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よろしければお礼SS↓もご覧になっていってください。月1くらいで続きを加えていきます。遠距離ものハピエン(2024.5.11更新【赤井からの手紙】)。

【電子メールの日】

『今日は電子メールの日なんだそうです。それだけです』
 これ以上思い浮かばない。言ってやりたいことは山ほどあるはずなのに。
「いいや、送信しておこう。……うわ、もう返事が来た」
『メールをありがとう。改まってとなると、何を書いたら良いかわからんものだな。だがまた送ってくれると嬉しい』
「嬉しい、か……ふふ」
 僕はそのメールを二十回ほど読んでから布団に入った。端末を握りしめたままで。
「おやすみ、赤井」
 そう呟いてから、再び画面を開いた。僕からもうひと言送った方がいいんだろうか。
 起き上がって、しばらく端末とにらめっこをしてから、ようやく送った。
『僕も何を書いたらいいのかわかりませんが、また送ります。おやすみなさい』
 何だか恥ずかしくて、送信ボタンを押してから、端末を離れたところに置いて布団を被った。
「赤井と、メールできるんだ……」
 仕事じゃなくても、間に海があっても、連絡していいんだ。嬉しい……嬉しい、嬉しい!
 あいつはまだ、僕の世界の中にいるんだ。

   ◇◇◇◇◇

「ん?またメールか。……本当に寝るんだろうな?君……」
 日本を出てから三日になる。慣れ親しんだFBIの空気に、どこか物足りなさを感じていた。そこへ遠慮がちに飛び込んできた降谷のメールは、何かの始まりかもしれない。
『暖かくして寝るんだぞ。おやすみ』
 一文字書くごとに、気持ちが明るくなる。送信ボタンを押すのは、なぜかわずかに緊張した。
 彼が起きる頃には、おはようと送ってみようか。


【もうすぐ、あの日】

『2月11日は日本では建国記念日です。世間的にはもう少し後のイベントのことで盛り上がってますけど』

 先月からポツポツと届くようになった降谷くんのメールは、いつも謎かけのようだ。言いたいことを言うまいとして、無理に固い文章に閉じ込めているように感じる。
 組織を倒してから自然と本数が減った煙草を、ゆっくりと吸う。彼は今頃、俺がこのメールを読んだかどうか、読んだとして返事が届くのかどうか、ヤキモキしているに違いない。
 日本では2月14日にチョコレートを贈るのだったな……。

『そういえばある男が、建国記念日の由来を話してくれたことがあったよ。悪の衣を纏った金色の天使だった。ところでその祝日の3日後に、郵便受けを見てくれないか。多少、日はずれるかもしれんが』

 キーを触っていたら、こんな文章が出てきた。あまりにもわかりやすくて、我ながら苦笑する。書き直すことなく送信した。
 君に贈るのは、どんなカードがいいだろうか。


【日本橋開通記念日】

『しばらく連絡できず、すまない。ちょっと潜っていてね。先月の十四日に君からの花が届いてすぐのことだった。他のものはすべて置いていったがこれは持っていったよ。今も元気に咲いている。無事済んだのはこれが守ってくれたのかもしれないと思っている。ありがとう。ところで四月三日は、日本橋の開通記念日だそうだな。雨の中の君にハッとしたのが昨日のことのようだ』

「……」
 短期の潜入を終えて自宅に戻り、やっと私用のメールを見たら、これが入っていた。言いたいことはたくさんあるが、安堵した。
 お互い、生きて戻れたこと。僕が向こうの花屋に頼んだ鉢植えを、喜んでくれたこと。連絡できず気にしていたのは僕だけではないということ。……あの時も、見守ってくれていたということ。
「あいつが、花言葉なんか調べるとは思えないけど……」
 贈ったカランコエの花言葉は、『あなたを守る』だ。メールの文面からすると、それがわかっているようでもある。何だかくすぐったい。
 それにしても、日本橋とは。
「公安案件だから下手に声をかけなかったんだろうな……」
 自分の呟きに苦笑する。いたなら声をかけてくれれば良かったのに、なんて言えるわけがない。ちょうど赤井のことを話していたしなあ。

