくらいの打撃だったらしく、そのまま俯いてしまった…。
あとで始末できると考えたキマイラが今度はデビトに向けて、その牙と爪でデビトの方へ振り返った。
「な…ッ!」
パーチェと同じく壁に弾かれ、サファイアの鍵を口にしたキマイラが2人に近付く。
どちらも気を失ったのを確認して、器用にその背中にデビトとパーチェを乗せて、運んで行く…。
その翼をはためかせた時だ。
淡い光と共に、ナイフが飛んできたのを獣は見逃さなかった。
翼の動きを止め、視線でとらえればそこにルカとフェリチータの姿。