走れ!恋心/駆けろ!恋は盲目
一ヶ月前の今日、バレンタインデーにアルから告白された——かもしれない。
正確にいうと『チャコの顔が見たくなって走ってきた。チャコはオレのこと、どう思ってる?オレは、これからも一緒にいてほしいと思ってる』という言葉のため、告白というと語弊があるかもしれない。だが、チャコに向けてきたまっすぐな眼差しや、まるで告白とも取れるような言葉を思い出すと、あれは告白だったのではないかと考えてしまっても仕方ないと思う。誤解を招くような発言をしたアルペックにも少なからず責任はあるはずだ、きっと。
アルペックと旅を始めてから、少しずつ彼に友人以上の思いを募らせていたチャコにとって、彼から貰った告白未遂のような言葉は純粋に喜ばしいものであった。それに、思いきって彼に想いを告げてしまおうかと決意を固めたチャコだったが——実際にチャコの口から飛び出した言葉は『一ヶ月後でも良い?答えるの』というものだった。
「なんであの時に伝えなかったのかな、俺」
自室のベッドに腰掛けながら壁掛け時計に目をやると、時計の針は21時過ぎを指している。今夜電話すると昼間アルペックからメッセージが届いていたが、今夜とは具体的に何時頃なのか……彼からの問いへの答え——即ち、想いを伝えるか否か決断することに気を取られすぎて、きちんと時間を確認しなかった昼間の自分が少々恨めしい。小さくため息を吐いたチャコは、ベッドへと仰向けに倒れ込んだ。
アルは優しい。きっとチャコが付き合ってほしいと伝えたら、彼にその気がなかったとしても、きっと笑って受け入れてくれるだろう。アルペックと友人以上の関係になりたいと何度も思ってきたが、彼の優しさに付け込むような形で恋人同士になることは、奔放で人々から愛される彼のことを縛り付けてしまうようで嫌だった。伝えなかったのではなく、伝えられなかったのだ。それに、確信のない賭けに出られるほど、チャコの性格は感情的ではなかった。
パーカーのポケットから携帯用の電子端末を取り出し、メッセージアプリを開いてアルペックの名前にそっと指先で触れる。通話ボタンを押すか押さないかチャコが迷っていたその時——パッと画面が切り替わり、アルペックからの着信を知らせる画面が表示された。チャコの両肩が思わずビクリと跳ね上がる。慌ててベッドから身体を起こしたチャコは、緊張からざわつく心を落ち着かせるように深呼吸をした後、通話ボタンをタッチして電子端末を耳に当てた。
「……もしもし、アル?」
『チャコ!電話するって言ってたのに遅くなってごめん!』
「大丈夫だよ。ちょうど俺からかけようか悩んでたところだし、ちょうど良かったよ」
『そうだったのか!タイミングいいな、オレたち!』
「ふふ、そうだね」
普段よりも近い距離から聞こえてくるアルペックの声に耳を傾けながら、じんわりと頬が熱っていくのを感じる。電子端末を当てている右耳が、ちょっとだけくすぐったい。
『——あのさ、チャコ。バレンタインの日に、チャコはオレのことをどう思ってるかって聞いたの、覚えてる?』
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
『覚えててくれて嬉しい!急にあんなこと聞いたのに、ありがとな?』
「別にいいよ。俺もアルとはこれからも一緒にいたいなって思ってた、あの時に伝えられなくてごめんね」
『……そっか、オレと一緒だな!』
「……」
『チャコ?』
当たり障りのない返事をして、この話は終わりにしよう——そう思っていたのに。開いた唇からは別の言葉が飛び出してしまいそうで、チャコは唇を噛みしめる。一緒にいてほしいって、どういう意味?……なんて。彼の『一緒にいたい』の意味は自分のそれとはきっと違うものだから、怖くて聞けなかった。
しかし、少しずつ募らせてきた想いを隠し続けることは難しく——チャコの目尻に滲んだ涙が頬を伝い落ちるのと同時に、堰き止めていたアルペックへの想いも溢れ落ちた。
「——俺は、アルのことが好き」
『えっ?』
「ごめん、本当は言うつもりなかったんだけど。我慢できなくなっちゃった。——ねえ、アル」
『……うん?』
「君は俺のこと、どう思ってる?」
パーカーの袖口でチャコは乱暴に目元を拭い、せめてこれからもアルペックの友人として一緒にいられるよう願いながら、精一杯の明るい声で聞いてみる。だが、彼から返ってきた言葉はチャコの願いを裏切るものだった。
