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note/米森

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  • ▽ 2015 03.07

    20150307(土)00:00
    第38回フリーワンライ参加作品
    お題:「あなたを思うから僕はこうするのです」
    本文は追記から。
    追記
    『貴方のことが好きよ』
     そんなことを僕に囁くわりにはふらふらと、君は他の男の所へと飛んでいったものだった。
    『貴方と一緒に生きたい』
    『貴方といると、私、幸せって思えるの』
     君の言葉は美しくて艶めかしくて、そして僕の思い通りにはならない。僕の心を舞い上がらせては、掻き乱していく。
     そんな君だってことは、とっくのとうに知っていたのに。
     ……それでも、と僕は考えずにはいられなかった。考えずにはいられなかったのだ。僕は愚かだから。

     恋は盲目。
     恋は罪悪。
     恋は決闘。
     いろんな『恋』の言葉が僕の脳裏を掠めては、かき混ぜている鍋の中に消える。
     牛乳や野菜や肉が融け込んだ中身からはいい匂いが立ちこめてきた。火を止めて皿によそってみればなかなかの出来栄えに独り頷く。僕はそれにパンとスプーンを添えて、お盆に乗せたそれを持ち地下の階段へと続く扉を開け放った。

     僕と君の始まりは偶然で。『偶然なんてこの世にはないのよ』なんて君は笑ったけれど、僕にはやっぱりそう思えないのだ。
     あの夜あの路地裏で出会った君はとても可憐で、神々しくて、僕の光だった。君のことを罵るような……そんな昼の奴らもいたけれど、夜に生き夜に生きるしかなく夜に絶望していた僕にとって君は天使という存在に他ならなかった。今でも、君への気持ちは変わらない。

     蝋燭を片手に暗い階段を下りていく。空間には僕の足音と蝋燭が燃えていく音しか響かない。君には届いていないであろうと自覚しながらもわざと足音を鳴らすようにして、僕は更に階段を下っていく。

     初めて想いを伝え身体を重ね合わせた夜。僕は死んでしまってもいいと思った。たとえ一瞬であったとしても、それが君の生業であっても、僕を求め愛してくれたのだから。
     君は夜を往く蝶だった。闇に住まう天使だった。恵まれない僕を形骸的でも愛してくれる女神だった。
     ……それで、十分だと思っていた。

     階段を下り切った僕の前に現れたのは鉄の扉。蝋燭を傍らの棚に置いて、上着のポケットから取り出した鍵を鍵穴へ挿して回す。ぎぎぎ、と重く軋むような音を立てて開いた扉の中へと僕は入った。

     逢えば逢うほど、求めれば求めるほど、ますます君を愛したくなる、欲しくなる、僕だけのものにしたくなる。
     一度膨らみ始めた想いは止められなかった。止められなかったのだ。……僕は愚かだから。

     扉の先には部屋が在り、薄暗い部屋の中心には一人の女が横たわる。布一枚纏っただけの女の手や足には、幾何かの鎖が巻かれていた。
     生気をなくしたその目が僕を見つめる。……嗚呼。君の瞳はなんと美しいターコイズなのだろう。
     傍に寄った僕はシチューを浸したパンを君の口元に持っていく。けれど一週間前から変わらず、君の口はそれを受け付けてはくれない。だから僕は、それを口に含み君の上半身を抱いて、口移しをした。
     
     君は美しい羽を持つ蝶であり、清廉な翼を持つ天使であり、それゆえに僕の側に留まってはくれない。
     ならば、その羽をもいでしまえばどうだろう。君は僕の傍らにいてくれるのではないか。……決断してからの行動は早かった。

    「あなたを想うから僕はこうするのです」
     涙を舐めれば君の瞳が揺らめいた。零れる雫は真珠、口づけるその唇は媚薬のよう。僕は君を抱きしめる。……甘美なる時を享受するのは僕と君の煌めきか。
     
