第一幕
名前変更
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後頭部を殴打した後から、祖父母は超絶過保護になった。足元にある小石という小石を全て取らないと歩かせてくれない程だ。
正直、そこまでしてくれなくても大丈夫なのだけれど、祖父母にとっては本当に恐怖だったのだろう。
もう家族を二度と失いたくない そんな顔をしていたが、まだ両親は健在している。
しかし、イシュヴァールの内戦が生きて帰ってこれるものだとは思っていない祖父母には既に死んだも同然だったことを何年も先になってからハルは知った。
過保護になった祖父母が早くこの子も〝表の顔〟を作らないと…と呟いたことがあったのだが、表の顔とは一体なんだろう?
普通に考えれば外面を良くしろ、という話なのだろうか?疑問に思いつつも、ようやく4歳児の体力に戻った頃に祖父母に聞くことにした。
「じーちゃん、ばーちゃん」
今日も今日とて、可愛らしく子供らしい服で着飾られたハルは、ちょこんと祖父母の前に立つ
「どうしたんだ?ハル」
「どうしたの?ハルちゃん」
デレッデレの顔をしながら、新聞を読みながら珈琲を飲んでいる祖父と、にこやかにそれでいて静かに編み物をしている祖母
「ハル、錬金術と体術と剣術が習いたい」
そう言った瞬間、祖父は新聞と珈琲カップを落とし、祖母も手に持っていた編み物を落とした。
彼らの行動は、まるでこの世の終わりだと言われた気がしたが、ここで諦めるなんてことはしない。
だって夢にまで見た推しの生存ルートが出来るかもしれないのだ。絶対に諦めるワケにはいかない。
「ハル、二人みたいに強くなりたいの!」
子供のように目をキラッキラに輝かせながら言ってみせるが、未だ動揺している二人には見えてないようだ。
「ハル…ど、どうして錬金術なんて難しい言葉を知ってるんだ?」
「じーちゃんのお部屋にある本に書いてあった!」
祖父のヒュッ、と息を飲む音が聞こえたと思ったら顔面蒼白になっていた。
「ハルちゃん……体術と剣術はどうして…?」
「ばーちゃんが朝お外でシュッシュッ、ってしてたの見てた!」
祖母は態度にこそ殆ど出さなかったが、滅茶苦茶目が泳いでいる。
「お願い…!」
これでどうだ!と言わんばかりに、目をウルウルさせながら懇願してみる。いつもであればこれでいけるが、二人は首を縦には振ってくれない。
「ハル、錬金術は…うんと努力をしないと出来ないんだぞ?」
「剣術も体術も物凄く痛くて苦しい思いをしないといけないのよ?」
祖父母の顔は家族を大切にしているからこそ本気で心配しているようだった。本当に優しい家族だ。
「ハル全部頑張る!それで、じーちゃんとばーちゃん…大切な人みーんなハルが守るの!」
ウソではない。みんなを守りたいというのは本心だ。
その言葉を聞いた二人は、目から滝のように涙をドバーっと流しながら、あの時のように私を強く抱き締めていた。
「〝表の顔〟を作ってからじゃないと錬金術も体術、それから剣術も教えられん」
一度だけ二人が呟いていたあの言葉だ。
「表の顔ってなぁに?」
「む、そうか。ハルには話しておらなかったな」
「話すとしてももう少し大きくなってから、と思っていましたからね」
少し困ったような顔をしながら、二人は顔を見合わせる。
「少し難しい話になってしまうが、じーちゃんの話を聞いてくれるか?」
難しいと言えども、精神年齢27歳にとっては簡単な話のハズだ。問題ない。
「うん!」
元気に返事をするのを聞くと、祖父は私を抱きかかえて膝の上に座らせた。
「ハルは自分の名前をちゃんと言えるか?」
「名前?ハルの名前は、ハルティーナ・エヴァンズ!」
ドヤァ、としながら言ってみせると、祖父母は優しい目でこちらを見ながら頭を撫でてくれる。
「エヴァンズ家は、代々〝表と裏〟の顔を持っていてな」
「表と裏…?」
「表は他人に使う顔、裏は信頼出来る者に使う顔と使い分けている」
つまり、俳優やどこかのスパイみたいに役を演じる感じってことだろうか?
