新・成り代わりハリー・ポッターと愉快な仲間達

 なんと言うべきか……とにかく一言。

「クィディッチなんて、大嫌いだ…おぇっ」
「大丈夫?ハリー?」
「どんな確率だよ…場外に来たスニッチが口の中に入るなんてよ」
「俺が聞きたい…うぅ、胃がまだ気持ち悪いぃ…俺一生踊り食い出来そうにない……」

 そうなのだ。クィディッチシーズンになり、もちろん俺は清く正しく授業を受けたからシーカーに抜擢されることはなく。ただ、やっぱりここはホグワーツ。ナマホンの魔法学校。リアルなクィディッチ見たいじゃないか。ということでハーマイオニーとロンと3人で見に行ったんだ。めっちゃ盛り上がった。見てる分には全然OK。なんなら楽しい。そう思っていたんだ。さっきまでは。

「がんばれーー!!グリフィンドーーーオォ?!ゲホゲホッ…オ゛エ゛エ゛エ゛」


 応援のために大声出してたから、まさかのスニッチがホールインワンしてきやがったんだ。一瞬の静寂、そしてどよめき。俺が飲み込んだスニッチを、吐き出した(というか出てきた。逃げるように逆流してきた。死ぬほど辛かった)のを、グリフィンドールのシーカーが上手いことキャッチしてグリフィンドールが勝って終わった。俺の胃を犠牲にしてグリフィンドールは優勝したんだ。ちくしょう、俺はもうクィディッチ観ないっ!
 あれから、リドルは連絡が取れなくなっていた。会いに来ると言った彼は、その為に色々としてるのだろうか。メールの返信が出来ないほど。不安になる。驚くほど、依存していたことに気づいた。俺は、毎日の何気ないメールが、何よりも大切だったんだ。大丈夫かな。無理してないかな。日記でも風邪引いたりするのかな……ああ、そうだ。多分だけど。俺がメールでやり取りしているリドルは、恐らく『日記のトム・リドル』だと思う。ゴーストもどきって言ってたし。
「夢のリドルは、多分…日記前のリドル、だよな」
 悔しいなぁ。あの夢が恋しいなんて。声を聞いてしまったせいだ。会いたくて苦しくて泣きそうになる。
 医務室のベッドの上にゴロンと横になる。一応スニッチが胃袋の中で大暴れしたから今夜はここに泊まることになった。1晩様子を見るらしい。未だに胃袋が気持ち悪いからありがたいっちゃありがたい。
「ほんと、変な確率引くのは上手いわよネ」
「キラーマシンを一発で仲間にしたりな」
「そのあと連続でギガンテスも仲間にしてたわよね」
「知らねぇよお…胃が痛いよぉ…」
 マダム・ポンフリーが置いた胃薬を飲む。苦い。苦いよぉ…マグルの薬見習ってくれよぉ…
 シャリシャリとりんごの皮を剥きながらハーマイオニーは思い出し笑いをしている。ロンに至っては気になるのか胃薬の匂いを嗅いでる。こうやってみると喋らなければ映画のワンシーンのような光景だ。あ、りんごすりおろし始めた。いつの間にか近くにはちみつ…さすが元医者…安心安全のハーマイオニー印の介護飯。子供の頃、よく作ってもらったなぁ。懐かしいー。
「はちみつリンゴ?」
「これなら胃にもいいからな。粘膜が傷ついてる可能性もある。炎症を予防するのも期待出来る」
「そうね。子供頃はなんとも思わなかったけど、あなたの病人食や介護食って今思うとすごく理にかなってるのよね」
「……まぁな」
 フッと懐かしそうに目を細めるハーマイオニーははちみつを垂らし入れてさらに混ぜ混ぜとする。本当は暖かくした方が良いらしいが俺が『加熱されたリンゴはリンゴにあらず』という固い意思を持っているために加熱されたことはない(笑)
 ほいっと雑に渡されたはちみつリンゴを一口食べる。美味い。そして懐かしい。昔もよく、こうしてこのはちみつリンゴを作ってもらっていたのは良い思い出だ。他愛もない話をしていると、ミュートにし忘れていたガラケーから通知音がピロンとなった。俺たち以外いないから枕元に置いておいたのがまずかった。
「……”リドル”だと?」
「あ」
「なぁに?来年のラスボスがどうかした?」
 サブディスプレイに表示された送信者の名前にハーマイオニーの片眉が上がる。ヒィッ!あれは瞬間的にキレた時の兄さんの癖だ。
「おいこら、何来年のラスボスとメル友してんだ?」
「えっと、今年は様子見するって……」
「え、なに?どういうこと?」
「それとこれとは話が違うだろ!何か普通じゃない展開になったら、報告するだろう!」
「そうだけど、でも……」
「そもそもお前は昔から危機管理能力が足りなすぎる!お前のことだから、『友達になれば平和に過ごせるかも?』とか甘いこと考えてんだろ!!」
「もう!アタシにも分かるように説明して!!」
 話に置いて行かれていたロンが叫ぶように間に割り込むと、ハーマイオニーは呆れたように深く息を吐きだして俺のガラケーを指さした。
「俺達の知らないところで、こいつは来年のラスボスと友好関係を持ってたらしいぞ」
「は?!何考えてるのよ、ハリー!!」
 状況を理解したロンも俺に詰め寄ってきた。俺は通知の鳴ったガラケーを握りしめて首を横に振った。
「そうやって、頭ごなしに怒ると思ったから言わなかったんだ!!」
 だってそうだろ?2人は原作や映画の彼しか知らない。今、俺のために無理をしてくれていたであろう彼のことなんて、きっと受け入れないだろ。先入観で見て、彼の行動すべてに裏があるんじゃないかと詰め寄るに決まってる。夢の中の、彼を知らないくせに。知らないままでいい。あのリドルも、今のリドルも、俺だけが知っていればいいんだ。2人には関係ないことだ。
「俺たちがイレギュラーなように、このリドルも違う!優しいし、暖かいの!彼を否定しないで!!」
「ハリー、アタシたちが言いたいのはそういうことじゃないの、わかるでしょ?!」
「うるさい!分かりたくない!2人とも出てって!!」
「ハリー!!」
「──…お前」
 何故か彼を否定する言葉を、2人の口から聞きたくなかった。柄にもなく頭に血が上った俺は2人から隠れるように布団に潜り込む。ロンが頭上で何かをわめいているが知るか。とにかく今は、一人になって、彼のメールを確認したかった。
「……行くぞ、ロン」
「なんでよ!説明しないと分からないんならしないといけないじゃない!!」
「いいから、帰るぞ」
 布団越しに2人の言い合いを聞いていると徐々に声が遠くになっていきやがて聞こえなくなっていった。そっと様子を見れば、医務室は無人になっている。
「…優しいんだよ、そこにいるんだよ…“登場人物”じゃないんだよ…」
 理解されなくていいけれど、否定はされたくない。
 生い立ちが似ていると感じた。原作で知った彼の幼少期の設定が。自分と。だから物語のラスボスだったとしてもそこまで嫌いにはなれなかった。身近に信頼できる誰かがいるかいないかで、恐らく俺もそうなっていたんじゃないか。そう思った。
 転生前の俺も、ホントの両親の顔を知らない。温もりなんて分からない。育った施設では“化け物”や“魔女”と言われながら育った。ただ、霊が見えるってだけで迫害を受けてきた。養子縁組が決まった先は母方の親戚で。後継者が届けたから跡を継ぐことを条件に引き取られただけで、そこに家族愛的なものなんてなかった。求められたのは“後継者”という名の商売動画だったのだから。そんな環境も孤独も、2人には理解させることなんてないんだ。