     嗚呼。愛しい僕の貴女よ。
     君はもう、僕の腕の中。翼を失くした天使は地上に生きて、僕と共に生きるしかないのだ。

     * * * * *

    2015.3.7
    第38回フリーワンライ お題:「あなたを思うから僕はこうするのです(人称変更、語尾変更はOK)」
  • ▽ 2015 03.07

    20150307(土)00:00
    満月は嫌いだ。闇にこそ生きる術を持つ人間の、その居場所を奪う光に目を細める。夜を纏うことこそ僕の人生。光ある道など用意されてはいない。だから僕は、再び逢うことのない景色を嗤い、泣き、満月に銃口を向ける。嗚呼、太陽を観たのは何時か。
    (@moso_propro 様より:満月を撃ち抜くような)
  • ▽ 2015 03.04

    20150304(水)00:00
    誰にでも優しい君のことだから、私のことなんて想っちゃいないよね。私だけ期待してさ、心臓止まりそう。好きって言われても嫌いって言われても過呼吸になりそう。まぁどっちみち死ぬならハッピーエンドがいい、だから言わせて。「好きです」
    (@potsuri200 様より:望むらくは可及的速やかな死を)
  • ▽ 2015 03.03

    20150303(火)00:00
    僕は僕らしく生きたいと願うほど、息苦しさを覚える。理解を諦め共感を望むほど、虚しさを覚える。私は僕で僕は私、なのに。胸に抱えるは君からの桃の花。僕にはもうそぐわない花。…嗚呼。君は桃が似合う私のままでいて欲しかったのか。花弁と共に零れたのは。
    (@moso_propro 様より:桃と君の嘘)
  • ▽ 2015 03.02

    20150302(月)00:00
    あなたのアイ・ラブ・ユーは分かりにくい。お出かけをねだるのも、手を繋ぐのも、ハグするのも、好きって言うのも、ぜーんぶ私からだ。「ホントに私のこと好き?」「うん」。だけど、こうしてキスをくれるのはあなたから。ずるいよね、そんなあなたも大好き。でもやっぱり、言葉もあなたから下さいな。
    (@x_gl_o 様より:「あなたのアイ・ラブ・ユーは分かりにくい」で始まる)
  • ▽ 2015 02.25

    20150225(水)00:00
    美しさだけでは生きていけない。そう言い残してあなたは私の前から去った。あなたの気持ちは分からない。だって私は美しくなんてないから。あなたが憂うのを見ていることしかできなかった、それが今も心に刺さったままで。時々思い出しては感慨に耽る。かつてどこまでも澄んでいた、あなたの蒼き瞳を。
    (@x_gl_o 様より:「美しさだけでは生きていけない」で始まる)
  • ▽ 2015 02.24

    20150224(火)00:00
    愛を知り愛故に別れ愛に死ぬ。椿姫は幸せだったのか。私という機械仕掛けの個体は、恋愛感情なるものの演算機能を有していない。したがってデータを読み込み記憶する。人間の遺物を理解するため昨日も今日も、その先も。『心臓がときめくとは。愛とは』。答えを探して試行する。
    (お題bot*様より:カラクリ、心臓、椿姫)
  • ▽ 2015 02.23

    20150223(月)00:00
    レモン不足の女の子は黄色い顔になる、そんな夢を見た。それならトマト不足なら赤い顔、ピーマン不足なら緑の顔になるの?もやし不足で美白目指すのはいいかも。ピエロみたいな白塗りにならないように注意しなきゃ。なんてね!そんなくだらないことを思いながら鏡の前に立つ。…青い顔って、なに不足?
  • ▽ 2015 02.23

    20150223(月)00:00
    怠惰な僕は夢で君に会おうとした。「会いたい」。たった一言君に伝えたいだけなのに。目を瞑る。微笑む君に手を伸ばせど届きはしない。解っていても、目からは雫が落ちた。すぐには会えない僕を許してください。一年経ったら僕も天国に行くだろうから。埋め合わせに、お土産もいっぱい持ってくからね。
  • ▽ 2015 02.22

    20150222(日)00:00
    「死んだら結婚してくれますか。貴方と共に私は幸せになりたいのです」。僕に首を差し出して少女は笑う。「生きがいはなくとも死にがいはあるのです」だなんて。嗚呼、死神に恋するとは何とも愚かな娘。しかし、想いに応えんと鎌を振り下ろす僕は彼女以上に愚かだ。救われたいだけの、愚かな僕らの話。