「だが、エヴァンズと言えば確実にハルは嫌な思いをする。だから、外ではエヴァンズの名前は出しちゃいかん」
「なんで嫌な思いするの?」
「……人間の皮を被った化け物、そう呼ばれているからだ」
子供に聞かせる言葉ではないと判断したからか、祖父は少し躊躇いながらもそう言った。
「ハルはこの家が国家錬金術師や軍人を出てきたのは知ってるな?」
「うん。お父さんとお母さんも軍人さんで遠くでお仕事してるんでしょ?」
「ああ、軍人として働いてる時は表の顔、つまり怖い顔で働いておってな」
じーちゃんやそのまた前のじーちゃんも、ずーっと前の人達も怖い顔で仕事してきたから、そう呼ばれるようになったんだ。と、祖父は言った。
前に私が言った通り、エヴァンズ家は国家錬金術師か軍人をどちらか必ず輩出している。
軍からすれば、軍に貢献している名家と言っても過言ではないハズだ。
それなのに、エヴァンズ家の人達はみんな表と裏を演じ分け、素を出さないようにしなければいけなかった。
それは一体、何故なのだろうか?
「なんで顔を使い分けてたの?」
「それは…まあ、誰にも舐められちゃいかん!って思って怖い顔してたんだ」
祖父はそう言っていたが、なんだか腑に落ちない。まだ私には言えない秘密がありそうだ。
「とにかく、ハルも表と裏の顔を使い分けなきゃいかん」
「ハルちゃんは軍人さんか国家錬金術師になりたい?」
軍人、国家錬金術師になりたいか。という祖母の問いに速攻で答えていいだろうか?
正直、国の為に働きたくない。だって、国の為にってことは、『フラスコの中の小人』つまり『お父様』の為に働くことになる。
国の為に働いたら自由に動けないからグリードさんに会えないし、探せないし、みんなも守れないしで全然原作改変なんて出来ないので断固拒否だ。
それに、恐らく祖父母は……私が国の為に働いて欲しいと思っていない。そうでなければ錬金術や剣術、体術を習いたいと言った時にあんな反応はしなかったハズだ。
「ハルは国家錬金術師にも軍人さんにもならないの!」
「どうして?」
予想外の答えだったのか、祖母は少し目を見開く。
「だって、遠くじゃみんなのこと守れないもん」
そう答えてみせれば、祖母はあの子に似て優しい子ね。と目を細めて微笑んでいた。
正直、そこまでしてくれなくても大丈夫なのだけれど、祖父母にとっては本当に恐怖だったのだろう。
もう家族を二度と失いたくない そんな顔をしていたが、まだ両親は健在している。
しかし、イシュヴァールの内戦が生きて帰ってこれるものだとは思っていない祖父母には既に死んだも同然だったことを何年も先になってからハルは知った。
過保護になった祖父母が早くこの子も〝表の顔〟を作らないと…と呟いたことがあったのだが、表の顔とは一体なんだろう?
普通に考えれば外面を良くしろ、という話なのだろうか?疑問に思いつつも、ようやく4歳児の体力に戻った頃に祖父母に聞くことにした。
「じーちゃん、ばーちゃん」
今日も今日とて、可愛らしく子供らしい服で着飾られたハルは、ちょこんと祖父母の前に立つ
「どうしたんだ?ハル」
「どうしたの?ハルちゃん」
デレッデレの顔をしながら、新聞を読みながら珈琲を飲んでいる祖父と、にこやかにそれでいて静かに編み物をしている祖母
「ハル、錬金術と体術と剣術が習いたい」
そう言った瞬間、祖父は新聞と珈琲カップを落とし、祖母も手に持っていた編み物を落とした。
彼らの行動は、まるでこの世の終わりだと言われた気がしたが、ここで諦めるなんてことはしない。
だって夢にまで見た推しの生存ルートが出来るかもしれないのだ。絶対に諦めるワケにはいかない。
「ハル、二人みたいに強くなりたいの!」
子供のように目をキラッキラに輝かせながら言ってみせるが、未だ動揺している二人には見えてないようだ。
「ハル…ど、どうして錬金術なんて難しい言葉を知ってるんだ?」
「じーちゃんのお部屋にある本に書いてあった!」
祖父のヒュッ、と息を飲む音が聞こえたと思ったら顔面蒼白になっていた。
「ハルちゃん……体術と剣術はどうして…?」
「ばーちゃんが朝お外でシュッシュッ、ってしてたの見てた!」
