15. Si prega di maledirmi impotente
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15. Si prega di maledirmi impotente
本当に強い人ってどんな人でしょう。
きっと、笑顔で何もかも守り抜いてしまう人。
本当に優しい人ってどんな人でしょう。
見て見ぬフリをせずに、どんなにキツイことであっても相手を思って怒れること。
本当は脆い人ってどんな人でしょう。
「……」
それは…―――
「ユエ…っ」
心を隠して、生きていく人のこと。
何も思わず、呼ばれたので振り返った。
そこには少し気まずそうにしたデビトの姿があった。
「…なに?」
突き止めるでもなく、責めるでもなく。
ユエは何の感情も込めずに尋ねた。
あまりにもあっけなかったので、デビトも少し拍子抜けしてしまう。
「…」
そうして心がどんどん冷えていくのがわかる。
冷たい人間。
自覚はあった。
話してあげればいいものを。
自分も楽になるのにそれをしない。
そうすることで、彼女は真っ直ぐに一直線に向かわせる糧になっていた。
「…なんでもないの?」
近付いて、その顔を覗きこむ。
微笑んではやらなかったが、デビトが表情を無くした。
「なんでもないなら行くけど」
もっと…哀しい表情をすると思っていたデビトだったが、ユエはあまりにも普通だった。
「それと、この前は叩いてごめん」
なんの気持ちも込めないで伝えた謝罪に、デビトが顔をしかめる。
それを見届けもしないで、ユエは顔をそむけて歩き出す。
デビトは、追いかけることができなかった。
「ちっ…」
一体自分は何がしたかったのだろうと思った。
追いかけて、呼びとめて、何も言えないなんて自分らしくない。
舌打ちをしてから、ユエと逆方向を向き、俯いて歩き出した瞬間。
「ケンカですか?」
「っ、」
下から覗きこまれる形でデビトを見上げていたアメジストの瞳。
1歩仰け反って立ち止まると、ユエ程ではないが小柄なメイドがいた。
「アンタは…」
「セレナです」
昨日紹介された、メリエラが回復するまでの期間で雇われたメイドだ。
そのアメジストの瞳がとても印象的な、レガーロ美人。
…いや、美人というよりはどちらかというと“可愛い”に入る。
「ユエさんとケンカですか?」
「ケンカじゃァねェ」
「そうなんですかぁ?」
目をまんまるにして、ぱちぱちさせたそれは幼い印象を受ける。
歩いて行ったユエの後ろ姿をまた見つめながら、セレナが呟いた。
「デビトさんっ」
「あ?」
「ちょっとお手伝いしていただきたいんですけど、いいですか?」
機嫌はあまりよくなかったが、デビトは間を置いてから笑った。
「セレナみたいな美人の手伝いなら、大歓迎だゼ?」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
にこっと喜んで、自然な動作で、セレナはデビトの手を取った。
「じゃあ…ついてきてくれますか?」
◇◆◇◆◇
自室で寝るしかなかった。
もうだめだ。
ここにいると、自分が押しつぶされる。
「あたし…こんな弱かったんだ」
哀しいという顔などではなく、横になりながら枕を抱えて呟くユエ。
どちらかというと、自分自身に呆れているのだという言い草。
「わかってたはずなのに」
目を閉じて、眠ろうと心掛けた。
もう考えても無駄だ。
「……ここを出よう」
そして目的を達成し、楽になろう。
ルペタを倒して、キマイラを探して…――。
「…」
ジョーリィの言葉が甦る。
錬成されたものは…――。
「なんのために……」
腹部を押さえた。
宛がわれた手の先が一瞬光ったような気がした。
「……セナ…、」
帰る場所なんてない。
あたしを覚えている人間なんて、いない…。
それでも……
「……」
◇◆◇◆◇
ぱちっと目がさめた時。
既に真夜中だった。
最近、こんな生活に慣れてしまったせいか、生活リズムがとても崩れている。
もう明日にでもここを出ようと決めたユエが、体を起こした時、廊下の先が騒がしいことに気付いた。
「…?」
ガチャリ、とドアを開けた時、目の前にルカとパーチェが立っていた。
いかにも2人には“ギクリっ”という効果音が似合っている。
「や、やあ…ユエ」
「…」
パーチェの挨拶に、ユエは警戒するような目線で彼を見上げた。
ユエが部屋に入られては――不自然なものが多すぎるため――困ると判断して、扉を閉め、廊下へ出た。
2人は顔を見合わせて、明らかに戸惑っている。
それは昼間の発言からだろう。
「なに」
進まない用件に、苛立ちを覚えて2人に言い放つ。
2人は肩をビクリと反応させてから、小さく呟いた。
「デビト…」
「は?」
「デビト…来てませんか?」
控えめに尋ねてきた質問に思わず出た態度。
パーチェがついにルカの背中を押して、説明して!と空気で訴える。
「…」
そのちまちました態度に、ユエが言い切った。
「来てないけど」
先に結論を述べてしまい、2人が予想外というように表情を変えた。
「え?」
「来てないんですか?」
「来るわけないでしょ」
ルカとパーチェの顔色が変わる。
それを感じ取ったユエが、パーチェの手を掴んだ。
「デビトがどうしたの?」
「!」
その意志で触れられたのは、初めてだった。
いきなり電流のようなものが逆流したような感覚。
痛いとかではない。
その瞬間に、1つの光景が甦った。
【パーチェ兄ちゃんっ】
「へ?」
「へ?じゃなくて」
確かに、ユエの声でそう呼ばれた。
パーチェが空耳?と思っている間に、ルカが説明を始める。
「今日のお昼頃…デビトがユエを訪ねませんでしたか?」
「……」
ルカが焦りを見せ始めたのがわかった。
昼頃…と言われて、廊下で会ったことを思い出す。
「…廊下で呼びとめられたけど」
「それから?」
「それからって……一言二言はなして、別れたけど」
「デビトがそこからどこ行ったか知らない?」
やっと現実に戻って来たパーチェが、ユエに掴みかかる勢いで確認をしてきた。
身を引いてから、首を振る。
「知らない」
「デビト…」
「一体どこ行ったんだろ…」
「…見つかんないの?」
いやな予感がした。
胸騒ぎがする…。
「デビトがふらっといなくなるのは、いつものことなんだけど…」
「今日は午後から大事な幹部同士の会議がありました」
「さすがのデビトもそれをサボることなんてなかったのに、今日は最後まで来なくて…」
「…っ」
ドンッと2人を押しのけて、ユエが駆けだした。
「あ、ちょ、ユエ!」
「どこを探したの!?」
「え?」
「館は全部回ったの!?」
「え、あ、うん」
ユエが自分の家のように、どこか目指して走りだしたのを追ってルカとパーチェも走りだす。
「嘘言えっ!もっとちゃんと探せ!」
「さ、探しましたよっ!?」
「デビトは隠れることに関して天才なんだよ!?」
そこわかってんの!?と叫んだユエに、ルカとパーチェが走りながら顔を見合わせた。