09. Un corpo speciale
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「ロベルト様」
「あぁ。報告しろ」
夜が更ける時刻。
ユエの前に現れたルペタのロベルトの元には、海底の洞窟の様子を見に行っていた部下が戻ってきていた。
「海底の洞窟にてユエ、アルカナファミリア両名と交戦。ユエとファミリーの者1名が、洞窟内の足場が崩れ、水底に落ちたのを確認しました」
「鍵はどうした」
「ユエと共に……。現在捜索中です」
ワインを楽しみつつ、両手サイドに女性を携えた状態のロベルトが静かに立ち上がる。
「これでは私に従おうとしていたのか、いまいのか……。解りかねるな」
「いかかがいたしましょう?」
弄んでいたワインを置き、その窓から見える沈みへ向かう月を見やる…。
「捜索を続けたまえ」
「心得ました」
「あの娘は今後の研究にも必要なのだからな……」
09. Un corpo speciale
ガンッッ!!という音が脳内に広がったのは、幾分か前に気付いていた。
次に覚えたのは痛み。
衝撃の強さに身体が言うことを利かなかった。
しばらくそのままでいたが、強烈な痛みに目を開けることができなかった。
「……っ」
ここまで痛いのはいつぶりだろうか?
死にかけた、何年か前の事件以来だろう。
痛みに少し慣れた頃にようやく目を開き、視覚が働く。
しかし、脳がまだぼーっとしているため、見えている景色がなんだがわからない。
丸い石の庭にいるみたいだ。
次になんとか動かせた指先。
聴覚が拾ったのは波の音。
感覚は下半身だけが海水に浸かっているのがわかった。
どうやらここは浜辺のようだ。
ようやく働き出した脳が教えてくれる。
だが、浜辺にしては光がほとんど見えず、ただの浜辺ではないらしい。
「……、う……」
口の中がしょっぱい。
理由を考える前に、自分は今波打ち際で倒れていることがわかる。
波は寄せては返し、勢いが余るとユエの口の中に海水は容赦なく侵入してくる。
「…デビト……、」
一緒に崩壊に巻き込まれた人物がいたことを思い出し、目を利かせるため起きあがる。
が…
「~~~~~ッッ!!!」
同時に声を上げられないくらいの痛み。
苦しいと思い身体を縮こませた。
しばらくそのまま丸くなり、落ちついてから今度はゆっくり動きだす。
鉛のような重い脚を引きずり、波打ち際からおさらばして、石の浜辺に座り込んだ。
「ん……」
動きが鈍い身体。
ちゃんと見てやれば、引きずって来た脚から血が流れていた。
目を波打ち際に戻すと、自分が浸かっていた場所は真っ赤だった。
――そりゃ、海水以上にしょっぱい訳だ。
「あーあ……」
溜息をつき、呆れた。
触れたポケットに違和感を覚え、手を突っ込めばサファイアの鍵。
「あほらし……」
段々と思考が回りだす。
――同時に血が足りないせいで、ぼーっともしたが――崩壊に巻き込まれ、海底に繋がる洞窟からその“海底”に落とされたことを悟った。
恐らくそこを目撃していたアルカナファミリアの連中は、探しに来るだろう。
時間はかかるかもしれないが、助かることは間違いない。
こんなところだけ他責か、とユエは自らを嘲笑いながら出血箇所を確かめた。
横腹と、右脚。
どちらも落下したせいというより、エルモを守る時に受けた銃弾のかすり傷のようだ。
弾は体内に侵入することもなく、運はあったと言ってもいい。
「―――……使うしかないか」
ユエはこのままでは動けないということから、その腹と脚に手を当てて、瞼を閉じた……。
緩やかに、そして鮮やかな光が彼女を包み込んだ……―――。
「う……」
ぱちぱち、と火が燃える音がする。
微かに温かい感覚。
木漏れ陽に似たようなものを覚えて、デビトは目を覚ました。
「あァ……?」
音源を辿ると、近くに焚き火が起こされていた。
見える炎は大きくはなかったが、確実にその冷えた体温を上昇させた。
