12. Conservazione
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ユエのために開かれた快気祝いも終盤にさしかかり、紅茶やエスプレッソなどを口にしながらドルチェを楽しんでいた時だ。
「自己紹介はしたけどさ。まだユエのこと、よく知らないよな」
「そりゃ、2週間前に偶然といっていい形で出会ったんだ。当然だろう」
「そーだけど」
ふと、リベルタが問いかける。
ノヴァは当り前だ。という顔をしたが、素朴な疑問は止まらないようだ。
今日はルカが特別にリモーネパイを――今日は全員に、4分の1を配布できるくらい――作ってくれた。
それを頬張りながら、リベルタはユエに視線を送る。
「はーん、なるほどなァ」
そんなリベルタにニタニタした視線を投げかけたのは、デビト。
「それはお前なりのストレートな“お前のことが知りたい”ってアピールか?」
「なっ…」
「随分と積極的になったものだな」
顔を赤く染めて、リベルタが反論しようとしたが遮ってダンテが笑う。
そのやり取りに、フェリチータがじゃあ、と切り出した。
「ユエに質問」
フェリチータが切りだすまで、当の本人はリモーネパイに夢中だったらしく、話自体を聞いていなかったようで。
フェリチータに呼ばれて初めてリモーネパイから顔をあげた。
「ん?」
12. Conservazione
よほどリモーネパイに感動していたらしく、あげた顔はいつもより少し無邪気に輝いていた気がした。
フェリチータがそれを見て微笑む。
「ユエって私達とそんなに年も変わらないと思うけど、いくつなの?」
フェリチータがフォークを動かす手を止めて首をかしげた。
対してそのフォークを持つ手は止めているものの、“どこから食べていいかわからない”という意味でその手を止めていたユエが、今更?と思いながら答えた。
「19」
「あ、やっぱり年上か」
リベルタがその雰囲気に年上だということは感じていたが、そんなに変わらないという事実を知って言う。
ノヴァからしてみれば、4つも違うので相当なものだが、彼がしっかりしているせいか、あまり差は感じてはいないだろう。
ユエとノヴァの身長は、同じくらいであるので尚更だ。
「随分とレガーロに詳しいみたいだけど、レガーロ出身?」
続けて投げかけた問い。
だが、それを受け止めた時、ユエの少しだけゆらゆらと彷徨って揺れていたフォークが、完全に動きを止めた。
「あ、それとも他国から来たとかか?」
リベルタがリモーネパイを半分口に突っ込みながら更に尋ねる。
ユエは一瞬、その顔から表情を消してから、笑った。
「うん、まぁそんなとこ」
「へぇ」
デビトやルカもその話に耳を傾け、頷いた。
「レガーロへは観光に?あ、よかったらラ・ザーニアが美味しいベスト3のお店を教えようか?」
目をキラキラさせて案内する気満々のパーチェに、ユエが苦笑いを浮かべた。
唯一、話を聞いてはいるものの、ダンテは黙ってユエを見つめているだけであった。
「ありがとう。でも、観光ではないかな」
本人でも目的はわからない。というような雰囲気だった。
最後の語尾がそれを語っている。
「確かに観光客が事件解決したりはしないよな」
「それにしてはイシスレガーロの近くの裏道を、よく扱いこなせたなァ」
デビトが関心という名の探りを入れる顔で見てくるのでユエは誤魔化したように笑った。
「そうです、あの辺は入り組んだ裏路地ですからね」
「そーそ!オレも未だに迷ったりするよー?」
「それはお前が頭の半分以上をラザニアで埋め尽くしてるからだろ」
ルカとデビトとパーチェがそれぞれこの島のことを教えてくれた。
イシスレガーロの裏道をはじめ、フィオーレ通りのこと、バール、リストランテ、港。
