第一幕
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「それなら…そうだな」
祖母の横で何やら真剣に考えていた祖父がポツリ、と言葉を零す。
「ハルは今から外にも出られない程の病弱というのを表の顔にした方が良さそうだな」
「ええ、軍に属さないことを考えればその方がいいですね」
祖父の言葉に祖母も賛成の意を示し、頷いていた。
つまりこれから表の顔であるハルティーナは『病弱な深窓の令嬢』になるということだ。
私に出来るだろうか?と、唐突に不安な気持ちが込み上げてくる。
…いや、出来るかどうか出来ないじゃない。もうやるしかない。出来なければ原作改変なんて夢のまた夢なのだから。
「ハル…もしお前が錬金術や剣術、体術を学びたいのであれば、お前はこの先、一生外では遊べなくなる」
それでも本当にいいんだな?と祖父は何度も念を押す。
本来の4歳であれば遊びたがる年齢だし、イヤイヤ期だってあるだろう。
だがしかし、体こそ4歳児であるが、私の中身は27歳の大人だし、推しの為ならそんなの我慢出来る。
「大丈夫!」
にこにことしながら元気に言う私に、祖父は本当に理解しているのか不安なのだろう。眉間にシワがよっている。
「ハル、これからお前が進もうとしている道は、お前が想像しているよりもずっと苦しく険しい道だ」
普段からは想像出来ないほど険しい顔をしながら祖父は言う。何せいつもは顔面が崩壊していると言っていい程、孫にデレデレの祖父の顔をしているからだ。
多少怖い顔をすれば、諦めてくれるのではないかと考えているのだろう。
正直、前世の記憶を思い出してなければこんなことを言うこともなかった。仮に言い出したとしても、この祖父の顔を見て辞めようかな…と考え直していたかもしれない。
「……本当に、いいんだな?」
「うん!」
何度目か分からない祖父の念押しにも元気に返事をすれば、祖父もようやく折れてくれた。
「分かった…まずは〝表の顔〟を覚えなさい」
「じーちゃんありがとー!」
そう言って、ギューッと祖父に抱きついてぴょんぴょんと跳ねていると、祖父は少し呆れていたのか、それとも困っていたのかは分からないが、そんな顔をしながら私の頭を撫でた。
「細かいことはじーちゃん達が考えるからもう少し待ってなさい」
「はぁい!」
先程までは祖父に抱きついて飛び跳ねていた私は、祖父から離れて一人で、わーいわーいと飛び跳ねながら喜んでいた。
これでまた少しだけだけれど、グリードさんを救済する為の原作改変に一歩繋がった!
〝表の顔〟を早く覚えて、体術や剣術、それに錬金術について色んなことを教えてもらわないと……!
まだなにも覚えられてもいないし、始まりもしないのに今から楽しみで楽しみで仕方がない。
早く〝表の顔〟が決まって色々教えてもらいたいなぁ…!なんてことを一人で飛び跳ねながらハルは考えていた。
そんなハルを見ながら、この頑固さは誰に似たんだろうなぁ…と、祖父は盛大にため息をついた。
「あら、あの子もこんな感じでしたよ?」
「あれはもう少し……いや、あんな感じか」
少し考えてみたが、あの子の方がハルよりも頑固で一度でも口にしたら曲げない性格だった。
そう考えるとまだハルの方が幾分かマシにも見えてきたが、それでもやはり血は争えんようだ。
もし生きて帰ってきたら……いや、あの子は強い。
それにあの子の夫となったあれも妻と娘を残して逝くような愚か者ではない。必ず帰ってくるだろう。
その時には、お前の娘はお前にそっくりで敵わん、と文句でも言ってやろう。きっとこれから孫娘には、こうやって大いに振り回されるのだろうからな。
「あの子は7歳で決めましたから、ハルちゃんのがかなり早いですね」
「…これからハルは辛く苦しい思いをたくさんするだろうが、俺達で守っていこう」
「ええ、勿論です。あの子達が帰ってくる日まで、あの子達の代わりにあの子達の分まで…守りましょうね」
そんな決意を固めた祖父母のことなど露知らず、ハルは一人妄想に明け暮れていた。
ちりりん、と祖父が呼び鈴を鳴らすと燕尾服を着た老人と若者がスっと部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか、大旦那様」
「ドルクス…と、その若いのは確か……」
ドルクスは両端がはね上がった八の字形の口髭。いわゆるカイゼル髭を蓄え、眼鏡をかけた70代ぐらいの老人。彼は、祖父が子供の頃からずっと仕えてくれている執事だそうだ。
そして、先程から緊張しているのか、深呼吸を繰り返しているこの若者は、少し前に入ったばかりの新人執事見習いのセバス。確か、ドルクスの孫だと言っていた気がする。
「ドルじーちゃんの孫で、新人執事見習いのセバスだよー」
そう言って見せれば、全員が驚いたような顔でこちらを見ていた。もしかしてなにか間違えたのだろうか?
