頑張れば頑張るほど、かなしさばかりが募っていく。
泰星を家まで送り届けたあとに、私は再び横浜駅まで戻ってきた。
泰星の母親とは家庭教師の打診を受けて顔合わせして以降、直接顔を合わせる機会がない。おかげで原野家を訪問した際には泰星と二人きりになるのがデフォルトになっていた。仕事が忙しく出張も多い人なのだと泰星からは聞いている。とはいえ、思春期の子どもを家に放っておきすぎじゃないかとも思う。私は家にしおりがいたけど、泰星には自分しかいない。まだまだ子どもなのに頼れる者がいない状況下に置かれ、故にあの性格が醸成されたのかと考えると、なんとまあ本当に可哀想で、可愛らしいのだろう。
JR改札を抜け地下鉄のある階まで、残業終わりのサラリーマンたちと一緒にエスカレーターで下っていく。ラッシュ時間からは外れているけれど駅構内はごった返していて、さすがは首都圏有数のターミナル駅だと初耳がごとく妙に感心してしまう。思いの外自分は疲れているみたいだ。
やっぱり酒が飲みたい。さっきのラザニアやティラミスを全部リバースすることになってもいいから自重せず酔いつぶれたい。そう思って駅構内のコンビニに入り、缶チューハイ二本を買う。ホームで一本開けちゃうか。いやでもさすがに行儀悪いな。
そんなことを考えながらホームに着いた途端、私は予想外にも、しおりらしき人物とすれ違った。
白いウールコートのデザインや赤いハンドバッグはいつかしおりが自慢してきたアイテムで、ウェーブかかったセミロングヘアといった後ろ姿もそっくりと来たらもう間違いないだろう。向こうは細面の金髪男と一緒にいて、腕を絡ませながら歩いている。絶対、彼氏だろうな。きっとしおりは私とすれ違ったことには気がついていない。
最近までうちに入り浸っていたのは、彼氏が横浜近辺に住んでいるからなのかなと思う。おそらくは。東京の方まで帰るのが面倒なのは分かる。いやでも、だったら彼氏の家に泊まればいいのに。
そう悩んでいるうちに目的の電車がやって来た。私はもう一度だけ後ろを振り返る。
横に立つ彼氏を見上げるしおりの横顔には白いガーゼが貼られていた。最後に私が会ったときにはなかったそれに目が留まる。
ドアが閉まる瞬間、不意にしおりと視線が合った気がした。
泰星の母親とは家庭教師の打診を受けて顔合わせして以降、直接顔を合わせる機会がない。おかげで原野家を訪問した際には泰星と二人きりになるのがデフォルトになっていた。仕事が忙しく出張も多い人なのだと泰星からは聞いている。とはいえ、思春期の子どもを家に放っておきすぎじゃないかとも思う。私は家にしおりがいたけど、泰星には自分しかいない。まだまだ子どもなのに頼れる者がいない状況下に置かれ、故にあの性格が醸成されたのかと考えると、なんとまあ本当に可哀想で、可愛らしいのだろう。
JR改札を抜け地下鉄のある階まで、残業終わりのサラリーマンたちと一緒にエスカレーターで下っていく。ラッシュ時間からは外れているけれど駅構内はごった返していて、さすがは首都圏有数のターミナル駅だと初耳がごとく妙に感心してしまう。思いの外自分は疲れているみたいだ。
やっぱり酒が飲みたい。さっきのラザニアやティラミスを全部リバースすることになってもいいから自重せず酔いつぶれたい。そう思って駅構内のコンビニに入り、缶チューハイ二本を買う。ホームで一本開けちゃうか。いやでもさすがに行儀悪いな。
そんなことを考えながらホームに着いた途端、私は予想外にも、しおりらしき人物とすれ違った。
白いウールコートのデザインや赤いハンドバッグはいつかしおりが自慢してきたアイテムで、ウェーブかかったセミロングヘアといった後ろ姿もそっくりと来たらもう間違いないだろう。向こうは細面の金髪男と一緒にいて、腕を絡ませながら歩いている。絶対、彼氏だろうな。きっとしおりは私とすれ違ったことには気がついていない。
最近までうちに入り浸っていたのは、彼氏が横浜近辺に住んでいるからなのかなと思う。おそらくは。東京の方まで帰るのが面倒なのは分かる。いやでも、だったら彼氏の家に泊まればいいのに。
そう悩んでいるうちに目的の電車がやって来た。私はもう一度だけ後ろを振り返る。
横に立つ彼氏を見上げるしおりの横顔には白いガーゼが貼られていた。最後に私が会ったときにはなかったそれに目が留まる。
ドアが閉まる瞬間、不意にしおりと視線が合った気がした。