君を思い出す10のお題
1. あの日、風が教えてくれた名前
ふわっと撫でるように吹いた風は木の上で昼寝をしていた少年を起こすには充分だった。ふわふわと吹く風、いや、髪を撫でる精霊の稚児達。
「……なに?寝れないんだけど。せっかく気持ちよく寝れたのに……」
風色の髪をガシガシと乱暴にかき揚げ、大きな欠伸をする。世界に6本存在している『精霊樹』または『世界樹』と呼ばれる樹が、少年の昼寝場所になっていた。自意識を持った時には取得していた瞬間移動のおかげで好きな時に好きな場所の『寝床』に移動することが出来る。
「え?名前?……なんだろうね」
少年には記憶が無い。気づいたら一際大きな『世界樹』の根元で目を覚まし、自由気ままに日々を過ごしていた。今日も普段と変わらない。
「ん?あ〜…探してたの?そう、ありがとう」
そんな日々が終わったのは先週だった。保護されたのだ。不在の風王を代理している鳳凰の長に発見され、そのまま流れるように身柄を預けることになったのだ。
(なんて言ってるかは分かるんだけど、発音の仕方が分からないんだよね)
少年は『声を発する』必要の無い生活をしていた為か、言語を発することが出来なかった。精霊達と生活をしていた少年は精神で意思疎通を行っていたためだ。
(なんで『神達』とは精神疎通が出来ないんだろう?)
この世で神と呼ばれている空の上で生活している者たちと、何故か精神疎通が行えず、結果として『失語症』とされた少年は保護されてしまった。
(まぁ、そろそろダラダラ過ごすのも飽きてきたからいいんだけど。声ってどう出すんだろうな)
ぼんやりと考えると自分を探す声が聞こえる。足元を通過していく深い森の色をした波打つ髪をした青年。見目麗しいこともあり、少年は彼を気に入っていた。でなければ保護されることに同意はしなかった。
ふわりと地面に着地する。その気配に青年が振り返る。青年──鳳凰寺凰慈は少年の気配に振り返る。安堵の表情を浮かべて駆け寄ると少年を軽々と抱き上げた。少し恥ずかしい。が、嫌ではない。
「探したぞ、帰ろう」
(何か深刻な話をしていた雰囲気だったけど、終わったの?)
「気づいたらいないんだからなぁ。まるで『疾風』だな」
ケラケラと笑う凰慈は、ふと、少年を見つめる。
「名前、まだ思い出せないか?」
(……思い出せないというか、真名は言えないし。名乗る用の名前を父上につけてもらえばよかった)
どうしたものかと悩む少年が『困っている』と認識した凰慈は名案とばかりに少年に提案する。
「お前の名前が分かるまで、名前『颯』にしようか。ハヤテ、どうだ?」
地面に書かれたその文字を見つめる。
胸の奥がじわりと熱を帯びる──風が頬を撫でる。
幼い心にも、それが“祝福”だと分かった。
少年は小さく頷く。
「よし!じゃあこれからは『颯』だ!元服するまではこの名で呼ぼうな」
その名は、絆のしるし。家族の証のようで、ただ嬉しかった。
「───…起きたか?」
「…シン?」
「お前はすぐ会議を抜け出してここで寝る。見つけるのは簡単だが、会議は最後まで座れ、疾風」
疾風はまぶたを擦りながら周囲を見回す。
「ここは風のマナが濃くてな。心地がいいんだ」
あの日もそうだった。
与えられた名前は、文字だけを変えて今も胸にある。
あの日、風が教えてくれた名前。
──…それはかけがえのない、大事な絆の証。
ふわっと撫でるように吹いた風は木の上で昼寝をしていた少年を起こすには充分だった。ふわふわと吹く風、いや、髪を撫でる精霊の稚児達。
「……なに?寝れないんだけど。せっかく気持ちよく寝れたのに……」
風色の髪をガシガシと乱暴にかき揚げ、大きな欠伸をする。世界に6本存在している『精霊樹』または『世界樹』と呼ばれる樹が、少年の昼寝場所になっていた。自意識を持った時には取得していた瞬間移動のおかげで好きな時に好きな場所の『寝床』に移動することが出来る。
「え?名前?……なんだろうね」
少年には記憶が無い。気づいたら一際大きな『世界樹』の根元で目を覚まし、自由気ままに日々を過ごしていた。今日も普段と変わらない。
「ん?あ〜…探してたの?そう、ありがとう」
そんな日々が終わったのは先週だった。保護されたのだ。不在の風王を代理している鳳凰の長に発見され、そのまま流れるように身柄を預けることになったのだ。
(なんて言ってるかは分かるんだけど、発音の仕方が分からないんだよね)
少年は『声を発する』必要の無い生活をしていた為か、言語を発することが出来なかった。精霊達と生活をしていた少年は精神で意思疎通を行っていたためだ。
(なんで『神達』とは精神疎通が出来ないんだろう?)
この世で神と呼ばれている空の上で生活している者たちと、何故か精神疎通が行えず、結果として『失語症』とされた少年は保護されてしまった。
(まぁ、そろそろダラダラ過ごすのも飽きてきたからいいんだけど。声ってどう出すんだろうな)
ぼんやりと考えると自分を探す声が聞こえる。足元を通過していく深い森の色をした波打つ髪をした青年。見目麗しいこともあり、少年は彼を気に入っていた。でなければ保護されることに同意はしなかった。
ふわりと地面に着地する。その気配に青年が振り返る。青年──鳳凰寺凰慈は少年の気配に振り返る。安堵の表情を浮かべて駆け寄ると少年を軽々と抱き上げた。少し恥ずかしい。が、嫌ではない。
「探したぞ、帰ろう」
(何か深刻な話をしていた雰囲気だったけど、終わったの?)
「気づいたらいないんだからなぁ。まるで『疾風』だな」
ケラケラと笑う凰慈は、ふと、少年を見つめる。
「名前、まだ思い出せないか?」
(……思い出せないというか、真名は言えないし。名乗る用の名前を父上につけてもらえばよかった)
どうしたものかと悩む少年が『困っている』と認識した凰慈は名案とばかりに少年に提案する。
「お前の名前が分かるまで、名前『颯』にしようか。ハヤテ、どうだ?」
地面に書かれたその文字を見つめる。
胸の奥がじわりと熱を帯びる──風が頬を撫でる。
幼い心にも、それが“祝福”だと分かった。
少年は小さく頷く。
「よし!じゃあこれからは『颯』だ!元服するまではこの名で呼ぼうな」
その名は、絆のしるし。家族の証のようで、ただ嬉しかった。
「───…起きたか?」
「…シン?」
「お前はすぐ会議を抜け出してここで寝る。見つけるのは簡単だが、会議は最後まで座れ、疾風」
疾風はまぶたを擦りながら周囲を見回す。
「ここは風のマナが濃くてな。心地がいいんだ」
あの日もそうだった。
与えられた名前は、文字だけを変えて今も胸にある。
あの日、風が教えてくれた名前。
──…それはかけがえのない、大事な絆の証。
1/1ページ