だが、辺りに人の気配はない。
「ここは……―――」
ジョーリィの部屋から盗まれた箱を探してた時、ノヴァの情報で海底の洞窟に行き、賊を相手にして……―――。
「落ちたんだなァ……そういや」
軽い脳震盪だけで済んだデビトは、頭痛が残るだけで、ケガ自体はどこもなかった。
自分の上着は火の近くで干されていた。
頭が高いと思えば、その下には恐らく一緒に落ちた女の上着。
既に乾いており、濡れてはいなかった。
「……」
起きあがれば、その火の元から少し奥に小道が出来ているのがわかる。
微かだが、感覚を研ぎ澄ませば、そちらに蠢く気配を感じた。
立ち上がり、シャツの姿のままデビトも小道へ向かう。
月光に照らされた道を抜けると、開けた場所ではあった。
しかし、レガーロの街並みに戻れる道は閉ざされており、ここから館へ帰れそうにはない。
空洞になり空が覗けるその場所で、運命共同体となった女は手の平を空に向けて掲げていた。
ぽわん……と光が集まり、真っ直ぐに空へと伸びる。
光は強い光源となり、自然界にはない規律性を持ったまま天に伸び続ける。
一度は消え、また光を伸ばし、また消える。
救難信号のようなそれに、デビトは違和感を覚えた。
「オイ」
呼ばれた彼女は、信号の送信をやめて振り返る。
「起きた?」
呑気に目を合わせずに尋ねてきたユエに、デビトは苛立ちを少し感じた。
まるでなんともないというような仕草。
彼女はケガをしているはずだ。
エルモを庇い、銃口から逃れられなかったシーンを目撃しているのにケロッとしているなんて、ありえない。
だが、ケガは確かに………見当たらなかった。
「なンだよ、それ」
「モールス信号」
「そーゆー意味じゃねェ……」
距離を詰め、小柄な彼女を見下ろした。
「誰でも出来るワザじゃないだろ」
「そうだね」
依然、目を合わせてくれることなくユエは自身の掌を見つめていた。
光を生み出していたいた源は、ユエの意志で閉ざされ、やがて消えた。
「人間じゃないんじゃない?」
しれっと言い返すユエに、デビトは黙る。
それ以上聞くな、と言われたようだった。
「乾いたみたいだね」
デビトの立ち姿をようやく見たユエが顔色1つ変えずに言う。
あの炎も、ユエがやったのだろうと察したデビトが頷いた。
「おかげでなァ」
自分の横を抜けて炎の場所へ戻ろうとする彼女。
どうも他のシニョリーナよりやりにくい空気に“あの”デビトが少し戸惑った。
炎の元まで戻ると、その火の近くに腰かけたユエ。
デビトも続いたが、距離は悠にある場所だった。
彼女も上着は羽織っておらず、白いシャツと特殊な襞がついたズボンのようなスカートのようなもののみ身に纏っていた。
「救難信号は上げたから、そのうち誰か助けに来るよ」
「こんな海底の楽園にか?」
ハッと笑ったデビトに、ユエは隠そうとしてもその疲れを隠し切れない表情で言う。
「それはアルカナファミリアでの、あんたのポジション次第じゃないの。日頃からファミリーを大切にしてれば、誰かしら探しに来るでしょ」
「手厳しいなァ?ユエ……だっけか」
デビトが調子を取り戻そうと、あえて女性を口説くような熱い視線を送って見せる。
「気の強い女は嫌いじゃねェ」
が、ユエは興味なさそうに次の言葉を吐き捨てた。
「他の女と一緒にしないで」
膝をたたみ、その上に頭を乗せてユエは溜息をついた。
随分疲れているらしい。
デビトがその姿に異変を感じる。
……なにかが、おかしい。
「オイ、大丈夫か……?」
立ち上がり、その小柄な背に手を伸ばした瞬間、弾き返された。
「…っ、さわらないで」
垣間見えた表情は苦しそうなものであり、顔も真っ青だった。
先程から目を合わせないのはそのためか。
「顔色悪いゼ」
「こうゆう体質……っ」
「海底の底で顔が真っ青になる体質かァ?」
ヒャハハっとバカにしたように笑ったデビトが、その腕を引いた。
「っ…!?」