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note/米森

記事一覧

  • ▽ 2025.04.29

    20250429(火)09:24
    廃れた原野を歩む旅人は、夜空から零れた星の欠片を拾い上げた。七色の残光は失われた幸福を映し、その眩い輝きは足を留める。しかし、胸奥で細い声がゆらめいた。行かねば、と。旅人は星を大地へ返す。そして、カンテラに火を灯す。ただ小さな光だけを頼りに、まだ見ぬ理想郷へと、静かに歩み出した。
  • ▽ 2025.04.20

    20250428(月)17:09
    夏が来るたびに、遠い海の記憶が蘇る。
    あなたがくれた白いワンピースをまとい、夜更けの星空の下、波音に包まれる浜辺で未来を語り合った日々。

    けれど──星屑のように散った約束は冷たく鋭い痛みとなって、胸を締めつける。

    失われた未来のかけらを、裾のレースとともに──私はまだ、握りしめている。
  • ▽ 2025.04.16

    20250416(水)21:44
    ぼくの居場所は、いつもきみだった。きみはぽかぽかして、心地がいい。やがてきみは大きくなって、ぼくのことを忘れちゃうかなと思ったけど——笑顔は変わらずそばにあって、楽しい毎日は続いている。そしていま、きみの子が眠る枕元で、そっと見守っている。ふわふわの毛糸の体で、あっためるからね。
  • ▽ 2025.04.10

    20250415(火)19:47
    試すように。疑うように。嘲るように。わたしは訊ねる。「わたしはだれ?」感じる前に、手が動く。
    わたしはそれをただ見ている。「あなたはだれ?」曇り鏡に問い掛けながら、口紅をひく。今日という役の衣装を羽織る。何度目かも忘れた朝の、同じ支度。鏡のなかでわたしが微笑む。わたしのふりをして。

    (過去作改稿)
  • それでも、ここにいる(2025.04.14)

    20250415(火)19:43
    私は特別な人間である。
    誰にも知られなかった時間の中で、それでも、そう思っていた。

    私は特別な人間だと、いつか世界が気づくと信じていた。
    見過ごされた声にも、光が差す瞬間があるはずだ、と。

    私は特別な人間であって欲しい。
    ただの願いじゃない。
    生きることの重みを、ほんの少し軽くしてくれる深呼吸のようなもの。

    私は特別な人間だって認めて欲しい。
    目立ちたいわけじゃない。ただ、誰かの目に映っていて欲しいだけ。

    そして、拍手をして欲しい。
    名前を知らなくてもいいのだ。
    一瞬でも、私がいたということを、さざ波のように感じてくれるのなら。

    それから、どうか、無数の目のどこかで、やわらかく、私を肯定してほしい。
    「特別だね」だなんて、幻でも。ぬくもりのような錯覚だとしても。

    誰にも触れられなくても、私は、私はここにいる。
    いつでも、あなたを呼んでいる。

    けれど、誰も振り向かない世界で、私は声を枯らしながら立ちつくす。
    焦点の外で、誰の手にも熱を残せないまま揺れている。

    本当は、誰かが目を向けてくれることなんて、ないのかもしれない。
    透明なまま、それでも今日も、私は、息をしている。
  • 春は溶けて、巡る(2025.04.02)

    20250404(金)08:17
    それはまだ、冬の名残が町のあちこちにしぶとく居座っていた頃のことだった。

    「春になったら、またここで」

    駅前の、小さな喫茶店。窓際のいつもの席で、 少し熱すぎるコーヒーを前に、彼女はそう言った。

    それから季節は滑るように進んで、雪は静かに溶けていき、街路樹には柔らかな蕾が顔を出し始めた。

    僕は約束の場所へ向かう。何かを確かめるように歩きながら。

    けれど、彼女の姿は、そこにはなかった。

    ぬるくなったコーヒーをひとくち啜る。舌に残る酸味が、彼女の声をかき消していくようで。少しだけ目を伏せる。

    たしかに現実だったはずの時間が、こうしてひとりきりで思い返すうちに、少しずつ夢へとすり替わっていく。春が、すべてを溶かして連れ去ってしまった――そんな気がして。

    ああ、君との春は、何処にもなかったんだな。

    それでも、窓の外の光は確かにあたたかくて、 駅前を行き交う人々の笑顔や、淡い桜色の景色が、どこか遠くでささやきかけてきた。

    春は、また巡ってくるよ、と。
  • ほどける夢 (2025/03/16)

    20250316(日)10:49
    舟を漕ぎ出したはずなのに、どこへ向かっているのか分からない。
    ひとつ、またひとつ、積み重なっていく焦燥が喉の奥に滞る。どうすればいいのか。果たして正解はあるのか。
    それでも、舟は進んでいた。波は穏やかで、風はやわらかい。
    いつの間にやら握っていた櫂は手の中から消えていた。けれども、不思議と焦りはなかった。

    向かう先には、なにがあるのだろう。
    そんなことを考えたとき、舟の進む先に、ゆらゆらとした光が見えた。淡く、優しく、手を伸ばせば、それはとろりと溶けてしまった。

    ひと息つくように、再び舟の揺れに身をまかせる。
    身体の輪郭がほどけて、波の間に落ちていく。

    ……かすかな音がした。
    胸の奥から、澱みがこぼれる。
    瞼の裏に残っていた仄かな光が、ふっと途切れる。

    ハッとして目を開けた。
    重たい空気と、揺れない地面。舟も、波も、風もなくなって、あの穏やかさは跡形もない。
    指先に触れたのは、ひどく冷たい空気だけだった。

    眠る前に抱えていた不安は、いっそう底まで沈み込んでいた。

    静かなまどろみの終わりに、私はふうっと、ため息をついた。
    そうして、手のひらをぎゅっと握りしめる。
  • ▽ 2025.03.14

    20250315(土)14:09
    彼が袋を差し出してくる。なあに? と訊いたら、彼は答えないまま、風に溶けるように消えた。最初からいなかったみたいに。無骨な袋、中にはチョコ。たった一欠片なのに容赦ない苦さが口に広がる中、自然と笑っていた。そろそろ覚悟を決めて、面倒くさい恋をしてよ。私を否定するのも飽きたでしょ。ね?
  • ▽ 2025.03.06

    20250306(木)22:37
    冷たい風が吹き抜ける夜道。都会の光が遠く滲み、私は立ち止まった。
    「やっと、自分らしく歩けるかな」
    乾いた声はすぐに霧散する。突風に目を瞬かせば、そこにいたのは私自身だった。縒れたドレス。寂しげな笑み。
    彼女は街へ向かう。私は振り返らない。新しいブーツを踏み鳴らす。もうじき夜が明ける。
  • ▽ 2025.2.4

    20250204(火)22:04
    甘くて美味しいチョコだったよ。吐き出したけど。箱も可愛らしくて心が躍ったし、潰しがいがあったよ。一生懸命僕のために選んでくれてありがとう。恋する自分に酔いしれられて楽しかったよね。そろそろ普通の人とつまんない恋をしなよ。僕の存在が作り話だったと思えるくらいのをさ。ね、そうしてよ。

    (過去作リメイク)