14. Ametista e Tugtupite
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「オイ、見たかよアイツ…」
「キモチワリー」
「触るとビリビリするんだぜ」
「化け物じゃん」
「…」
町を歩けば、化け物扱い。
物心ついた時から、自分には不思議な力が備わっていた。
あたしの母親と父親は、あたしを産んだ翌年に事故で亡くなった。
身寄りのなかったあたしは、唯一の肉親だと言われていた“兄”の元へ引き取られるためにレガーロ島に連れてこられたのが、ここでの生活の始まりだった。
「…っ、」
探していた兄は、見つからなかった。
10歳、年が離れている。
手掛かりはそれだけ。
あとは名前も顔もわからない。
相手もきっとあたしのことを知らなかっただろう。
妹が、まさか自分を訪ねてくることも。
町を探しまわったけれど、兄は見つからない。
そして何より、自分に備わった力を…この時は制御がうまくできなかった。
静電気を常に放出し、火に近付けば発火する。
水にいたってはそこまで恐ろしいことはなかったけれど、願うだけで噴水の水すら自由に扱えることがこの島の子供に伝わるのに、時間はかからなかった。
……何件か、実際に被害を出しているのも自覚していた。
一緒についてきてくれた……この人とどうゆう関係だったかも、顔も名前も覚えていないけれど、その人ももう呆れていた。
そして諦めていた。
こいつに兄はいない、と。
近くに居ても疎まれ、自分も化け物扱いされるということからだろう。
ある日、気づいたらあたしは1人で宿にいた。
目が覚めたら、誰もいなかった。
お金もない。
土地勘もない。
どうしようもない。
泣くしかないけれど、そこにいることも1日しか許されずに途方に暮れた。
この力のせい…そうとしか思えない。
自分を置いて行った両親を憎んだ。
なんで誰も守ってくれないんだと。
「あ、静電気女ー」
「なんかお前クセェ!!」
「う…っ…うぅ…」
ただ泣くだけ。
石を投げられ、笑われても、言い返すほど気が強くなかった。
「お前なんでこんなトコいんだよ」
「そーだよ、化け物は化け物のとこ行け!」
「痛い…やめてよ…っ!」
傷だらけにされ、そこに水をかけられる。
ずぶ濡れになり、その地へ滴った水が自分の意志で渦巻き始める。
「出たな、化け物―っ!」
また石を投げ始める子供達。
これの繰り返し。
きっと自分はもうすぐ死ぬんだ。
なんのために生まれてきたのかすらわからない。
どうして自分だけ―――。
そう妬んでいた。
君が現れるまでは。
「やめろバカ!!」
「うわ、ケンカ大将だ!」
「逃げろーっ!!」
立ち去ったあたしをいじめていた子たち。
そこに残っていたのは、君だけ。
あの時、あたしの世界は変わった。
「だいじょうぶ?」
アメジスト色した綺麗な紫の瞳。
あたしの赤なのかピンクなのか、わかんない色とは違う、綺麗な紫…。
短くて、綺麗な金髪。
リベルタより色が濃かった。
「…うぅぅ…っ」
ぶわっと涙があふれて、止まらなかった。
身なりが汚くて、体もあちこちに傷つくった子を、君は逃げずに頭を撫でてくれた。
その手で…。
「僕と一緒にいればだいじょうぶだよ!」
「……っ…ひっく…」
「だから泣かないで」
「…ほんと?」
「うん、ほんとっ!」
にこって笑ってくれた笑顔。
「僕が君を守るから」
その日、あたしは生まれたんだよ…。
14. Ametista e Tugtupite
「……」
「だいじょうぶ?」
かけられた言葉は、懐かしい幻想と同じものだった。
ユエはそのまま目をぼーっと開けて、反応をしなかった。
「おじょーさん、わかるー?」
「大丈夫ですか、ユエ?」
目の前には幼馴染…――といっても相手は自分をそうとは認識していないが――ルカとパーチェの姿があった。
「ユエ、目覚めた!?」
その向こうからフェリチータが駆けてくる…気がする。
…えっと……、なにが起きているのだろうか?
「ユエ、お風呂でのぼせてたんだよ?」
「…………。」
全然…、覚えていない。
目をぱちぱちして、ここがどこだかを確認する。
……フェリチータの、部屋?
「…いま、なんじ…?」
「昼の10時です」
「……」
昨日は色々ありすぎて、つかれてお風呂に入らずに寝てしまった。
それで朝入ろうと思って、入浴していて……眠気に襲われて…。
…あぁ、なるほど。
「うん、思いだした…」
ぼーっと自分に呆れながら呟くと、フェリチータが溜息をついた。
「よかったぁ…」
「…」
懐かしい夢を見ていた気がする。
とても紫色が印象的な夢を……。
ふと、近くにあった紫を凝視してしまった。
「…?えーと…ユエ?」
ぼーっと目の前にいたルカの瞳を穴があくほど見つめる。
ルカがあたふたし始めて、彼女も見るのをやめた。
「あ、気がつかれましたか?よかったです」
ふと、聞きなれない声が届いて振り返れば、そこには昨日この館にやってきた使用人…セレナ。
「セレナさんが発見してくれたんだよ」
「大事にならなくてよかったです」
にっこり笑ってくれた彼女…セレナの瞳が、目についた。
「似てる…」
「え?」
ぽろっとこぼれた本音。
それを聞き逃さなかったフェリチータ、ルカ、パーチェ。
条件反射で聞き返してしまった。
「似てる…?」
あ…、と繕うようにユエは目を逸らして
「なんでもない」
と誤魔化した。
立ち上がり、ユエは部屋へ戻る帰路を辿る。
「ごめん、ありがとう」
「あ、ちょっとユエ…」
そのままフラフラ歩いて行ってしまったユエに、フェリチータが後を追う。
ルカとパーチェが顔を見合わせた。
「セレナさんもありがとうね」
「いえ、お気になさらず」
パーチェのお礼にセレナが笑う。
この屈託のない笑顔は、メイドの中でピカイチと言ってもいいほどだ。
さて、ルカとパーチェも行こうか。という時…セレナが声をかけてきた。
「ユエさんって……いつもあんな感じなのですか?」
「え?」
セレナが未だにユエが消えた方向を眺めている。
「いつも…」
「うーん…そうだね、よく1人でいるね」
「1人で…?」
「まぁ、でもいい子だよ。お礼もきっちり言える子だし」
パーチェが全面的に支援したユエに、ルカが戸惑う。
それはユエの人格とかの問題ではなく、ルカの中にある疑念のせいだ。
「……そうなんですか」
セレナが笑った。
しかし、アメジストの瞳の奥が意味ありげに揺れた。
それを見逃さなかったのは…ルカ。
「―――……」
【あたし、ルカちゃんの目の色すき】
【目?】
【うん。キレイな色……】
【そうかなぁ?】
【うん】
靄が一瞬晴れる。
【セナと同じ色っ】
晴れた隙間から、目の前にいたメイドに負けないくらい屈託なく笑った……タグトゥパイトーー紅色――の瞳が見えた。
「ユエ…」
「へ?ルカちゃん?」
パーチェが立ち去ったセレナの背を見ながら、うわごとに呟いた。
パーチェが“ルカちゃんも意識ある~?”という風に手をふらふら振ってくる。
「……パーチェ」
「ん?」
「今から少し、確認したいことがあるのですが…」
「確認?」