新・成り代わりハリー・ポッターと愉快な仲間達

 あの日以降、俺とハーマイオニーは連絡を取りあった。メールで『子供でも簡単!基本魔法集〜覚えておくと生活に便利な魔法達〜』の抜粋が送られてきた時はビビったけど。原作のハーマイオニーももしかしてこういうのを読み漁って一定以上の知識を身につけたのだろうか?
「そりゃ、何も無いマグルからすれば、賢い子なら事前に学習するだろうね。そのグレンジャーという女子はとても賢い方だと思うよ」
「なるほどなぁ〜」
「君も少しは予習した方がいいと思うけどね」
「え〜、折角ならリドルから習おうかなと」
「…ハリー、長文読むの苦手だね?さては。」
「ちっがうよ!兄さんのメールは、こう…硬いんだよ。報告書みたいな感じ?もっとフランクに送ってきて欲しいもんだ」
 あまりないこと。もう二度とないだろう。お互いにそう思っていた。けれどあれから俺達はほぼ毎日、夢の中で邂逅を続けていた。
  「あれ?」
  「珍しいことあるものだね」
 どこにでもありそうなワンルームの部屋にダイニングテーブルとベッドがひとつ。ちいさなキッチンもある。見覚えがあるのは、そう、かつて俺が住んでた部屋だということだ。というかそのイメージとイギリスの部屋?のイメージが混ざった感じだ。おそらく、俺とリドルの部屋のイメージが混ざっているのかもしれない。初めの頃はお互い『君』や『お前』等で呼んでいたけれど連日会うので最早自己紹介を済ませてしまった。それがだいたい3日前だった。ただし『お互いにファーストネームしか教えていない』けれど。あ、リドルはファミリーネームか。まぁいいけど。
「僕からかい?」
「だってリドルもホグワーツの生徒だろ?先輩じゃん」
「それならもう少し年上に対する態度を改めたらどうだい?」
「えー、最早今更じゃんよー、ヤダー」
 紅茶や珈琲が好きな俺が紅茶を淹れると自然とクッキーを出してくれるリドル。
 勉強を習いたいと言えば、本棚から参考書を出してきてくれるリドル。
 話せば、普通に談笑してくれる…トム・リドル。
「……君、本当に紅茶とか淹れるの美味いよね。店並みだよ」
「『好きこそ物の上手なれ』って諺が日本にあるんだけど、いい言葉だよな」
「日本…?アジアの小さな島国だよね?」
「うん。俺日本好きだから」
 だって中身は日本人だしね。
「ふーん。まぁいいや。習うなら隣に座りなよ」
「はーい。リドル先生、お願いしまーす」
 俺は素直に隣に移動する。リドルは1年生用の教科書を手にしていた。隅にはリドルの名前が書かれていた。やはりここはイメージや記憶が反映された空間らしい。それとも夢だからご都合主義なんだろうか。
「…あれ?君、ポッターって言うのかい?」
「へ?あ…」
 ノートの隅に同じように名前を書いていた俺。あー…しまった。『ハリー・ポッター』だとバレてしまった…
「確か、ポッターという名前で魔法薬で一財を築いた魔法使いがいたはずだけど…その親戚とかかもね」
(……え?)
 本棚から別の本を取り出して数枚捲ったリドルが指を指す。そこにはたしかにポッター家の魔法使いが載っていた。ものすごくジェームズ父さんにそっくりだ。あれ?こうして見ると、俺って髪の毛以外は似てないな。リリー母さんに似てんのか?
「……」
「金庫に沢山金貨があったんだろ?多分君は彼の子孫なんだろうね。どうする?魔法薬から手をつける?………ハリー?」
 彼は、彼のオーラは濁っていない。嘘をついていない。人は、どんなに嘘が上手い人でさえ、嘘をつく時や騙そうとする時に魂の輝き──オーラが濁る。悲しいかな、前世の時の霊能力は引き継がれているらしい俺には、彼が真実を言っていることがわかった。出会ってから1度も彼は俺に嘘を言っていない。名前を知った時でさえ揺らぎはなかった。じゃあ今、俺の目の前にいる『トム・リドル』は…学生時代のトム・リドル?過去の、トム・リドルなのか?
「なんでもない…教えて、リドル!」
 不思議そうに俺のことを覗き見る完璧なイケメンから目を逸らしながら俺はノートを広げた。もしかしたら、彼は過去のトム・リドルかもしれない。



