新・成り代わりハリー・ポッターと愉快な仲間達

ーーー生い立ちが似ていると感じた。彼の幼少期の設定が。自分と。だからか物語のラスボスだったとしてもそこまで嫌いにはなれなかった。身近に信頼できる誰かがいるかいないかで、恐らく俺もそうなっていたんじゃないか。そう思ったーーー



 ホグワーツでの生活がいよいよ始まるぞ。案内された大広間にちょこんと置かれた古びた三角帽子。映画よりも幻想的な天井と浮かんでるのに蠟が垂れてこない蝋燭。あれはなんで垂れてこないんだろうか。確か最初の映画の撮影でワイヤーで吊るして撮影したらボヤ騒ぎが起きてCGになったんだよな。
「何間抜けた顔して見上げてんだ?」
「蝋燭でしょう?綺麗よねー、幻想的でいかにもって感じ」
「うん。実際どうやってんのかなーとか。管理が気になってさ」
 兄さんに間抜けと言われたのはとりあえずスルーして、『ハリポタガチ勢』のロンも詳しくは知らないらしい。曰く、公式からの詳しい設定の説明は出ていないそうだ。
「あれはなー、計算オタクのロウェナが緻密に計算して作った魔法だからな。天井と空模様の投影も、戦争で外に出る制限がされてた頃にヘルガが子供たちのために作った魔術だからな。しかも二人共文献にも残してないから同じのを使用するってのは無理だろうな」
 なぜ当たり前のように知ってるんですか、ハーマイオ兄さん。あれ?どっかで調べたの?でも文献にないって今言わなかった?
「そうなの?」
「……って、さっきその辺で上級生のガキが自慢げに話してた」
 又聞きかよ。
「んなことより、組み分けが始まるぞ」
 興味なさげにあくびをしながら指さす兄さんにつられて、ロンと二人で視線を前に戻す。ちょうどマクゴナガル先生が組み分けの説明をしているところだった。そして組み分け帽子が歌を詠み始める。終われば拍手喝采とともに楽しい組み分けの時間だ。
 組み分けの順番はABC順だ。だから兄さんからになる。
「グレンジャー・ハーマイオニー!!」
 ファミリーネームのABC順ね。
 呼ばれた兄さんは眠そうにしながら無表情でトコトコと歩いていく。あの歩き方は、知っている。あれは半分寝てる時の歩き方だ。実は生前の頃の兄さんは睡眠障害を持っていて、不眠症だった。ロンの前世である、婚約者の隣でしか寝れなかったらしい。子供の頃かだと聞いたことがある。2人従兄妹だし、一緒に暮らしてたらしいからその時に何かあったのかも知れない。俺は初めから2人の生活に関わっていたわけじゃないから詳しいことは分からないけれど。

「ざっけんなよ、このオンボロが!今なんつった?!」
「ひぃ!!ごめんなさいすいません!!グリフィンドールですぅ!!」
「待てこら帽子!話はまだ終わってねぇんだよ!後で覚えとけよ!」

 え、待って。なに?何が起きたの?なんで兄さん杖から炎出して帽子燃やそうとしてんの?そしてなんでそんなに怒ってるの?俺が回想してる間に何があったの?ロン、爆笑してないで教えてくれよ。
「数回言葉を交わした後に、帽子が彼に向かって『可憐なお嬢さん』って言ったのよ」
「……なるほど。でも実際今、兄さん、少女だしなぁ」
「それでも『可憐』って言われたくないから鍛錬は欠かしてないそうよ?」
「なるほどねぇ。こりゃ転生あるあるの『性転換薬』とか作りそうだな、そのうち」
「確かに~」
 兄さんの逆鱗に触れた帽子をマクゴナガル先生が無事に救出するのを見届けながらロンと笑いあった。兄さんはグリフィンドールのテーブルに腰掛けて頬杖を付きながら視線を斜め上に向けていた。なんとなく其の視線をたどると、サラザール・スリザリンの石像だった。その表情は、思慮深く何かを考えてる様だった。
「ねぇ、ハリー」
「ん?」
「今のところ、私たちの知っている『ハリーポッターと賢者の石』の通りに進んでるわよね?」
「細かいところは変わっても大筋は変わってない印象かな」
「スネイプ見てどう思う?」
「渋いイケオジにイケボで驚いている」
「原作ではイケオジ設定は無いんだけど、普通に見た目ダウナー良い感じよね?」
「あの髪のねっとり具合は癖毛を直すためにワックスを多用しているためと見た」
「クィレルは?今年の黒幕」
「それが特に頭痛くならないんだよなー。なんでだろう」
 原作でも映画でも、このシーンでハリー少年は痣に痛みを感じていた。だが今のところその気配すらない。やはり細かいところでズレているようだ。そもそもここは本当に『ハリポタ』なのか。情報が少ない。賢者の石が盗まれてくれれば確定なんだけどなぁ。

