一袋29g分の甘い戦い

「ねぇ、アル」
「うん?」
「本当にするの?」
「うん!」

二人分の体重を受け止めたシングルベッドが、ギシリと音を立てる。
自室のベッドに腰掛けていたチャコは、スティック状のビスケットをチョコレートでコーティングしたお菓子を片手に、にこにこと笑顔を浮かべながら隣に座るアルペックに迫られていた。

「ぽっきぃゲーム?って、友だちとやるんだろ?オレ、チャコとやってみてえ!」
「友だちとやるものじゃないと思うけど。……そもそも、アルはポッキーゲームがどんな遊びか分かってるの?」
「もちろん!両端から一緒にお菓子を食べて、先に食べ終わった方が勝ちってやつだろ?」
「逆じゃない?先に食べ終わった方が負け……いや、この場合どっちが勝ちなんだろう」

ポッキーゲームのルールはなんとなく知っていたが、チャコ自身が実際に行ったことはない。
そして——勝ち負けのルールよりも重大な問題に、チャコは頭を悩ませていた。

「ねぇ、アル」
「うん?」
「もし途中でお菓子が折れずに二人とも食べ終えちゃったら、どうなるか分かってる?」
「えーっと、お菓子がなくなる?」
「それも間違いではないけど……」

どうやらアルペックは気が付いていないらしい。
首を傾げて考え始めたアルペックの様子を見つめながら、チャコは思わず苦笑いをする。

「まったく、こっちの気も知らないで……」
「へっ?」

素っ頓狂な声を上げたアルペックの手からお菓子を取り上げたチャコは、チョコレートの掛かっていないビスケットの方を唇で挟んだ。
右手で髪を耳に掛け、意を決したチャコは、ゆっくりとアルペックに顔を近づけた。

「ん」
「……!うん!」

嬉しそうに笑顔で頷いたアルペックが、スティック菓子の反対側を唇で挟んだ。
二人の間に沈黙が落ちる——そして、ビスケットを食べ進める小さな音だけが、静かな室内に響いた。

(——これ、思ってたより恥ずかしいかも)

少しずつ近くなっていくアルペックの顔から、チャコは視線を逸らす。
じんわりと頬に集まる熱と、ドキドキと喧しく騒ぐ胸の音を誤魔化すように、チャコはぎゅっと目を閉じた。

「……!」

その瞬間、アルペックが息を呑んだ音が聞こえた気がした。
そして、膝の上で軽く握っていたチャコの右手が、自分のものよりも少しだけ大きく温かなものに包まれる。

「っ、え?」

アルペックに手を握り込まれていることに気が付いたチャコは、思わず小さく声を漏らす。
唇同士が触れ合うまであと少しというところで、スティック菓子はパキッと小さく音を立てて折れた。

「あ……はは、俺の負けだね?」

アルペックから身体を離したチャコは、曖昧に笑いながらそう告げる。
自分の気持ちに気が付いていないアルペックに少々やきもきし、勢いで自らポッキーゲームを仕掛けてしまったが——結局、最後までポッキーゲームを行わず済んだことに、チャコは少しだけ安堵していた。

「残りのお菓子どうしようか、このまま食べても……」
「——あのさ、チャコ」

握られていたチャコの右手から、アルペックの手が離れる。
そして、ベッドの上に置かれていたお菓子の袋からスティック菓子を一本取り出したアルペックが、チョコレートでコーティングされた方をチャコの口元に差し出してきた。

「その、もう一回やらん……?」

そう口にしたアルペックの頬は、わずかに赤くなっているように見える。
——これは、期待してもいいのだろうか。

「……いいよ。でも、その前に確認したいことがあるんだけど」
「なになに?」
「さっき『友だちとやる』って言ってたけど、俺の他に誰か誘った?」
「いや、チャコだけだけど?」
「そっか。……ふふ、それならいいよ」
「えっ?チャコ、それってどういう意味で——」
「はいはい、二回戦始めるよ〜」

何か言いたげなアルペックににこりと笑ったチャコは、差し出されていたスティック菓子の端を唇で挟む。
一袋29g分の甘い戦いは、まだ始まったばかりだ。
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