もちろん、港に関してはリベルタの方が詳しかったし、フィオーレ通りの店や馬車が通る時刻などはノヴァの方が把握はしていた。
「で、ユエの出身地はどこなんだよ?」
ふとリベルタが、深い意味を考えたりせずに放った言葉に、ユエが全身を硬直させた。
「そうそう、どんな子供時代を過ごしたの?」
パーチェとリベルタが身を乗り出しそうな勢いで投げかける。
ユエの心臓はドクン…と飛び出しそうなくらい跳ねあがった。
「どんなって、ふつうだよ。ふつう」
「好きな奴とかいたのか?」
にっこり笑った彼女。
リベルタが矢継ぎ早にまた繰り出す攻撃。
ダンテは葉巻の灰を灰皿に落とし、その光景に様子を見る。
「うーん、どうかな?」
その時だ。
とくん…とフェリチータの胸元が音をたてて、紅色の瞳の彼女の心を捕らえた。
張りつくくらいの笑顔を見せたユエの心はざわついている。
[…不自然………苦しい]
「ユエ……?」
[ここにいれれば……幸せなのに]
馴染んだかのように見えたユエだったが、その張りついた笑顔に違う念が湧く。
何かを必死に隠している気がする…。
「そんな昔のこと、忘れちゃった」
初対面とは違う、にこにこした印象にファミリーは好印象を抱いたようでリベルタやパーチェはそのまま話に喰い入っている。
ここでいつもは、“ユエが困っているでしょう!”と言ってくれるであろうルカは、再び違和感を感じて、ユエの方を凝視していた。
【ルカちゃん……死なないで……】
【……】
【ルカぁぁ…っ!!】
「(泣く女の子……?)」
違和感の中には声以外にも感じることがあった。
脳内に何かが甦りそうな気がする。
靄がかかっており、はっきりと思い出すことはできない。
あと少しで……なにかがルカには見えそうだった。
対してフェリチータは、ユエの心がまた悲鳴をあげているのに気付いたので、どうにかしたいと動こうとした。
だが、どうしたらいいかがわからない。
一体何が苦しいのかも。
とりあえず、話題を変えようとしたその時だ。
「ユエ」
グイッとその腕を掴んで、彼女を立たせたのはダンテだった。
「!?」
「なんだよダンテ」
いきなりのダンテの行動に、リベルタも頭に?を見せた。
デビトはリモーネパイを運んだフォークをそのまま、ダンテを見つめる。
「そろそろ薬の処方が必要な時間だ」
「え?」
「ユエの傷、まだよくならないのか?」
「銃弾を喰らったんだ。まだ時間はかかるだろう」
リベルタの優しい気遣いも、ノヴァが一蹴する。
ダンテはそのままユエを連れて、食堂を出ていこうとするが今度は本人が困る番だった。
「だ、ダンテ……」
「その痛み止めが切れると、また暫く寝床生活だぞ。お嬢さんが心配するだろう」
フェリチータの方を一瞬見たダンテが、“さ、部屋に戻れ”というニュアンスで言う。
「部屋まで送ろう」
ダンテがそのまま、――半ば無理やりに背中を押して――ユエを食堂から連れ出した。
「なんだぁ?ダンテのやつ」
「ダンテもユエと話したかったのかな?」
リベルタとパーチェが呑気にそんなこと言いながら、既に見えない背中に“ブォナノッテ!”と呟いた。
「……」
フェリチータは連れていかれてしまった背中に、戸惑いがあったのを見逃さなかった。
「ユエ……」
◇◆◇◆◇
食堂から角を3回曲がり、誰もいない…そして誰にも聞こえないことを確認をしたうえで、ユエはダンテに掴まれていた腕を弾いた。
「薬の処方は終わってる……っ」
「あぁ、知っているさ」
「ならどうして……」
「ユエ」
ガッと振り返ったダンテが、ユエの顎に手を当て、囁いた。
「“力を抜き、警戒を解け”」
「!!!」
やられた…っという顔で、ユエはみるみるうちに立っているのが辛くなった。
どんどん力が抜けていく。
ダンテのアルカナ能力だ。
「ずるい……!」
悔しいという顔で睨んだが、目の前の男は切ない笑顔を見せるだけだった。