「……あれ」
 フッと目を開けると、そこは見慣れた夢の部屋だった。
「──リドル!」
 ホグワーツ入学前によく見た、いや、よく会っていた夢。ベッドから勢いよく身体を起こすと、窓際に人の気配を感じた。振り返ればそこにはずっと会いたかったリドルの姿があった。けれど…
 恐らくこのリドルは、俺とメールをしているリドルの“過去”なんだろうな。
「……ハリー」
「…リドル?」
 俺の存在に気づいたリドルも、ゆっくり振り返り、俺を認識すると辛そうな苦しそうな、表現し難い表情を浮かべた。
「…君は、何処にいるんだ?」
「え」
「こうして夢で逢えるのに、入学式にはいなかった」
「……」
「だから調べたんだ。夢で邂逅することが出来る魔法使いや魔女は、コントロールが上手くいかないと過去や未来の者と繋がってしまうことがあると。君は、未来の人なのか?」
「…うん。俺、ホグワーツに入学して、すぐリドルのこと探したんだ。そしたら、50年前の生徒だった。すごいね、当時の最優秀生徒に名前があったよ」
「50年……」
 リドルは、目を見開いた。瞬間に、その奥に絶望の色が見えた。
「そうか…50も離れてるのか…」
「リドル?」
 瞳を伏せ、自虐気味に笑うリドルの頬にそっと触れる。暖かい。でも、冷たい。
「…泣いてたの?」
「…どうだろうな、そうかもしれない。君に会いたかった。会っていれば、良かった。会えれば、良かった」
 頬に触れていた俺の手を、そっと握り締めたリドルがゆっくりと顔をあげる。長いまつ毛に隠されていた瞳がゆっくりと俺を映し出した。
「……?!」
 俺の好きな、濃い紅茶色の瞳は血のように深い紅色へと変わっていた。
「リド…?!」
 名前を呼ぼうとした俺は、言葉を食われてしまったことでそれは叶わなかった。

