新・成り代わりハリー・ポッターと愉快な仲間達

〔やっぱりそれって、細かいところは変わっても大筋から外れないってことじゃないかしら?〕
 ポリポリとポッキーに似たお菓子を食べながらチェスを動かしていくロン。俺はそれを向かいの席から見ながら大学ノートに日本語でスラスラとメモ書きを足していく。ホグワーツで日本語がわかるやつがいないと互いに調べ合い、こうして堂々と作戦会議は日本語で行われるようになったわけだ。
〔つまり、このままいくとなんやかんやあって結局、寄生虫ハゲとハリーがかち合う可能性がある、と〕
〔寄生虫ハゲって、ヴォルデモートのこと?〕
〔映画見た時の感想がそれしか無かった〕
 パリッと、どう見てもポテチにしか見えないお菓子を食べながらハーマイオニーはチェスの駒を動かした。そう、この2人、今魔法使いのチェスをしているのだ。もくもくと。さっきからずっと引き分けなんだよね。賭けしてるらしいけどこのままじゃ決着着かないだろうな。
「……どうでもいいと思うんだけどさ」
「ん?」
「流石に紅茶はやりすぎだと思うんだ、ハーマイオニー」
「そうか?暇すぎて、茶でもシバかんと寝そうなんだが」
「もうできちゃったしね?チェック~☆」
「げ?!」
「あっは~ん?これで通算23勝ね~☆なに勝ってもらおうかなぁ」
 あ、こりゃだめだ。すまん、グリフィンドールのみんな。俺にはこの二人を止められなかった。
「ミス・グレンジャー」
「……あ?」
「ミスター・ウィーズリー」
「あら、スネイプ先生☆どうかしました?あ、紅茶飲みます?」
「飲むわけなかろう!ミスター・ウィーズリーは15点、ミス・グレンジャーは25点減点‼2人には放課後罰則も与える!!」
 二人は、見事にスネイプから減点と罰則を受けていた。課題が早く終わったからって菓子を食いながら紅茶まで準備してチェスに興じ始めればそりゃ叱られるに決まってるだろ。俺?俺は真面目に受けてるよ。だってすぐ減点しようとするんだもん。
「どうぞご自由に。別にお宅から引かれた分は他で取り戻すから関係ねぇ」
 あっけらかんと答えるハーマイオニーにクラス中から息を飲む声が聞こえた。そりゃそうだ。堂々と正面切ってスネイプに喧嘩を売ったのだから。
「そもそも、授業の課題だった魔法薬は完璧に仕上げてやったのに、それに対する評価もしねぇんだから紅茶でも飲みたくなるだろう。あ~あ、きずついたー」
 うん。兄さん。すっごいやきもち焼いてるね。ロンの中の人の最推しがスネイプって知ってるもんね。授業は満点なのに、態度で半分に減点させてるんだっていい加減自覚してくれ……
 俺がハーマイオニーとスネイプのやり取りを尻目に大鍋の煮詰まり具合を確認していると、なんととばっちりがここに来た。
「ポッター!!何故2人がチェスを始める前に注意しなかった!!貴様も減点だ!」
「はぁ~?!先生には俺の後頭部に顔がもう一つついてるように見えてるんですか?!なんで後ろの席のバカップルの監視しなくちゃいけないんですか!無理でしょう!普通に!!」
 あまりの理不尽な物言いに、思わず机を片手でバンっ‼と叩きながら反論して立ち上がると、一瞬スネイプが半歩下がって驚いた顔で俺を見た。あ、しまった。とっさの事で声を低めにして話すの忘れてた。声変りがまだのせいか、俺の声は少女に間違われるには十分な高さを持っていた。だからいつもは意識して違和感が無い程度に声を少し低くして話していたんだけど、それをするのを忘れていた。あ、なるほど。だから一瞬固まったのか。俺の地声は、リリー母さんに似ていると、ペチュニアが言ってたな、たしか。よし、じゃあこのまま続けよう。
「無理ですよね?先生」
「……それでも、会話をしていたのだから注意は出来たはずだ。罰として放課後に三人ともここへ来るように」
 目を晒しながらとばっちりの罰則を告げられた俺は、2人を睨みつけた。ハーマイオニーはそっぽ向き、ロンは顔の前で手を合わせている。俺が減点とか罰則食らうときの原因はこの二人なんだけと、こいつらマジで自分に素直すぎんだろう……俺は深いため息を吐いて、魔法薬の提出のために席を立ったのだった。


