OTHER
あ、やだな。行儀が悪いや。
大きな口を開けてかぶりついたシュークリームは、歯に押されて注入用の穴からクリームが溢れて、持っていた手をべっとりと汚した。
これが自分の他に誰もいない時なら、あーあ、と思いながらすぐに舐め取れば済む話なのに、よりにもよって、よりにもよって。
見られたくない相手がいる時に限って、こんな。
「あはは……これ、クリームたっぷりで、溢れちゃった」
誤魔化すように笑ってみるけど、隣にいた少年は眉間に皺を寄せる。普段からきりりと整った顔は、ムッとしてもかっこいい。
「貸してください」
迷い無く伸ばされた彼の手は、クリームで汚れた俺の手を掴み、そのまま自分の方へ引っ張っていく。何事かと目で追っていれば、あ、え、うそ。ちょっと。
「……ん、美味しいですね」
噛み付くような勢いで、手ごとクリームを舐められた。
「く、くくちくんって、そういうことするんだ!」
「え……あっ! すみません! 嫌でしたか?!」
「いや、じゃないけど、びっくりしたあ……」
「その、豆腐のように綺麗な白のクリームがこのまま落ちてしまったらと思うと勿体なくて……断りも入れずにすみません」
「う、うん? うん……う〜ん? そこ……?」
彼の持つ、どこかズレた感覚を感じるのは初めてじゃない。でも毎回、こっちばかりドキドキさせられるのも悔しいな、と思う。
「……久々知くんの飲んでるコーヒー、一口ちょうだい」
「いいですよ。どうぞ」
「飲ませて」
「えっ」
「俺、いま手塞がってるの。飲ませて?」
首を傾げて強請ってみれば、仕方なさそうな顔をして、彼は持っていたコーヒーチェーン店のカップを差し出してくる。差さったままこちらへ向けられるストローに、やはり迷いは無いようだ。
期待はしても良いのかな。
間接キスだねって言ったら、どう思うんだろう。
少しぐらいは照れてくれるかな。
言う自分のほうが照れちゃいそうだな。
ちゅうっと吸った苦いはずのコーヒーが何故だかふわふわと甘い気がするのは、食べこぼしたシュークリームのせいなんだろうか。
250127 Xに初掲載
261004 サイトに掲載
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