私を嫌ってたはずの後輩が過保護になった件
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「……やっぱり避けられてる、よなあ」
怪我をした日から2ヶ月。恵くんに触れようとして避けられた日から半月が経過した。
あの日から恵くんと目が合うことが極端に減った。手も任務の時以外は繋がなくなった。
あのとき感じた違和感が確信へと変わっていくことがすごく嫌だ。彼に嫌われてると分かってたはずなのに、それを認めるのが辛い。
正直、あの日までは仲良くなれてると思ってたし、嫌いな先輩から脱却できてるって勝手に思ってた。どうやらそれは大きな間違いだったらしい。
最近、恵くんのことを考えると胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
この感情の答えはまだ見つからないままだった。
「あ。真希さん!名前さん!お疲れ様です」
「おー、野薔薇。お疲れ」
ようやく2年での体術訓練にも復帰出来るようになり、休憩で真希ちゃんと自販機で飲み物を買っていれば可愛い後輩の1人、野薔薇ちゃんが声を掛けてくれた。
真希ちゃんに続いて、「お疲れ様」と声を掛ければ、にこにこと笑ってくれる彼女はやっぱり可愛い。
「名前さん、目の調子どうですか?」
「んー、ぼちぼちって感じかなあ」
心配そうな目を向けてくれる野薔薇ちゃんに緩く笑みをかえせば、「あ、恵」という真希ちゃんの声に無意識で体が反応していた。
「えっ、」
「ほら、あれ恵だろ。あいつ何やってんだ?」
あれ、と指差す真希ちゃん。その先に視線を向ければ、どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
見たことない女の子と恵くんが並んでる。話してる内容は聞こえないけど、女の子の視線が少し熱を帯びているような気がした。
「うわ、あいつまた来てる」
「知り合いか?」
「この前、1年で任務行った時に伏黒があの子助けたんですよ。それで伏黒に惚れたとか何とかで」
「ふーん、恵もやるなあ」
真希ちゃんと野薔薇ちゃんの会話が耳を通り抜ける。その会話に参加することは出来なくて、ただただ、恵くんから視線を逸らすことが出来なかった。
あの子、恵くんの事が好きなのか。可愛い子。髪が長くて、細くて、遠目だけど綺麗できっと傷なんかついてないんだろうな。恵くんも、あの子のこと好きなんだろうか。
そうだとしたら、嫌だ。なんて、漠然と思えた。
「名前?」
「っえ、なに、」
「ぼーっとしてなんかあったか」
肩に真希ちゃんの手が乗り、渦巻いていた思考を止める。
「ううん、なんでも……ない」
恵くんたちに向けていた視線を真希ちゃんに移して、首を横に降る。少しの間をおいて「そうか」と真希ちゃんは返事をした。
嫌ってなんだ。恵くんが誰を好きになろうが、誰を大事にしようが、私には関係ないでしょ、と思おうとしたけど、やっぱり嫌で。考えるだけで、苦しくて泣きたいような気持ちが押し寄せる。私に優しくしてくれた彼を返して欲しい、なんてお門違いなことすら考えてしまい、そこではっとする。
そうか。私、恵くんのことが好きになってる。
いっぱい助けてくれて優しくしてくれて、怪我をした日から隣にいてくれた恵くんのこと、好きなんだ。
今まで見つけることが出来なかった答えをやっと見つけれたのに、この気持ちが叶うことは無いことも同時に気付いて、また泣きたくなった。
私、恵くんに嫌われてるのにな。
「失礼しまーす」
その日、恵くんの顔を見る自信も話をする自信もなくて、1人で医務室へと足を運んだ。
多分、いま恵くんを前にしたら泣くと思う。
「いらっしゃい。じゃあ座って。包帯取るね」
「はい、お願いします」
恵くんがいないことに触れてこなかった硝子さんに感謝をしながら、椅子へと腰をおろす。
硝子さんの指先によって解かれる包帯。ずっと閉じてた目をゆっくりと開けば、「え、」と声が漏れた。
「ん?どうかしたの?」
「あの、なんか、見えてる……」
「何だって?」
見えてる。はっきりではない、ぼんやりだけど、見えてるのだ。狭かったはずの視界が、2ヶ月前の視野に戻っている。突然のことに戸惑っていれば、「ベッド移ろうか。反転術式効くかも」と硝子さんが私をベッドへと誘導してくれた。
「見えてる……」
あれからぼやけていた片目はしっかりと視力を取り戻していた。硝子さんの術式、やっぱりすごすぎやしないだろうか。
「五条には私から伝えとくから今日は部屋でゆっくり休みな」と言われ、自室に戻ってきたのが数分前。
もしかしたら、もう一生戻らないかもと諦めの気持ちを抱えながら生活をしていたからか、2ヶ月ぶりに戻った視力に感動すら覚える。
これで、元の生活に戻れる。
きっと、任務ももっと行けるだろうし、死角を気にしなくていいし、体術訓練でパンダくんに投げ飛ばされることも減るだろう。
ただ、それは恵くんとのこの生活が終わりを告げることを意味するものでもあって。
寂しい、なんて思ってしまうことすら罪悪感に心がじくじくと痛む。彼にどれだけ無理をさせたか、よく分かってるだろう。
「もう、本当に離れないと、だよね」
すごく、いやだ。いやだけど、彼にこれ以上迷惑をかけれない。ううん、これ以上嫌いだと思われたくない。これ以上嫌われるくらいなら、自分の気持ちに蓋をする方がずっと良い。
『目治ったからもう送り迎えもいらない。今までありがとう』
震える指先でスマホに打ち込んだメッセージを恵くんに送信する。
これで、いい。もう迷惑かけないから、これ以上私のこと嫌いにならないでね。
そんなことを願いながら、視力が戻った瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
そうして私は、また恵くんを避けるようになった。
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2024.2.12