08. perso
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ……はぁ……!」
暗くて、寒い。
鼻につく匂いは潮の匂い、そして湿度。
ここが海にどれだけ近いかを感じさせた。
「オイ、あのガキどこ行きやがった!」
「そんな遠くには行けないはずだ」
背後からは複数の男の声。
自然と恐怖感が湧く。
どうして自分が狙われているのか、当の本人はわかっていなかった。
「ジョーリィ……っ」
その手には、サファイアの鍵が握られていた……。
08. perso
「ダメだ、見つからなかった」
港で不審船が出航したかどうかなどの確認に追われていたリベルタが、館に戻ってくるなり食堂で告げた。
そこでは、フェリチータ、ルカ、デビト、パーチェ、ダンテが食事という雰囲気ではなく、重たく、深刻な空気が流れていた。
「そうですか……」
「チッ、あの錬金ジジイの失態のおかげだなァ」
デビトが皮肉に吐き捨てた。
誰も庇うことのできない言葉に、その場が強く静まりかえる。
「ダメで済むことではない。俺はもう一度町へ行く」
ダンテが立ち上がり、その場から立ち去った。
彼も事件後、ずっと街を走りまわっているのだ。
疲れているに違いない。
「ノヴァもまだ粘っているようですし……」
「私も、もう一度探してみる」
フェリチータも席を立ち、扉から出ていこうとする。
パーチェも夕食としてラザニアを食べに戻って来ただけであったようで、フェリチータについていこうと席を立った。
「ったく、当の本人はどこ行きやがった」
動く気がないといでも言うように、デビトは席に座ったまま吐きだした。
ルカも重い空気に耐えられないようだ。
リベルタが出ていったフェリチータを見て、置いてあった水を一杯飲み干し、後を追う。
「お嬢が行くなら、俺が休んでられねぇ!」
気合いを入れて、リベルタもその戦いに名を上げようとした時だ。
フェリチータとパーチェが出ていこうとした扉を、勢いよく蒼の少年が破り、現れた。
「情報だ…!」
「え!?」
息を荒げながら放った言葉には、進展の報告。
「海岸沿いで、サファイア装飾がついた箱を持っていたという男を目撃したという情報があった」
「海岸沿い……!」
「しかもそいつらは、錠を開ける鍵を持つ少年を狙っている。少年は海底に繋がる洞窟に逃げていったとの目撃情報もあった」
「鍵を持つ少年?賊が鍵も一緒に盗んだんじゃないのか」
「よし、行こう!」
「海底に繋がる洞窟へ向かう!」
ノヴァが率先して来た道を戻るので、仕方ないという形でデビトを含む、その場全員が洞窟へと向かいだした。
入れ替わるように食堂へ現れたジョーリィは、先程の話を耳に入れ、その少年が誰だかが想像がついた。
「エルモ……」
ジョーリィは一同の背を見送り、食堂から再び研究室へと踵を返した。
◇◆◇◆◇
「はぁ……はぁ……ッ」
歩き疲れた足は、既に言うことをきかなくなっていた。
子供の体力、まして細腕などでは賊から逃げ切る力は残っていない。
暗い洞窟の中を随分と奥まで来てしまったが、果たしてこの事態にジョーリィは気付いているのかと、エルモは不安を覚える。
「う……ジョーリィ……」
涙があふれ出しそうになるのを必死に堪える。
ここで泣けば相手に気付かれ、思うツボだ。
エルモの手には、興味本位で持ちだしてしまったサファイアの鍵が握られていた。
この鍵を太陽に照らした時、サファイアはさらに輝くのだろうと期待をしてしまい、好奇心故に庭に持ちだした。
そのまま街の子供達と遊びに行ってしまったために、エルモと共に研究室から離れた鍵。
ちょうどそこへ賊が入ったので、運がよかったと言えばそうかもしれないが、結果エルモが今狙われることになってしまった。
むやみやたらにサファイアの鍵を見せびらかすものでなかったと、後悔をしている所だ。
「……っ」
ぎゅう…と、その鍵を無くさないように、そして悪い人に渡さないように握り、大きな岩陰に息をひそめる。
足音が再び近付いてきていた。
「おぼっちゃーん……」
「怖いことはしないから出ておいでー?」
「さっきも言ったように俺達、その鍵が欲しいだけなんだよ~?」
3人の男達が自分を宥めるように、ネコナデ声を出している。
彼と同じくらいの別の子供であれば、出ていってしまうだろう。
ただ、彼は“エルモ”だ。
あのジョーリィが創りあげた子供。
賢さであれば、同じ年代の子に負けるはずもない。
なるべく小さく、なるべく息を止めて…―――。
今までにないくらいの緊張に、音も立てずに涙が流れた。
「!」
その時、男が大きな岩陰から伸びる影の存在に気づいてしまった。
「オイ、あれ」
にやにやしながら、別の方向を向いていた仲間に男が指差す。
確認をして笑いがら踏み出した。
「みぃつけた!!!」
「っ…!!」
エルモが男に気付かれ、ナイフを向けられ、痛みを覚悟した時…―――風を裂く音がした。
次の瞬間、
「ぐはッ!!」
「な、なんだお前……ッ」
エルモを傷つけようとしていた男の顔面が、鎖によって弾き飛ばされた。
唸り声をあげながら、彼はエルモの後ろの石壁に叩きつけられて気を失う。
見送った視線を元に戻せば、見覚えのある姿。
「教会のおねえさん……?」
間に合ったという顔で、残り2人の前に立ったのはユエだった。
顔が確認できるくらい明るくなっていたのは、あたり一面に炎が立ち込めていた。
湿気ばかりのこの空間で、一体どこから炎が生み出されたのか、エルモには理解できなかった。
まるでユエの意志のように燃え盛っている。
「なんだコレ……!?」
ユエが今度は右手を翳す。
エルモがその手に注目すると同時に、パチっと静電気のような音がした。
幻聴や幻覚ではない。
また、小さく雷が落ちる…。
「大人が寄ってたかって子供をいじめるなんて、情けない」
ぱちぱち……とライトな音から、確実にバチバチと痛々しいものに代わり、纏う雷の量も多くなる。
「な、なんだお前ッ!?」
「錬金術師か!?」
2人の男が身を退く。
ユエが鼻にかけて、笑った。
「残念ながらあたし、錬金ジジイの血は継いてないのでそんな大したワザは使えないけども……」
これ以上ないほど大きくなった雷がついに落とされた。
「こーゆー体質なもんでね」
ギャァァァァァアアという悲鳴と同時に、爆音に近いものが洞窟中に響き渡る。
ましてや水分が多い、海底に繋がる洞窟だ。
洞窟内に電気が一瞬通った気がした。
エルモもその肌に、静電気に似たものを感じ取る。
当り前だが、この大きな技を喰らって、あくまで一般人の彼らが正気を保てるはずもなく。
エルモを狙っていた彼らはそろってその場に倒れ込んだ。