第一幕
名前変更
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エヴァンズ家で働くには、少々特殊な条件がいくつかございます。
一つ、体術もしくは剣術などの戦闘能力がある事。
一つ、聴力や視力が人よりも優れている事。
一つ、見た目で筋力等が付いているように見えない体型である事。
などなど、他にも条件がございますが、これ以上話してしまいますと規約違反と見なされてしまいますので、ご容赦下さい。
そして本日、新人執事見習いとしてハルティーナお嬢様の前に立つ事を許されました。
これからはハルティーナお嬢様を主とし、仕えるようにと祖父であり、執事長でもあるドルクス様に申し付けられました。
「セバス、貴方は仕事を始めたばかりで
「はい、ドルクス様」
ドルクス様が仰りたい事は、あえて自分が緊張している風を装い、ハルティーナお嬢様がそれ以上に緊張しないように、という事なのでしょう。
人間というのは、自分よりも緊張しているものがいれば、何故か安心して行動出来るものですからね。
ハルティーナお嬢様の年齢はまだ4歳との事でしたので、そうなるかは分かりませんが…幼くとも妹や弟がいれば、姉だから兄だからと、しっかりしなければという思考になる事があると聞きますので、もしかしたら平気かもしれませんね。
そしてつい先程、我が主となるハルティーナお嬢様を拝謁させて頂きましたが、正直に言えば驚かされました。
ドルクス様の事は知ってるのは分かるのですが、まさか
確か一度だけハルティーナお嬢様にドルクス様が話したと仰ってはおりましたが、まさかその一度だけで覚えているとは思ってもおらず…
大旦那様、大奥様、そしてドルクス様も想定外だったようで、皆様大変驚かれておりました。しかも、その後はあえてこちらの方を見て
そして現在、大旦那様達の部屋を出る際にハルティーナお嬢様を抱き抱えたのですが、柔らかく羽根のように軽い。子供とはこんなにも繊細な生き物だったのかと衝撃を受けておりました。
ハルティーナお嬢様を落とさないよう慎重に抱き抱えつつ、また力を込め過ぎて骨を折らぬように細心の注意を払いながら、ハルティーナお嬢様の私室まで行きました。
「ハルティーナお嬢様、何をなさいますか?」
部屋に着くと早々にハルティーナお嬢様を下ろし、何をなさるのかを尋ねてみました。
「んー、部屋で静かに心を鍛える!」
「……は?」
お絵描きや絵本を読むという返答が返ってくるであろうと想像していたので、絵本の場合はどの絵本にしようかと思案していたところ、まさかの返答に
執事たるもの、このように言動に出てはいけないのですが…
「セバスはどうやって鍛えたの?」
「どう、と申されましても…
「セバス、嘘ついてる!エヴァンズ家で働くのには強くないとダメなんだよ?」
おや、既にどなたかにお聞きになったのでしょうか?ドルクス様からは、7歳以上になってから教えるようにと伺っておりましたが…
「セバス本当は全然緊張してないのに、ワザとそういう風に見せてたんでしょ?」
「……!」
この方には一体、何度驚かされれば良いのでしょう。
子供とは思えぬ洞察力。本当に4歳なのでしょうか?それとも俗に言う〝神童〟と呼ばれる方なのでしょうか。
「……いつからお気付きに?」
「最初から!執事はどんな時でも冷静じゃないといけないんでしょ?」
ハルティーナお嬢様は、屈託のない笑顔をされながらそう仰られましたが、執事についても存じ上げていらっしゃるとは…
「成程。最初から演技だとお気付きだったのですか…流石、ハルティーナお嬢様でございます」
「……ハル!」
「?」
唐突にご自身の愛称を言ったハルお嬢様の意図が汲み取れず、思わず首を傾げてしまいました。
「ハルティーナは長いからハルでいいの!ドルじーちゃんにも言っといて!」
「……畏まりました。ハルお嬢様」
大旦那様の部屋にいる時から、何か気にしているように見えていたのは、ご自身の愛称で呼ばれないからだったのですね。
そこは、なんとも子供らしいお考えで、思わず笑ってしまいそうになってしまいました。
「それで、セバスはどうやったの?」
おや、話が元に戻ってしまいましたね。逸らせたと思っていたのですが、どうやらハルお嬢様には、こちらの話の方が興味がおありになるようです。
「ハルお嬢様にはまだ少々…いえ、かなりショックを受けるようなやり方ですのでおすすめは出来ません」
「おすすめ出来なくても、どうやったのかぐらい教えて!」
「そう、ですね…無人島の洞窟で1ヶ月程生活しておりました」
無人島という単語に反応したのか、洞窟という単語に反応したのでしょうか。それとも日数に反応したのか。
ハルお嬢様は声にこそ出しておりませんでしたが、何言ってんだコイツ…と、言いたげな顔をしていらっしゃいました。
「自給自足で…?」
「はい」
「一人で…?」
「はい」
「……」
絶句、とはまさにこの事なのでしょう。ハルお嬢様は信じられないとでも言いたげな、いえ、他にも何か言いたげなご様子。
「…ハルには、まだ無理だね」
「ええ。ですので、おすすめは出来ませんと言ったのでございます」
そう言うと、ハルお嬢様は、ゔーんと唸りながら何かを考え始めましたが、すぐに唸るのを止めてこう仰りました。
「今は考えても思いつかないから、お菓子食べる」
「畏まりました」
やはり、まだハルお嬢様は年相応の子供なのでしょう。もしかしたら、少し背伸びをしたいお年頃なのかもしれません。
兎にも角にも、本日よりハルお嬢様を主として精一杯、最期の時まで尽くしていく所存でございます。