思わず、セバスの方を見ながら首を傾げれば、セバスは何度か目を瞬かせた後に、ハッと思い出したかのように口を開いた。
「は、はいっ!ハルティーナお嬢様の仰った通りでございます!」
「ハルティーナ様はとても記憶力が良いのですね、このドルクス感服致しました」
セバスは少し声を裏返しながらもビシッと背筋を伸ばして言いい、そんなセバスの後から、ドルクスはこちらを向いて、ニッコリと微笑みながらそう言って拍手をしていた。
「そうかそうか、ハルはもうこの家の人間の名前を覚えていたのか!」
「他にもメイド長のジェーンと庭師のダンと……」
指を折りながら言っていくと、ハルちゃんは凄いわねぇ〜と、祖母に頭を撫でられ思わず、えへへへ…と声が出ていた。
「ハル。すまんがじーちゃんとばーちゃんは、ドルクスと大切な話をせねばならん」
ドルクスを呼んだ、という時点でなんとなく想像はしていた。祖父がドルクスを呼ぶ時は重要な話をする時だ。
恐らく、私の〝表の顔〟について話をするのかもしれない。
先程、細かいことは祖父母が考えるからと言っていたし、第三者からの目線も欲しいのだろう。身内だけで考えてボロが出たりしたら大変だ。
「ハルのお部屋でお留守番?」
「ああ、部屋でセバスと大人しく遊んでくれるか?」
「はーい!」
そうして、私はセバスに抱っこされたまま3人に手を振り、部屋を出ていった。扉が閉まるまでみんなは、手を振り返してくれていた。
祖母の横で何やら真剣に考えていた祖父がポツリ、と言葉を零す。
「ハルは今から外にも出られない程の病弱というのを表の顔にした方が良さそうだな」
「ええ、軍に属さないことを考えればその方がいいですね」
祖父の言葉に祖母も賛成の意を示し、頷いていた。
つまりこれから表の顔であるハルティーナは『病弱な深窓の令嬢』になるということだ。
私に出来るだろうか?と、唐突に不安な気持ちが込み上げてくる。
…いや、出来るかどうか出来ないじゃない。もうやるしかない。出来なければ原作改変なんて夢のまた夢なのだから。
「ハル…もしお前が錬金術や剣術、体術を学びたいのであれば、お前はこの先、一生外では遊べなくなる」
それでも本当にいいんだな?と祖父は何度も念を押す。
本来の4歳であれば遊びたがる年齢だし、イヤイヤ期だってあるだろう。
だがしかし、体こそ4歳児であるが、私の中身は27歳の大人だし、推しの為ならそんなの我慢出来る。
「大丈夫!」
にこにことしながら元気に言う私に、祖父は本当に理解しているのか不安なのだろう。眉間にシワがよっている。
「ハル、これからお前が進もうとしている道は、お前が想像しているよりもずっと苦しく険しい道だ」
普段からは想像出来ないほど険しい顔をしながら祖父は言う。何せいつもは顔面が崩壊していると言っていい程、孫にデレデレの祖父の顔をしているからだ。
多少怖い顔をすれば、諦めてくれるのではないかと考えているのだろう。
正直、前世の記憶を思い出してなければこんなことを言うこともなかった。仮に言い出したとしても、この祖父の顔を見て辞めようかな…と考え直していたかもしれない。
「……本当に、いいんだな?」
「うん!」
何度目か分からない祖父の念押しにも元気に返事をすれば、祖父もようやく折れてくれた。
「分かった…まずは〝表の顔〟を覚えなさい」
「じーちゃんありがとー!」
そう言って、ギューッと祖父に抱きついてぴょんぴょんと跳ねていると、祖父は少し呆れていたのか、それとも困っていたのかは分からないが、そんな顔をしながら私の頭を撫でた。
「細かいことはじーちゃん達が考えるからもう少し待ってなさい」
「はぁい!」
先程までは祖父に抱きついて飛び跳ねていた私は、祖父から離れて一人で、わーいわーいと飛び跳ねながら喜んでいた。
これでまた少しだけだけれど、グリードさんを救済する為の原作改変に一歩繋がった!