「────…夢、か」
 目が覚める。健やかな目覚めである。どれほど俺は列車に揺られていたのだろうか。
「一時間ぐらいか、お前にしてはよく寝たな」
「ハーマイオニー……」
「ほら、薬だ。まさか転生しても乗り物に苦手だとはな」
「……ありがとう。俺もこれには泣きたい。霊能力ならコントロール出来るからいいけどさ」
 そう。俺は乗りものに弱い。ブランコで気分が悪くなる程だ。だからこそ俺は声を大にして言いたい。絶対に、クィディッチはやらない!ストーリーとかそんなものは知らない!無理な物は無理だ!!
「大変ねぇ〜、アタシは早い乗り物とか好きだけど」
「それはお前がスピード狂だろうが。お嬢はお前よりも繊細なんだよ、一緒にすんな」
「やーん!ハーマイオニーが辛辣~!ハリー、慰めて〜」
 ここは、ホグワーツ特急のコンパートメントの一室。そう、コンパートメントだ。ちなみにいつもの俺はすぐに乗り物酔いはしないし気絶もしない。今回乗り物酔いをしたのはコイツのせいだ。
「その話し方!マジでやめろって?!ロン!」
 ロナルド・ウィーズリー。通称ロン。原作ハリー・ポッターの親友。チェスの名人。永遠のフツメン。
 だ っ た よ な ?
「えー、いいじゃない。アタシはアタシよ?たまたま転生したら男だったってだけで」
 今俺の前にいるのは、オネエ口調のロンだ。いや、訂正しよう。前世で俺の幼なじみであり、ハーマイオニーの前世と婚約していた女性が、ロンに転生しているようだった。だって、コンパートメントに入っての第一声は……

「はぁ〜い☆呼ばれてとび出てやって来ました〜!あなたのアイドル、ロンで〜す∠(。ゝ▽・)キラッ☆』

 星間〇行が流れるかと思うぐらい見事な『∠(。ゝ▽・)キラッ☆』だった。永遠のフツメンは、モデル経験者のメイク技術で普通のイケメンになっている。原作通りに背も高い。お前絶対モテるだろう。

 そんな出で立ちで現れたロンに、乗り物酔いが始まっていた俺は驚きのまま気を失ったのである。
「だぁーってー、連絡取りたかったのにハーマイオニーがダメって言うからァ」
「お前の場合はそのまま会いに行くだろう。ダーズリー家が不憫すぎるだろうが」
 呆れたような口調で言うハーマイオニー。想像してください。

 中身男のハーマイオニーと中身女のロン。俺も中身女だけど。

「絶対、これ原作通りにいかないだろ」
 ロンの中の人は、原作マニアだけど。あ、だからテンション高いのか。
「早くつかないかしらァ〜!アタシ、親世代推しなのよねぇ!特にルーピン先生×スネイプ先生推しなんだけど」
「メタ発言は日本語でやれ」
「あの優しい笑顔がいいのよねぇ」
「それは俳優の顔だな」
「あー!でもでも、やっぱり1番はダンブルドアよね!髭の長さどっちなのかしら?」
「それも俳優だな。お前原作マニアならそこは気にしろよ」
 うーん。この夫婦漫才を見るのも懐かしい。
 ハーマイオニーの中の人ーー『兄さん』と、ロンの中の人は前世の俺の実家がやってた道場で師範の資格を取ったほどの実力者だった。門下生▶師範▶婚約者という経緯の2人だ。
「ハーマイオニー、髪の毛ふわふわ〜!ねね、セットしてもいい?」
「好きにしろ」
「わーい!」
 鼻歌混じりにブラシ、リボン、杖を交互に持ち替えながらハーマイオニーの髪の毛をツイン編み込みリングにしていく(正しいヘアセット名が分からない)ロンは器用だ。うん、そうだね、気にするのはもう辞めよう!
 懐かしい2人のやり取りを暫く見ていた俺は、何気なくガラケーを開いてみる。無論、連絡先はハーマイオニーとロン。この2人しか入れていない。2人が何もしてこなければ、この携帯はうんともすんともいわない。


 はずだった。


「……新着メール?」
 コンパートメントにやってきた移動販売に買い出しに向かった2人が出ていき、俺が1人になったタイミングでそれは告げた。
「なんだろう。俺別に欲しいの無いけど」
 買い出し確認のメールをどちらかがしたのだろうか。そう思いながらメールを開く。

『こんにちは
 この携帯を拾ったのだけれど、連絡先がひとつしか入っていなくて連絡してみたんだ。もし持ち主か、その知り合いだったら返事をください

   トム・リドル』


「え」
 送られてきたメールアドレスは、仕事用に使い分けていた俺のガラケー。2つ持っていた俺のもうひとつの、携帯。それを、トム・リドルが……持っている?


 少し考えた後、2人が帰ってくる前に俺は眠ることにした。夢で、もしまた会えたら確認しよう。返信は、その後でもいいだろう。

 「君も少しは予習した方がいいと思うけどね」

 「……君、本当に紅茶とか淹れるの美味いよね。店並みだよ」

 紅茶や珈琲が好きな俺が紅茶を淹れると自然とクッキーを出してくれるリドル。
 勉強を習いたいと言えば、本棚から参考書を出してきてくれるリドル。
 話せば、濃い紅茶色の瞳を柔らかく細めて談笑してくれる…トム・リドル。

 どうしてかな。今あなたに、無性に逢いたい。



 

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