16. Mistero
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この力を、このあたしが使うのはあまり良くない。
わかっていたけれど、どうしても…使わなければと思った。
まさかあの館で使うなんて思ってもいなかったし、それがバレれば大事だ。
不自然どころの話ではない。
下手したらドロボウ扱いされて捕まるかもしれない。
それでも譲れないものがあった。
「デビトさん、これもお願いします」
「あぁ。にしても多いなァ?メリエラたちにコキ使われてるのか?」
鼻にかけて笑うデビトの姿と、その横を行く笑顔のメイド…セレナ。
セレナはこの前、館の新たな使用人としてやってきたばかりだ。
あの屈託ない笑顔と、親しみやすさで、デビトに接近したことは容易くわかった。
デビトも、――この可愛い少女との時間を――まんざらでもないという顔をしていた。
だが、ふと、彼は思い出したようにセレナに告げた。
「…っと、もうこんな時間か」
「あ、用事ありますか?」
「まぁ、アンタとの買い物に比べると野暮用だなァ?」
「ふふっ、デビトさんったら」
その振りまく笑顔と、華やかな雰囲気がデビトの後ろ髪を引いたが、今日は幹部の会議。
さすがにサボるわけにもいなかい。
「荷物は先に持っていくゼ。帰り道に気をつけろよ、シニョリーナ」
「ありがとうございます」
そのままデビトの背を見送ったが、セレナはデビトが角を曲がり姿を消した時に不吉な笑みを浮かべて呟いた。
「追え。アイツの力は厄介だ」
「はい」
「かしこまりました」
「暴漢スプレーでも浴びせてやりな」
ふふふっと笑ったセレナ…――。
デビトの後を追い、島民を装った男が彼に近付き、声をかけた。
「あの…アルカナファミリアの方ですか?」
「あぁ?」
振り返った彼に、男は腰を低くして訪ねた。
「ここへの行き方を知りたいのですが…」
そう言って取りだした地図を示す。
デビトがめんどくさいと思いつつ、聖杯にでも回すか…と一応地図を覗きこんだ瞬間だ。
「バカが」
「なっ…!?」
言われた通りの指令で、うちポケットからスプレーを取りだし、顔面からそれを浴びせる。
「テメ…っ」
「アルカナファミリアもちょろいもんだな」
「くっ……―――」
男を最後。
デビトは意識を手放した……。
意識を集中させ、見せられた景色の通り、進めばそこには案の定捕まったデビトの姿。
この力に間違いはまずあり得ない。
だからそこ、どれだけ自分の体力がもつかにかかっている。
今回は助けられたからよかったものの…。
ユエは夢の中で、浅く覚めた意識を持てあまし、そんなことを考えていた…。
16.Mistero
浮上してしまった意識は仕方ない。
そのまま体を起こせば、時間はデビトを助けた後…。
つまり、自分が力を使って、デビトを救出できたことを語っていた。
いや、帰りは彼が背負って来てくれたのだろう。
自分に意識があった覚えはない。
起きた所で視線をあちこちに見渡せば、ここが自分の部屋でないことがわかった。
時刻はまだ夜中。
陽など姿形もないので、恐らくここへ戻ってからまだ時間はそこまで経っていないだろう。
「(戻ってこれたんだ…)」
明らかに知らないであろう場所に閉じ込められていたのだ。
帰りに役立つようにと目印にしてあった鎖が功を奏したのだろう。
さて、ここはどこだろうということを確認しようと更に視線を動かす。
体を支えていた手を動かした時、何かに触れた。
そのまま視線をそこへ落とせば……―――。
「!」
恐らく自分を抱えて帰って来たこと、そして捕えられていたことから疲労し、そのまま寝てしまったのだろう。
デビトがシャツの姿のままそこで静かに寝息を立てていた。
条件反射的なもので、顔が赤くなる。
焦りながらもユエ何もかかっていなかったその体に、自分にかかっていたタオルケットをかけ返すのだった。
「(なんでこんな至近距離で寝てるの……っ)」
外された眼帯。
そして、めんどくさいという風に投げ捨てられた上着とネクタイ。
窓の外から入り込む月明かりは、その光景をユエを焦らせ、そして赤面させるには十分だった。
「(確かに部屋の鍵は閉めちゃったから、部屋に帰せなかったにしても……)」
運んでもらって文句は言えないが。
はぁぁぁー……と深く溜息をついたユエ。
するとどこからか、デビト以外の寝息…しかも結構大きなものが聞こえてくる。
少し見にくかったが、そこにはソファーで豪快に寝ているパーチェ――いびきの犯人は彼――と、その横で窮屈そうに寝ていたルカ。
「2人とも……」
心配していたことは知っている。
自分がすごい剣幕で探せと言った後も、きっと探していたのだろう。
2人も服がぐちゃぐちゃになるにも関わらず、そのまま寝てしまっていた。
「はは…」
心が少し、温かくなる。
この光景を…3人の寝顔を知っているユエからすると、とても懐かしかった。
「…」
静かに目を閉じて、最近の自分を思い返す。
卑屈になったり、めげたり、誰かに八つ当たりしても、何も進まない。
時間こそ戻せないが、変わらないもの、変わったものをこの館でユエはちゃんと見つけられた。
「12年だもん……」
ルカが命を懸ける“お嬢様”の従者になり、未だそれを全うしていたこと。
パーチェのラザニア好きも相変わらず、そして背は予想を遥に超え、高くなっていたこと。
デビトの優しさが変わらないことは嬉しかったが、島中のシニョリーナが狙うほどいい男になったこと。
知らない部分があるのは、悔しいけれど、変わらない部分を見つけられたことが…何より嬉しかった。
「それでいい……」
自分は彼らの中にはいない。
だが、自分が覚えているし、ここでもう1度…複雑な立ち位置ではあるが関われた。
それだけで、言ってしまえば満足だ。
「デビト」
今日の眠りは深いようで、うなされてもいないし、顔色もいい。
転がっている指先に触れてから、自分がつけた頬の傷をなぞった。
「ありがとう」
彼はかくれんぼが得意だった。
そりゃもう、探しだすのが大変なくらい。
だけど、同時にそのままいなくなってしまったら…という恐怖があった。
そんな話を自分がこのレガーロから旅立つ前…まだ彼がユエを覚えている時にしたことがある。
【バカだろ】
そう一蹴にされ、笑われたのを覚えている。
笑顔の中に“ここにいる”と言ってくれたこと。
彼はその頃から変わらずに優しい。
もう一度静かに瞳を閉じて、何かを決意したように開く。
「行くね」
音を立てずに、そこから抜け出して、扉を閉めた。
ルカとパーチェも気付かなかったようで、誰にも確認されずにいなくなることに成功した。
扉を閉めて、安堵のため息を1度つく。
しかし、背後の気配に気を張った。
「こんな夜中にどこ行くのですか?」
「そっちこそ、こんな夜中にまた誘拐でもする気?」
振り返れば、いつもと同じ……むせ返るくらいの笑顔。
印象的なアメジスト。
「なんのことですか?」