〝表の顔〟を早く覚えて、体術や剣術、それに錬金術について色んなことを教えてもらわないと……!
まだなにも覚えられてもいないし、始まりもしないのに今から楽しみで楽しみで仕方がない。
早く〝表の顔〟が決まって色々教えてもらいたいなぁ…!なんてことを一人で飛び跳ねながらハルは考えていた。
そんなハルを見ながら、この頑固さは誰に似たんだろうなぁ…と、祖父は盛大にため息をついた。
「あら、あの子もこんな感じでしたよ?」
「あれはもう少し……いや、あんな感じか」
少し考えてみたが、あの子の方がハルよりも頑固で一度でも口にしたら曲げない性格だった。
そう考えるとまだハルの方が幾分かマシにも見えてきたが、それでもやはり血は争えんようだ。
もし生きて帰ってきたら……いや、あの子は強い。
それにあの子の夫となったあれも妻と娘を残して逝くような愚か者ではない。必ず帰ってくるだろう。
その時には、お前の娘はお前にそっくりで敵わん、と文句でも言ってやろう。きっとこれから孫娘には、こうやって大いに振り回されるのだろうからな。
「あの子は7歳で決めましたから、ハルちゃんのがかなり早いですね」
「…これからハルは辛く苦しい思いをたくさんするだろうが、俺達で守っていこう」
「ええ、勿論です。あの子達が帰ってくる日まで、あの子達の代わりにあの子達の分まで…守りましょうね」
そんな決意を固めた祖父母のことなど露知らず、ハルは一人妄想に明け暮れていた。
ちりりん、と祖父が呼び鈴を鳴らすと燕尾服を着た老人と若者がスっと部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか、大旦那様」
「ドルクス…と、その若いのは確か……」
ドルクスは両端がはね上がった八の字形の口髭。いわゆるカイゼル髭を蓄え、眼鏡をかけた70代ぐらいの老人。彼は、祖父が子供の頃からずっと仕えてくれている執事だそうだ。
そして、先程から緊張しているのか、深呼吸を繰り返しているこの若者は、少し前に入ったばかりの新人執事見習いのセバス。確か、ドルクスの孫だと言っていた気がする。
「ドルじーちゃんの孫で、新人執事見習いのセバスだよー」
そう言って見せれば、全員が驚いたような顔でこちらを見ていた。もしかしてなにか間違えたのだろうか?
思わず、セバスの方を見ながら首を傾げれば、セバスは何度か目を瞬かせた後に、ハッと思い出したかのように口を開いた。
「は、はいっ!ハルティーナお嬢様の仰った通りでございます!」
「ハルティーナ様はとても記憶力が良いのですね、このドルクス感服致しました」
セバスは少し声を裏返しながらもビシッと背筋を伸ばして言いい、そんなセバスの後から、ドルクスはこちらを向いて、ニッコリと微笑みながらそう言って拍手をしていた。
「そうかそうか、ハルはもうこの家の人間の名前を覚えていたのか!」
「他にもメイド長のジェーンと庭師のダンと……」
指を折りながら言っていくと、ハルちゃんは凄いわねぇ〜と、祖母に頭を撫でられ思わず、えへへへ…と声が出ていた。
「ハル。すまんがじーちゃんとばーちゃんは、ドルクスと大切な話をせねばならん」
ドルクスを呼んだ、という時点でなんとなく想像はしていた。祖父がドルクスを呼ぶ時は重要な話をする時だ。
恐らく、私の〝表の顔〟について話をするのかもしれない。
先程、細かいことは祖父母が考えるからと言っていたし、第三者からの目線も欲しいのだろう。身内だけで考えてボロが出たりしたら大変だ。
「ハルのお部屋でお留守番?」
「ああ、部屋でセバスと大人しく遊んでくれるか?」
「はーい!」
そうして、私はセバスに抱っこされたまま3人に手を振り、部屋を出ていった。扉が閉まるまでみんなは、手を振り返してくれていた。