 グリフィンドールの最強にして最高の問題児。それがハーマイオニーの肩書だった。レポートを書かせればオールS(スネイプですらSつけてた)実技に至っては教師陣からは『歩く見本』とまで言わさせた。なのに、同じぐらい減点も貰うので最強にして最高の問題児ってことらしい。この間なんて、双子と組んで悪戯してた。どんまい、フィルチ。
 ロンはといえば、俺は知らなかったんだけど史上最年少の魔法界チェスの世界チャンピオンとして有名らしい。たまに女子からサインをねだられていた。確かに時間があるとチェスの本とか読んでたなーと思った。チェスの無敗チャンピオンで賞金を荒稼ぎしてるらしい。だからお古とかおさがりとか着てなかったんだな。杖も普通に自分のポケットマネーから出したらしい。将来もそのままチェスのプロプレイヤーになるのかと思いきや「ハーマイオニーの、お嫁さん☆」と、この前、ディーンに話していた。うん、俺がスニッチを飲み込んだってこと以外は、特に平和な学生生活を過ごしていた。いたのに、罰則なんてあんまりだ……
《災難だったね》
「ほんとだよ。これから、どっかの古い部屋の掃除だぜ?魔法なしでやれってさ」
《思ったより軽い罰則だね?》
「ハーマイオニーたちは、なんか今日の夜に禁じられた森に行くって。別件で罰則食らったマルフォイと一緒に」
《夜の森は危険だけど……》
「大丈夫大丈夫。ハーマイオニーは武術全般得意だし、ロンも槍術と蹴り技が得意だから」
 というか、前世であいつらは武術道場の師範してたしな。多分、在校生の中で決闘大会したら絶対にこの二人で優勝争いすると思う。前世のことは伏せながら、そのことを電話口のリドルに告げると声を出してリドルが笑った。
《どこの部屋?》
「んっとねー……」
 絶対に使わない空き教室らしき場所を指定された俺に災難だったなとさらに笑っている声に深みが出る。すごく、胸に染みわたる。耳から、鼓膜から甘い痺れとともに胸を締め付けていく感覚。これは、何なんだろう。
「そろそろ、時間だから行ってくるね……」
《……あぁ。行ってらっしゃい……》
 この何気ない会話に癒される。ほんとに生活の一部みたいになっている。このままじゃダメなんだろうけど…でも。
 俺は静かに通話を切った。さ、掃除しに行こう。



 指定された場所はマジでどこだよここってとこだった。よく迷わずに行けたよ、俺。きっと今年の運はこれで全部使い果たしたに違いない。
「さて、やるか〜。時間指定されてないし」
 のんびりやろう〜っと。持ってきたホウキとバケツとモップを傍らにおいて俺は適当に掃除を始めた。掃除は自主的にダーズリー家でやってたからお手の物だ。鼻歌交じりだったけれど、どうせ誰もいないならいいかとガラケーから音楽を流した。あー、懐かしいJPOP。っつっても、俺は某男性アイドルデュオのファンなので8割彼らの曲しか入ってないけど。残りの1割はアニソンと、当時気に入った曲ぐらいだ。
 のんびりゆっくり、けれど丁寧に掃除をした俺は、やり残しが無いかを確認するためにぐるっと部屋を見渡した。よく見ると、壁と同化するかのようにひっそりと扉があることに気がついた。ガラケーの音楽を切って、その扉を開ける。単純な好奇心からだった。
「…ここは──…」
 ひんやりとした空気と、少しの埃の匂い。あまり広くは無い、隣接された小さな部屋。おそらく資料室とか、準備室的な用途なんじゃなかろうか。そこの大きな観音開きな窓の近いところにぽつんと古びた大鏡が月光に照らされて鎮座していた。すごく神秘的な光景に、俺は思わず息を飲んだ。あまりの美しい光景に、自然と足は鏡へと向かっていた。
 質素だけれど豪華な古びた装飾。鏡の縁には、覚えのある謎の文字。確か、鏡文字になってるんだっけ?これ。そう、これは──…
「『みぞの鏡』か……?」
 鏡を覗いた者の、心の奥底にある本当の望みや願望を映し出す鏡。原作のハリーが初めて知った『家族の顔』を知るシーン。時系列がおかしいが、それが俺の前に現れたわけだ。俺は、曇っていた鏡の表面を軽く磨いた。鏡は鮮明に俺を映し出した。
「…さて、何が映るんかね」
 正直、俺自身に何かを望んでる自覚が無い。原作のハリーは家族を知らないから、この鏡は家族を映し出した。しかし俺は知っている。ジェームズ父さん達と過ごした記憶もあるし、ダーズリー家からも愛されて育てられた。今は親友2人と再会している。望んでいたことは、既に叶っている。そんな俺に何を見せてくれるんだ?