『バレンタインの、一ヶ月前のあの日は、まだチャコへの気持ちがどういうものか分からなかったんだ』
「……うん」
『チャコと一緒にいたい、笑っていてほしいって思った理由を、チャコと一緒に過ごしながら知れたらいいなーって思ってたんよ。でもな、やっと分かった』
「うん……?」
『オレも、チャコのことがしんけん好き』
「っ、え?」
『——ダメだ、今すぐにチャコの顔が見てえ!今からポチャッコさんの国に走っていくけん、続きは顔見ながら言わせて!』
「今から⁉︎もう21時過ぎて——」
『よっし!そうと決まればペックルさんに伝えないとな!ペックルさぁあああん!』
「ちょっと、アル!?」
アルペックが耳から電子端末を離したのだろう。彼の声が遠のき、今までよりも小さくぼんやりと話し声が聞こえてくる。数分後、ペックル様のものと思われる『いってらっしゃい!』という声が聞こえたのと同時に、バタバタと慌ただしい足音と共に再びアルペックの声が戻ってきた。
『ポチャッコさんの国が近くなったら、また電話するけん!やけん……それまでに涙は拭いといてな?』
「待って、本当に今から……っ!涙って、なんで……!」
『オレ、足には自信あるけん!待っててな、チャコ!』
「そういう問題じゃ……!ちょっと、ま——」
チャコが話し終えるよりも先に電話が切れてしまった。通話終了と画面に表示された電子端末をパーカーのポケットに戻し、再びベッドへと仰向けに倒れ込む。数分間ぼんやりと天井を眺めていたチャコだったが、アルペックとの会話を少しずつ思い出すのと同時に、自身の顔がじわじわと紅潮していくのを感じた。
「……好きって言ってたよね、多分」
そう呟いたチャコは勢いよくベッドから起き上がり、自室の壁に設置されている姿見鏡の前に足を運んだ。鏡面に顔を近づければ、赤らんだ両頬と朱に染まり涙に濡れた眦が目に入る。ひどい顔だなと思わず笑ってしまったチャコは、右手の人差し指で涙を拭い、姿見鏡に背を向けた。
「ポチャッコ様にどう説明しようかな……」
アルペックが走ってくるのを、ただ待っているつもりなど勿論ない。スケボーを片手で掴んだチャコは、まずは主の自室へ向かうべく駆け足で自室を後にした。
正確にいうと『チャコの顔が見たくなって走ってきた。チャコはオレのこと、どう思ってる?オレは、これからも一緒にいてほしいと思ってる』という言葉のため、告白というと語弊があるかもしれない。だが、チャコに向けてきたまっすぐな眼差しや、まるで告白とも取れるような言葉を思い出すと、あれは告白だったのではないかと考えてしまっても仕方ないと思う。誤解を招くような発言をしたアルペックにも少なからず責任はあるはずだ、きっと。
アルペックと旅を始めてから、少しずつ彼に友人以上の思いを募らせていたチャコにとって、彼から貰った告白未遂のような言葉は純粋に喜ばしいものであった。それに、思いきって彼に想いを告げてしまおうかと決意を固めたチャコだったが——実際にチャコの口から飛び出した言葉は『一ヶ月後でも良い?答えるの』というものだった。
「なんであの時に伝えなかったのかな、俺」
自室のベッドに腰掛けながら壁掛け時計に目をやると、時計の針は21時過ぎを指している。今夜電話すると昼間アルペックからメッセージが届いていたが、今夜とは具体的に何時頃なのか……彼からの問いへの答え——即ち、想いを伝えるか否か決断することに気を取られすぎて、きちんと時間を確認しなかった昼間の自分が少々恨めしい。小さくため息を吐いたチャコは、ベッドへと仰向けに倒れ込んだ。
アルは優しい。きっとチャコが付き合ってほしいと伝えたら、彼にその気がなかったとしても、きっと笑って受け入れてくれるだろう。アルペックと友人以上の関係になりたいと何度も思ってきたが、彼の優しさに付け込むような形で恋人同士になることは、奔放で人々から愛される彼のことを縛り付けてしまうようで嫌だった。伝えなかったのではなく、伝えられなかったのだ。それに、確信のない賭けに出られるほど、チャコの性格は感情的ではなかった。
パーカーのポケットから携帯用の電子端末を取り出し、メッセージアプリを開いてアルペックの名前にそっと指先で触れる。通話ボタンを押すか押さないかチャコが迷っていたその時——パッと画面が切り替わり、アルペックからの着信を知らせる画面が表示された。チャコの両肩が思わずビクリと跳ね上がる。慌ててベッドから身体を起こしたチャコは、緊張からざわつく心を落ち着かせるように深呼吸をした後、通話ボタンをタッチして電子端末を耳に当てた。
