マストドンBL鯖お題話

「零」
「んー?」
「ここのところ、ある問題に悩まされているんだが力を貸してくれないか」
 パソコンでデータ解析に精を出していた彼は、いくつかのキーワードに興味を引かれた様子で、ぴたりと手を止めた。ニヤッと笑い、伸びをする。
「ん~。よし、ひと休みするかあ。で?あなたが何を悩んでるって?」
 わくわくした表情を見せる。「赤井が」「ある問題」で「悩んでいる」ということが、おもしろくて嬉しくて仕方がないらしい。
「君なあ。一緒に悩んではくれないのか?」
「二人して深刻ぶったって仕方ないだろ」
「仕事のことだったらどうする」
「僕の知る限り、あなたにそんなにかわいい顔をさせる案件はない。あるとすれば……僕に関することだ」
「ホー?大した自信だな」
 実は図星なのだが、こうして彼を煽るような態度を取るのが俺の癖だ。零はいつものように、俺に腕を巻き付けてくる。
「ん、あったかい。少し寝ようかな……」
「困ったな。俺の悩みはどうなるんだ」
「一分一秒を争うことじゃないだろ」
 ふわぁ、と欠伸をしているから、眠いのは本当なのだろう。
「確かにそうだが……あと、そうだな、十二時間というところだ」
「何それ……う~ん、やっぱ寝る。腕、このままにしとけよ」
「了解」
 苦笑して快諾する。彼は目を閉じ、すやすやと寝入ってしまった。
「誕生日に何が欲しいか、聞こうと思ったんだがな……」
 当日まで、何も思いつかないまま来てしまった。付き合って初めて迎える大切な日だ。特別なことをしてやりたいと、周囲に助言を求め、自分でも調べてはみたのだが。食事に連れ出す、遠出をする、彼の好きそうなものをプレゼントする……どれでも、喜んではくれるだろう。だが、そもそも彼は今、何を欲しているのか、一度聞いてみたいと思っていた。いいチャンスだったんだが……。
「あかい……」
 誰もが聞き惚れるテノールが、かわいらしく俺の名を呼ぶ。
「ここにいるよ、零」
 空いている手で髪をなでる。探り屋バーボンがこんなにも無防備に居眠りをするとはな。
「ぼくの……」
「……ん?」
 寝言は、まだ続いているようだ。
「僕がほしい、もの……ふふっ……つかまえ……」
 軽く絡めていた腕に、力がこもる。
「……全く、君は」
 無欲というか、貪欲というか。俺の身も心も命もすべて手に入った今、ほかには何もいらないとでも言うのか。もっと甘やかしてやりたいんだがな。
「誕生日おめでとう、零」
 金髪の天使は、もう一度ふふっと笑った。
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