私を嫌ってたはずの後輩が過保護になった件
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「うーん、あんま昨日と変わんないみたい」
もしかしたらって思ったんだけど、と眉を下げた硝子さんの言葉にちょっぴり肩を落としてしまった。
伏黒くん改め、恵くんに迎えに来てもらい今朝のように手を繋いで医務室へと一緒に足を運んだのは数分前。
硝子さんの手によって巻かれていた包帯を外されたけど、視界が広がることは無く相変わらず狭いままだった。
「ごめんね、変に期待させたかもしれない」
「そんな、全然……!」
嘘だ。ちょっと期待した。もしかしたら見えるようになってるかも、なんて期待した。
1日じゃやっぱり治らないものなのかも。
「何か違和感とかあったらすぐにおいでね。あと、包帯毎日ちゃんと巻き直すんだよ」
「はい!ありがとうございます!」
頼もしい硝子さんに礼をして、恵くんと手を繋いで医務室を後にする。医務室から出る前に、「忠犬じゃん」と呟いた硝子さんの声が聞こえた。
医務室にいる間、恵くんは私の後ろにずっと立って待っててくれた。その間、彼は何も言葉を発さなかった。今も私の隣を歩く彼は何かを考え込むような顔をしていて、何も喋らないまま。
「恵くんごめんね、着いてきてもらって」
「これくらい気にしないでください。名前さんが行きたいって言ったらどこでも着いてくんで、いつでも言ってくれて大丈夫ですよ」
「う、うん……」
優しく微笑んだ恵くんが、らしくないことを言うものだからつい言葉が詰まる。こんなこと言う人だったっけ、と今日は朝から私の知っていた恵くんと似ても似つかないことが多くて戸惑うばかりだった。
「じゃあ、また明日迎えに来るんでちゃんと起きててくださいね」
「うん、ありがとう。おやすみ」
「鍵、ちゃんとかけてくださいね。おやすみなさい」
部屋の前まで送ってくれた恵くんは、最後にしっかりと釘をさすように言って自室へと戻って行った。
任務もなかったし訓練すらしてなかったのに、なんだか今日1日すごく長かった気がする。自室に足を踏み入れた瞬間、どっと疲労の波が押し寄せてきた。
さっさとお風呂に入って今日は寝よう。恵くんが迎えに来てくれた時に寝てたら、本当に申し訳無さすぎて死んで詫びるしかない。そんなことを考えながら、左目にある包帯を解いてお風呂場へと向かった。
朝。なんとか寝坊せずに今日も起きれた。
なんとか恵くんを待たせない、というミッションは遂行出来そうでほっと息を吐く。出来るなら毎日ちゃんと起きろ、って真希ちゃんに言われそう。その通りである。
支度が完了したところで、こんこん、と自室のドアがノックされた。きっと、恵くんだ。はーい、と返事をしがちゃ、とドアを開く。
「おはよ、恵くん」
「おはようございま……って、なんだそれ」
ドアを開ければ、そこにいたのはやっぱり恵だった。
目が合った瞬間、呆然と私を見つめる恵くん。それって何、と首を傾げてれば、恵くんの手が伸びてきて私の左目、包帯に触れた。
「全然巻けてないですよ」
「えっ!?嘘!??」
「本当です。包帯の意味ない」
「えぇー……昨日、頑張ったのに」
びっくりした。急に手伸ばしてくるから、何かと思った。心臓がまだちょっとばくばく、と音を立ててる。なんか恵くんに、調子乱されまくりな気がする。
「やってあげますよ」
「え?」
「包帯。俺が巻き直します」
「えっ、だいじょ、」
「部屋、入りますよ」
私の声は聞こえなかったのか、または意図的に聞かなかったのか、恵くんは私の部屋へと1歩、2歩と足を踏み入れた。
「そこ座ってください」
「あの、恵くん」
「いいから早く。また時間なくなりますよ」
「うぅ……わかった」
昨日で学んだこと。多分こういう時の恵くんは何を言っても話を聞いてくれない。私がああだこうだ言おうが、丸め込まれる。また詰められて睨みつけられるのも正直怖いし、心臓がいくつあっても足りない。言うことをさっさと聞いてる方が得策だ。
大人しく指定された場所に腰をおろせば、満足そうな顔をした恵くんを見て自分の行動にここの中で花丸をあげた。
私の目の前に腰をおろした恵くんは、「包帯取りますよ」と声をかけてくれ私の後頭部へと手を伸ばす。彼の綺麗な指が私の髪を掠めて頭皮に触れる。いつもの何倍も距離が近くて、ちょっと恥ずかしい。どこを見ていいかわからないから、ちょっと目瞑っとこ。
鼓動のスピードが上がってくる。
「はい、できました」
「う、うん……ありがとう」
「…………」
「恵くん?」
「いえ、なんでも。じゃあ行きましょうか」
恵くんが私の顔を凝視していた。彼はなんでもない、と言ったけど明らかガン見されてた気がする。変な顔してたかな、と自分の顔を触る。
「ほら、」と差し出された彼の手を今日も握って一日が始まった。
彼に巻いてもらった包帯はしっかりとフィットしていて、手先器用なんだな、と少し感心する。ちなみに今日一日、近付いてきた恵くんの顔が脳裏にチラついて何一つ集中できなかった。