「──…リリー母さん、ジェームズ父さん」

 ……そりゃ、生きてて欲しかったよ。
 鏡の奥から、2人が笑顔で歩いてきて、鏡の中の俺の肩に手を置いている。リリー母さんは、俺の頭を撫でてくれている。うん。2人が生きていたらってやっぱり思うから、出てきたのかな。そう思って眺めていると、リリー母さんが徐に鏡の奥へ手招きし始めた。誰かを、呼んでいる?
(誰だろう?シリウスかな)
 可能性としては高いが、シリウスを呼ぶなら、リリー母さんではなくてジェームズ父さんだろう。となるとまさかスネイプか?それはなんか嫌なんだけど…
「───…っ」
 リリー母さんに呼ばれて、現れたのは……リドルだった。夢の中で見た、5年生ぐらいの、『日記のトム・リドル』だ。心臓が、ドクンッと大きく跳ね上がった。変な汗と、体温も上がっていくのがわかる。
「……なん、で」
 鏡の中の両親は、満足そうにリドルに俺を託すと消えていった。鏡の中の俺はリドルに対して嬉しそうに微笑んで何かを話している。声が聞こえないから、まるで無声映画を見ているようだった。リドルも、鏡の中の俺のことを愛しそうに見つめていて、腰に手を回している。馴れ馴れしいぞ、お前。鏡の中の俺は、くすぐったいのか身を捩り、けれど当たり前のようにそれを受け入れ、リドルの腕の中に収まっている。そして、彼に精一杯の背伸びをして顎下にキスを送っていた。うん、鏡の中の俺よ。お前、本当はほっぺチューしようとしたろ。リドルを驚かせようとして。たしかにポカンとした表情をしてるが、そら見ろ。身長が足りないから中途半端になって顎下にキスになったせいで彼奴のツボに入って爆笑されてるじゃねぇか。

「……俺だって、触れたいのに…」

 鏡の中は残酷だ。だってこれは『みぞの鏡』。覗いた者の心の奥底の深い願いを映し出す。これを見せられて、自覚しないほど馬鹿じゃない。悔しいけれど、馬鹿じゃない。馬鹿だったら良かったのに。胸が苦しい。胸が痛い。どんなに思ったって、願ったって叶わないのに…
「……自覚、しないようにしてきたのに……っ」
 悔しい。苦しい。切ない。悲しい。痛い。愛しい……
「…逢いたい」
 クリスマスなんていらない。今すぐあいたい。会えるなら、今、この瞬間に来て欲しい。なんて、叶わないのに俺はギュッと胸を掴んだ。そのまま心臓が掴めればいいのに。そうしたら、きっとこの辛さを誤魔化せる。そう思った時だった。

「───泣かないで、ハリー」

 聞きたかった声が肉声で聞こえた。そう認識した途端に、後ろから両手が伸びてきて、ふわっと包まれる。頭頂部に、そっと乗せられたのは綺麗な顎。

 鏡の映像が波紋のように揺らいで消え、ただの鏡になった瞬間、映し出されたのは、さっきとは違う位置に立つトム・リドル。ふわりと、ダージリンに似た香りが俺を包み込んでいた。

「少し早いけど、逢いに来たよ」
「……っ」
「逢いたかった?ハリー」

 聞き慣れた声、聞き慣れた話し方。慣れない振動と、体温。その全てが、そこにいた。俺は静かに、回された腕をきつく抱き締めた。



 うん、すごく…逢いたかった。



 
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