MLSB

 

生まれて初めての恋をした。
奇跡の先で、好きになった相手と恋人同士になれた。

はて。なったはいいが、恋人とは一体何をするのだったか。
手を繋いだり、抱きしめ合ってキスをしたり、それ以上のことをするのが一般的ではなかっただろうか。
同じ布団で眠るのも、まあ恋人らしいことといえばそうだろうけど。
そこで身体を重ねるのでなく、寝入るための物語をせがまれるのは、果たして恋人として正しい在り方なのだろうか、とカートは思う。
遠い昔、幼い妹に絵本の読み聞かせや、拙い作り話をしてやったことはあるけれど。それは妹がカートの妹だからしたことだ。
妹以外なら、たぶん自分の子供とか。そういう庇護対象にするものなんじゃないか。少なくとも恋人だったり、自分と同じぐらいデカいサイボーグ相手にするようなものじゃないとは思うんだよな、と、ぐるぐる考えながらカートは恋人をジッと眺めた。
眺められた恋人はフルフェイスモニターに浮かぶ二つのライトをピカピカと輝かせて、まだ?とでも言いたげな表情だ。(実際に表情なんてありはしないのだが、カートにはそう見えている。惚れた者の欲目だ。)

「俺作り話とか下手いけど」
「作り話のコツはね〜実体験を混ぜることだよ」
「それリアルな嘘つくコツじゃん」
「バレた?」

額がくっつきそうなほどの近距離で光るライトが悪戯っぽく淡く揺らめく。その光を見ている内にカートは心がまろくなっていって、どこからか眠気がやってくるのだ。まるで催眠術でもかけられている気分だった。
しかし今夜は大切な恋人から寝物語をせがまれている。自分が先に眠りに落ちてしまうわけにはいかない。一度は落ちそうになった瞼をしっかと見開いて、カートは記憶をたぐり寄せた。
そうだ。物語の始まりは。



むかしむかし、あるところに一人の男の子がいました。
男の子は毎日、満足に食べるものも手に入らないためにやせっぽちで、必死で残飯を集めて食いつないで生きていました。
なのに無駄に頑丈で悪運が良かったため、死にはしませんでした。
いっそ死んでしまったほうが楽なのにな。男の子はそう思いながら、けれど進んで死ぬ気力もなく、だらだらと生き延びてしまいました。
そんなある日、すっかり大人になった男の子の前に魔法使いが現れました。
魔法使いはとにかくキラキラしていて、男の子にいろんな魔法を見せてくれました。
嬉しかった。男の子は、すっかり魔法の虜になりました。
生きててよかった。自分はきっと魔法使いに出会うために、今日まで死なないでいたんだろうと思いました。
だから男の子は、魔法使いがかけてくれた強くなれる魔法の力で、魔法使いを守ることにしました。
大切だから。命にかえても守りたくなったのです。
男の子は今も、魔法使いのことが大好きです。



「魔法使いも男の子を大好きだって」
「そうなんだ、ハッピーエンドじゃん」
「ふふ。まさか実体験100で話されると思わなかったなぁ」
「……流石にちょい恥ずくなってるわ、今」
「はー……魔法使いかぁ。あなたには俺がそう見えてるの?」

眼前の恋人からいつものちゃらけた態度が消えて、スッと真剣な声音になる。二つのライトがじっとカートの胸を刺した。
まじめな答えを求められている気がした。もとより茶化す気なんて無かったけど。

「うん。マックスはすげぇよ。俺には考えつかないプランいっぱい練ってくれるし、俺の知らなかった楽しいこともたくさん教えてくれた。マジで魔法使い」
「あなたが本当に魔法を必要としてた時にはいなかったのに」
「そんなのはいいんだよ別に。タラレバなんか考えてもどうしようもないし。大体俺がガキの頃なんてお前もガキだろ。あの頃そばにマックスが居たとしてガキにガキが救えっかよ」

無理なもんは無理だろ。とカートは笑う。
いつもならつられて笑ってくれるマックスなのに、今日ばかりはノリが悪かった。

「それでも俺、小さいあなたの魔法使いになりたかったな」

ポツンとこぼれた音は寂しそうで、拗ねていて。そして無性に温かくて。
その言葉だけで十分だし、魔法ならいま、一生分貰ってる。

カートはそう返したかったのに、鼻の奥にツンとくるものがあって。
ああ、なんだこれ、言葉になんねぇ。

ゆっくりと背に回されたマックスのなめらかな腕がポンポンとリズムを刻み出すと、すぐに睡魔が寄り添ってくる。
結局寝かし付けられるのはカートの方だった。


願わくばこの先、千の夜が去った後も、目覚めた時に見るのが隣にいるマックスでありますように。

自分だけの魔法使いに願いを込めて、カートの一夜目がはじまった。


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