 じわじわと、心に温かいものが広がっていく。潜入を終えて、しかもそれが同時で、人間らしい感覚が一気に押し寄せてくる。こんなのはただの勢いだ。錯覚の可能性もある。でも……気付いた時には、もう手遅れなのかもしれない。
 赤井から、二月十四日に届いたカードを眺める。簡単なメッセージとイニシャルだけのそれを、僕は肌身離さず持っている。赤井のカランコエと同じだ。他のものは置いていけても、これは無理だった。死ぬ時、最後の一瞬にも胸に抱いていたいと思ってしまった。
「何だ……とっくに答えは出てたんだな」

 カードの文面は、こうだ。
『君との新しい関係性を日々探っていくのが、楽しくてならない』
 うん、僕も楽しいよ、赤井。僕たちは、楽しいこと、嬉しいこと、存分に味わっていかないとな。生きてるんだから。

 調べてみると、今日は清水寺の日でもあるらしい。五分、考えた。それから、清水の舞台から飛び降りるつもりで返信を書いた。


【赤井からの手紙】

『安室くん、突然こんな手紙を書くことを許してほしい。俺はしばらく遠くへ行くことになった。今でも遠く離れてはいるがな。おそらく数年は会えないと思う。できればその前に一度会っておきたい。俺たちが花屋に扮した事件を覚えているか?あの時ターゲットを捕らえた場所で、○月×日の午後九時半まで待っている。今さらこんなことを言っても君を困らせるだけかもしれないが……愛している。 赤井秀一』
「……」
 ポアロのカウンターの中で、僕はこの文面をひと息に読んだ。コンビニで買える便箋と封筒。消印は三日前。指定の日は今日だ。
「マスター、これは昨日届いたものだということでしたね」
「ああ。君がちょうど今日入ってくれることになっていたんでね。昨日連絡しようかとも思ったんだが……」
「いえ、十分です」
「難しい顔をしているなあ。もしかして急用かい?」
「そうですね……」
 時計を見れば刻限にはまだ余裕があるが、急用には違いない。そこへ、カランとドアベルが鳴り、蘭さんと毛利先生が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「おう、マスター。ちょっと時間潰させてくれ」
 毛利先生は僕にも挨拶をしてくれて、コーヒーを二人分注文した。
「いいけど、何かあったのかい?」
「あの探偵ボウズがようやく事件が片付いて帰ってくるんだと。家で待ってりゃいいようなもんだが、こいつが落ち着かなくてな。家中の物を壊されちゃたまんねーから、ここなら少しはおとなしくしてるかと思ってよ」
 蘭さんは、珍しく無口で、顔を真っ赤にして俯いている。そうか、志保さんが薬が完成したと言っていたっけ。それを飲むのが今日なんだな。うまくいくといいけど。
「それは良かったねぇ。……じゃあ、どうだろう。待ってる間、ちょっと手伝ってもらえないかな。バイト代弾むよ」
「え……あ、はい」
「おいおい、いいのか?今日の蘭はそそっかしいなんてもんじゃねぇぞ」
「仕事ならちゃんとやってくれるよ。しっかり者だからね。というわけだから、安室くん」
「え?」
 マスターは僕に下手なウインクをしてみせた。
「抜けて大丈夫だよ。行ってあげなさい。君も、大事な人が待ってるみたいだからね」
 僕は彼の勘の良さに驚いて、一瞬声が出なかった。慌てて頭を下げ、エプロンを脱いだ。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。蘭さん、新一くんによろしくね」
 僕は、二度と会えないかもしれないけど。
 安室さんて新一と会ったことあったっけ……という呟きを背中に聞きながら、飛び出した。
 優しい場所が遠ざかる。欠勤遅刻早退ばかりの僕を、いやな顔ひとつせずに雇ってくれた喫茶ポアロ。おおらかな笑顔で弟子として受け入れてくれた毛利探偵事務所。事件ばかりなのに、普通の人たちが明るくたくましく生きている、温かい町。
 生きて再び、ここへ来られるだろうか。いや、命を惜しんでいる場合じゃない。
 赤井、待ってろ。僕はまだ、四月三日に送ったメールの返事を聞いていないんだからな。

『お疲れ様でした。あなたが生きていてくれて良かった。僕もあなたとの関係性を探っていくのが楽しい。だから、あなたがそう言ってくれて嬉しい。うまく言えないけど……9 12 15 22 5 25 15 21』

 子供じみた暗号。
 答えを、聞かせて。



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