祖母は態度にこそ殆ど出さなかったが、滅茶苦茶目が泳いでいる。
「お願い…!」
これでどうだ!と言わんばかりに、目をウルウルさせながら懇願してみる。いつもであればこれでいけるが、二人は首を縦には振ってくれない。
「ハル、錬金術は…うんと努力をしないと出来ないんだぞ?」
「剣術も体術も物凄く痛くて苦しい思いをしないといけないのよ?」
祖父母の顔は家族を大切にしているからこそ本気で心配しているようだった。本当に優しい家族だ。
「ハル全部頑張る!それで、じーちゃんとばーちゃん…大切な人みーんなハルが守るの!」
ウソではない。みんなを守りたいというのは本心だ。
その言葉を聞いた二人は、目から滝のように涙をドバーっと流しながら、あの時のように私を強く抱き締めていた。
「〝表の顔〟を作ってからじゃないと錬金術も体術、それから剣術も教えられん」
一度だけ二人が呟いていたあの言葉だ。
「表の顔ってなぁに?」
「む、そうか。ハルには話しておらなかったな」
「話すとしてももう少し大きくなってから、と思っていましたからね」
少し困ったような顔をしながら、二人は顔を見合わせる。
「少し難しい話になってしまうが、じーちゃんの話を聞いてくれるか?」
難しいと言えども、精神年齢27歳にとっては簡単な話のハズだ。問題ない。
「うん!」
元気に返事をするのを聞くと、祖父は私を抱きかかえて膝の上に座らせた。
「ハルは自分の名前をちゃんと言えるか?」
「名前?ハルの名前は、ハルティーナ・エヴァンズ!」
ドヤァ、としながら言ってみせると、祖父母は優しい目でこちらを見ながら頭を撫でてくれる。
「エヴァンズ家は、代々〝表と裏〟の顔を持っていてな」
「表と裏…?」
「表は他人に使う顔、裏は信頼出来る者に使う顔と使い分けている」
つまり、俳優やどこかのスパイみたいに役を演じる感じってことだろうか?
「だが、エヴァンズと言えば確実にハルは嫌な思いをする。だから、外ではエヴァンズの名前は出しちゃいかん」
「なんで嫌な思いするの?」
「……人間の皮を被った化け物、そう呼ばれているからだ」
子供に聞かせる言葉ではないと判断したからか、祖父は少し躊躇いながらもそう言った。
「ハルはこの家が国家錬金術師や軍人を出てきたのは知ってるな?」
「うん。お父さんとお母さんも軍人さんで遠くでお仕事してるんでしょ?」
「ああ、軍人として働いてる時は表の顔、つまり怖い顔で働いておってな」
じーちゃんやそのまた前のじーちゃんも、ずーっと前の人達も怖い顔で仕事してきたから、そう呼ばれるようになったんだ。と、祖父は言った。
前に私が言った通り、エヴァンズ家は国家錬金術師か軍人をどちらか必ず輩出している。
軍からすれば、軍に貢献している名家と言っても過言ではないハズだ。
それなのに、エヴァンズ家の人達はみんな表と裏を演じ分け、素を出さないようにしなければいけなかった。
それは一体、何故なのだろうか?
「なんで顔を使い分けてたの?」
「それは…まあ、誰にも舐められちゃいかん!って思って怖い顔してたんだ」
祖父はそう言っていたが、なんだか腑に落ちない。まだ私には言えない秘密がありそうだ。
「とにかく、ハルも表と裏の顔を使い分けなきゃいかん」
「ハルちゃんは軍人さんか国家錬金術師になりたい?」
軍人、国家錬金術師になりたいか。という祖母の問いに速攻で答えていいだろうか?
正直、国の為に働きたくない。だって、国の為にってことは、『フラスコの中の小人』つまり『お父様』の為に働くことになる。
国の為に働いたら自由に動けないからグリードさんに会えないし、探せないし、みんなも守れないしで全然原作改変なんて出来ないので断固拒否だ。
それに、恐らく祖父母は……私が国の為に働いて欲しいと思っていない。そうでなければ錬金術や剣術、体術を習いたいと言った時にあんな反応はしなかったハズだ。
「ハルは国家錬金術師にも軍人さんにもならないの!」
「どうして?」
予想外の答えだったのか、祖母は少し目を見開く。
「だって、遠くじゃみんなのこと守れないもん」
そう答えてみせれば、祖母はあの子に似て優しい子ね。と目を細めて微笑んでいた。