「……もしもし、アル?」
『チャコ!電話するって言ってたのに遅くなってごめん!』
「大丈夫だよ。ちょうど俺からかけようか悩んでたところだし、ちょうど良かったよ」
『そうだったのか!タイミングいいな、オレたち!』
「ふふ、そうだね」
普段よりも近い距離から聞こえてくるアルペックの声に耳を傾けながら、じんわりと頬が熱っていくのを感じる。電子端末を当てている右耳が、ちょっとだけくすぐったい。
『——あのさ、チャコ。バレンタインの日に、チャコはオレのことをどう思ってるかって聞いたの、覚えてる?』
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
『覚えててくれて嬉しい!急にあんなこと聞いたのに、ありがとな?』
「別にいいよ。俺もアルとはこれからも一緒にいたいなって思ってた、あの時に伝えられなくてごめんね」
『……そっか、オレと一緒だな!』
「……」
『チャコ?』
当たり障りのない返事をして、この話は終わりにしよう——そう思っていたのに。開いた唇からは別の言葉が飛び出してしまいそうで、チャコは唇を噛みしめる。一緒にいてほしいって、どういう意味?……なんて。彼の『一緒にいたい』の意味は自分のそれとはきっと違うものだから、怖くて聞けなかった。
しかし、少しずつ募らせてきた想いを隠し続けることは難しく——チャコの目尻に滲んだ涙が頬を伝い落ちるのと同時に、堰き止めていたアルペックへの想いも溢れ落ちた。
「——俺は、アルのことが好き」
『えっ?』
「ごめん、本当は言うつもりなかったんだけど。我慢できなくなっちゃった。——ねえ、アル」
『……うん?』
「君は俺のこと、どう思ってる?」
パーカーの袖口でチャコは乱暴に目元を拭い、せめてこれからもアルペックの友人として一緒にいられるよう願いながら、精一杯の明るい声で聞いてみる。だが、彼から返ってきた言葉はチャコの願いを裏切るものだった。
『バレンタインの、一ヶ月前のあの日は、まだチャコへの気持ちがどういうものか分からなかったんだ』
「……うん」
『チャコと一緒にいたい、笑っていてほしいって思った理由を、チャコと一緒に過ごしながら知れたらいいなーって思ってたんよ。でもな、やっと分かった』
「うん……?」
『オレも、チャコのことがしんけん好き』
「っ、え?」
『——ダメだ、今すぐにチャコの顔が見てえ!今からポチャッコさんの国に走っていくけん、続きは顔見ながら言わせて!』
「今から⁉︎もう21時過ぎて——」
『よっし!そうと決まればペックルさんに伝えないとな!ペックルさぁあああん!』
「ちょっと、アル!?」
アルペックが耳から電子端末を離したのだろう。彼の声が遠のき、今までよりも小さくぼんやりと話し声が聞こえてくる。数分後、ペックル様のものと思われる『いってらっしゃい!』という声が聞こえたのと同時に、バタバタと慌ただしい足音と共に再びアルペックの声が戻ってきた。
『ポチャッコさんの国が近くなったら、また電話するけん!やけん……それまでに涙は拭いといてな?』
「待って、本当に今から……っ!涙って、なんで……!」
『オレ、足には自信あるけん!待っててな、チャコ!』
「そういう問題じゃ……!ちょっと、ま——」
チャコが話し終えるよりも先に電話が切れてしまった。通話終了と画面に表示された電子端末をパーカーのポケットに戻し、再びベッドへと仰向けに倒れ込む。数分間ぼんやりと天井を眺めていたチャコだったが、アルペックとの会話を少しずつ思い出すのと同時に、自身の顔がじわじわと紅潮していくのを感じた。
「……好きって言ってたよね、多分」
そう呟いたチャコは勢いよくベッドから起き上がり、自室の壁に設置されている姿見鏡の前に足を運んだ。鏡面に顔を近づければ、赤らんだ両頬と朱に染まり涙に濡れた眦が目に入る。ひどい顔だなと思わず笑ってしまったチャコは、右手の人差し指で涙を拭い、姿見鏡に背を向けた。
「ポチャッコ様にどう説明しようかな……」
アルペックが走ってくるのを、ただ待っているつもりなど勿論ない。スケボーを片手で掴んだチャコは、まずは主の自室へ向かうべく駆け足で自室を後にした。
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