「ポッター・ハリー!」

 シン……と、静まり返っている。この場にいる誰もが俺に注目している。原作のハリー少年は緊張していたが、俺は特に気にせずにスタスタと歩く。前世の家業のせいで、良くも悪くも俺には他人の視線というものは日常茶飯事だったせいだ。
 古びた帽子が頭に乗せられる。帽子がもぞもぞと動いてくすぐったい。
「これは、いやはや……」
「え?」
「なんということか…君は、そうか君が……」
 何だろう。なんでそんなに嬉しそうな泣きそうな声なんだろう。
「       、   」
「え?」
「ならば、グリフィンドール!!」
 帽子が小さくつぶやいた。それはにわかには信じられない台詞で、映画でも原作でも無い台詞だった。
 割れんばかりの歓声があたりに広がる。マクゴナガル先生に促されて立ち上がるが足が進まない。どういうことだ。なんでそんなこと言うんだ。
「大丈夫か?」
「……兄さん」
「詳しくは後で聞く。今はテーブルに行くぞ」
 動こうとしない俺を迎えにわざわざ来てくれたハーマイオニーは、俺の手を引いて誘導してくれた。帽子に言われたことについて考えようとしたけれど、周りの喧騒がそれを許してくれなかった。めっちゃうるせえ。考え事もさせてくれねぇ。
 無事にロンがグリフィンドールに割り振られて、入学式は終わり、宴席が始まる。俺はといえば両サイドをハーマイオニーとロンに固められているため、周りが話しかけづらいらしい。それでも煩くて集中できないけど。色んな料理があるけれど、和食は無かった。かなしい。和食が恋しい。
「で?帽子に何を言われた?」
「えっと……」
 席に案内されたあと、さりげなく確認を取られる。なんと言えばいいのか俺は悩んだ。
「言いたくないなら別にいいんだが」
「そういう訳じゃないよ。ただ、なんでだろうって……『お帰りなさい』って言われたから」
「ーー…」
「ご両親が昔連れてきたことあるとかじゃないの?」
「うーん、原作にはそんなシーンなかったし俺も記憶してないからなぁ」
 ロンはオレンジジュースを飲みながら栄養バランスを考えて料理を取り分けてくれていた。そういや、昔に管理栄養士かなんかの資格取ってたっけ、お前。料理は壊滅的にできないのに。
「…ま、今気にしてもしゃあねぇし、とりあえず飯食って今後のことを決めるぞ」
 原作や映画の流れで進む日もあれば、そうでない時もある。闇の帝王の存在はちゃんとあるから、恐らくキチンと今年は『賢者の石』なのだろう。俺たちはどう振る舞うのか?起きなかった時と起きてしまった時の対応を考えるべきだと、兄さんは言う。
「原作や映画を『予言の書』扱いするつもりはねぇが…“俺達”というイレギュラーが実際に起こっている。こういう場合、必ず大きな歪みが生じる。その結果、死なない奴が死ぬことも起こりえる」
 取り分けられた料理を頬張りながらハーマイオニーは続けて言った。
「『原作』を『世界そのもの』だと仮定すると、俺たちは未来を変えることができるということになる。ただし、その結果変わった先で何が起こるかは不明だ。そもそも普通の人生でも未来なんて分かんねぇけど。要は俺達は『攻略本や攻略サイトを片手にゲームしてる』様なもんだ」
「こういう時って、だいたい黒幕がいたりするわよね?それをどうにかしたら元の世界戻れたりとか?」
 ロンの問いにハーマイオニーは少し間を置いて首を横に振る。
「それは無いだろう。そうだろ?ハリー」
 ハーマイオニーが俺を見るには訳がある。俺は、この世界に転生する前に“二人の死を見ている”からだ。
 俺は小さく頷いた。ロンの転生前の俺の幼なじみは、病死。手術をしなければ助からなかったが、一か八かの希望で本人がそれを拒否。理由は、妊娠していたからだ。投薬することも出来ず、経過観察と食事療法で安静にする。そうして上手くいけば確率は、低いが帝王切開で出産出来るかもしれない。それに賭けたけれど、容態は悪化して母子共に亡くなってしまった。
 ハーマイオニーの転生前の俺の幼なじみの死因は…あまり人に言えるものではないから伏せる。ただ、考察出来るように情報だけ教えるなら、彼は医者で自分の婚約者の主治医をしていた。これぐらいかな。あとは想像に任せるよ。俺の口からは、言いたくない。
 俺?俺は…仕事中の事故死かな。奉納の舞を舞っていたら社が崩れて下敷きになったのは記憶にある。恐らくそのまま死んだと思われる。つまり俺達は、ほんとに転生しているってことだ。
「んで、質問。お前ら、ここでの生活どうしたい?」
 ハーマイオニーの質問に俺の思考は二人にもどる。昔のことを考えるのは、今はよそう。今はとりあえず『現在』について考えるべきだ。
「アタシ?そうねぇ。普通に学生生活満喫したいわ」
「右に同じ。クィディッチもやりたくない。平和に暮らしたい。穏やかに静かに暮らしたい」
「んじゃ、俺達は問題や事件が起きても基本的には傍観する方向でいくぞ」
「ラジャ〜」「あーい」
 こうして俺たちの方向性は決まった。『何もしない。問題は大人に任せる』だ。前世の記憶を保持しつつ、魔法学校に通えるなんて絶対楽しいだろ!そう!エンジョイしようぜ!そういう話で落ち着いた。


 まぁ、俺は……ヴォルデモートをぶん殴るのが目標だけど。


 

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