 俺は今、リドルに口を塞がれた。リドルの口によって。

「…んっ……ぅんっ」

 話しかけるために名前を呼ぼうとしていた口を、口で塞がれたわけだから、リドルの舌が侵入してくるのは容易だっただろう。リドルはいつの間にか俺を腕の中に閉じ込めて、俺の口の中を蹂躙していく。徐々に薄くなる酸素に俺は抗議するためにリドルの胸をドンドンっと叩いた。
「いきなりなにっ……何してんだ!」
「…実験」
「は?!」
 バクバクと心臓が痛い。耳が鼓動の音で苦しい。なんだか、リドルが俺の知るリドルではないような気がした。
「くっすぐたい!」
「実験だから、諦めろ」
「だからなんだよ!」
 顔に熱が集まるのがわかる。首元からやっとリドルが顔を上げてくれた。リップノイズ付きで。お前、夢なのをいいことに、俺の首に跡つけやがったな?
「……ハリー」
「…なに」
「…嫌だった?」
 そっと唇をなぞられる。瞬間にさっきのキスが脳裏に浮かび咄嗟に首を横に振っていた。でも、なんだろう…何かが違和感だ。

「…嫌じゃない、けど…嫌だ」
「………」
「…リドル、なのにリドルじゃない」
「───」
 そう。違和感。目の前のリドルは今までの夢のリドルでも、メールのリドルでもない。そうだ。違う。でも、違わない。
「…優秀だな。良いことだ」
 リドルはふわりと優しく笑う。俺の知ってる笑い方。俺の知ってる笑顔。
「迎えに行くぞ、俺様のハリー」




「─────?!」
 ガバッと飛び起きた。ドクドクと心臓がうるさい。辺りは静かになっていて、恐らく真夜中ぐらいかもしれない。寝落ちたのか、それとも薬の副作用で寝ていたのか分からないけれど、ガラケーを持ったままの状態で寝てしまっていたようだ。静まった空気と冷えた空気が首筋を撫でていく。
「……夢」
 夢なのか?ほんとに?首筋がまだ熱いし、唇に感触も残っている。背中に伝う冷や汗も、リアルに残っている。ふと視線に気づいてそこに目をやると、おっかなびっくり。なんとターバン先生ことクィレル教授がそこに立っていた。なんでお前がここにいるんだ?
「…先生?」
「や、やぁ。ポッ…ポッター。体調は、だっ大丈夫かな?」
「え?あ、はい」
「わ、私の席から…きっ君がちょうど…みっみっ見えてね!」
 なるほど。俺のスニッチホールインワンの現場を見たと。ならこんな夜中じゃなくて夕方とか昼間に来いよ。あと……
「……先生、森へ行ってたんですか?土の匂いがしますね」
 原作では、ちょうどこのぐらいの時期で本来なら“御三家”は禁じられた森へ行っていたハズだ。ドラコも。俺たちはそこまでの罰則を受けるようなヘマはしてないからどうかは知らないけど。
(もしかして、クィレルが居たからあんな夢を見たのか?たしか1度ハリーを殺し損ねて、ヘマしないように見張るために後頭部に張り付いたとか言ってなかったか?あれ?違ったっけ?映画か原作かは忘れたけど)
 未だに残る感触を拭うように、無意識に首元を拭く仕草をする俺に、クィレルの首が小さく左右に揺れた。これは、もう後頭部にいるかもしれないな…ってことは、もうユニコーンの血を飲んだんか?飲んだんだろうな。“匂う”し。
「じゅっじゅっ授業で使う……やっやっやっ薬草を、取りにね」
「…そうですか。体調は大丈夫ですから、ご心配ありがとうございます。もういいですか?寝たいんですけど」
 そもそもお前が俺のところに来るのは違和感しかないんだよ。マクゴナガル先生ならわかるけど。担当している寮、ないだろお前。
 淡々と、感情の無い声でクィレルに“帰れ”と態度で示すと意外とあっさり帰ってくれた。うん。個人的にクィレルは苦手なタイプなんだ。だからさっさと帰って欲しかった。静寂が辺りを包む。誰もいない医務室で、そっとガラケーを開く。メールの知らせが3件。ひとつはハーマイオニー。無理せず寝てろという内容。テーブルにはちみつリンゴを作って置いてあるから、食べれそうなら食べるようにと追記があった。もう1つはロン。朝迎えには来るけれど、念の為着替えを置いておくから、寝汗が気持ち悪かったら着替えてねという内容。タオルもあった。魔法でほんのり温かい状態をキープしているタオルは、後でありがたく使わせてもらおうと思った。
 最後のメールは、リドルから。

《返事を返せなくてごめん。色々準備があって返せなかった。クリスマス、君に会いに行けそうだよ。楽しみにしていて


誰にも見られないように、ここに来て》

 カメラ機能に気づいたらしいリドルは、地図の写真を貼りつけていた。そして追伸も。


《このカメラ機能って便利だね。今度君の写真も送ってよ》



 人の気も知らないで…俺の顔なんか見ても味気ないだろう。お断りだ。でも、ありがとう。

 リドルのメールで胸が満たされた俺は、さっき見た夢のことなんてもう頭の片隅に消えていっていた。それに首元が見えないから気づかなかった。あれは夢ではなかったんだ。いや、夢の出来事に身体が反映された、が正しいかもしれない。キスマークほどでは無いがうっすらと、赤くなっていたから。


 
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