新・成り代わりハリー・ポッターと愉快な仲間達
「直ぐに返信しろ、そうメールしたはずだが?」
「はい、すいませんでした!」
「わかりゃ良いんだよ。おら、行くぞ」
俺は今、ダイアゴン横丁に来ている。最初はもちろんハグリッドと来ていたがグリンゴッツ銀行の後の別行動中に本屋の前でばったりと『彼女』に出会ったのだ。そう、ホグワーツ魔法魔術学校きっての才女『ハーマイオニー・グレンジャー』に。
物語ではまだ絡むはずがないのでスルーしようとしたら日本語で『おい、無視すんな。愚妹』と話しかけられ咄嗟に振り返ったのが運の尽きだった。
目を細め、片眉を上げたふわふわ栗毛の美少女がそこには立っていた。原作にあった『出っ歯』は何処かへ消えている。イメージして欲しいのは『映画のハーマイオニー』だ。あの美少女がまじで目の前にいる。何人か振り返って彼女を確認しているほどだ。そんな美少女の口から違和感ありまくりの流暢な日本語が飛び出しているのだから目を見開くのは致し方ない。
「…え、その呼び方、え??まさか……兄さんなの?」
「チッ…そこに触れんな。黙って着いてこい。今後のこと話すぞ」
「いやいやいや!せめて口調は改めよう?!ハーマイオニーだよ?!女の子!今は女の子!!」
「あ?知るかよ。女だろうが男だろうが、俺は俺だ。合わせる気も直す気もねぇよ」
うわぁ…全国のハーマイオニーファンの方、ごめんなさい……どうやら転生前に従兄弟だった俺の幼なじみ、通称『兄さん』が『ハーマイオニー・グレンジャー』へ転生してしまっていたようです。もう品行方正な彼女は出てこないと思ってくれ…今目の前にいるのは、格闘技・武術マニアで剣術の師範の資格を持っている青年の魂を受け継いだ可憐な美少女だ。兄さんは医者だったから才女には変わりないだろうけど。
「ここでいいか」
適当な喫茶店へ入った兄さんは慣れた様子で注文していく。俺の分も勝手にしていく。
「んで?お前は『お嬢』で間違いないな?ハリー・ポッター?」
「……うん」
「はぁあ…マジかよ。よりにもよって『ハリー』かよ…毎年トラブルに巻き込まれるじゃねーか」
「ごもっともです…俺は平和に暮らしたい」
「ならあまり目立つ行動は控えるこったな。それでどう変わるかは知らねぇけど」
さっきから思っていたけど、なんで兄さん、魔法界のものに違和感無く溶け込んでるんだろう。所作というか…なんか慣れてる?板についてる?感じ。映画しか知らない俺より詳しいのはわかるけど(婚約者の幼なじみがハリポタマニアだったから、おそらくその影響は受けてるはずだ)明らかに生活に慣れている。
「とりあえず、買い物を済ませるか」
「え?」
「俺のは終わって、もう両親に渡してある。友達と会うと言って先に帰ってもらってるからな。気にするな」
「そうなんだ」
「ほら、行くぞ」
「うん!」
性別は、お互い逆になってしまったけれど。なんなら歳も同じになったけれども。昔のように『従姉妹というか妹』のように扱ってくれるのが、なんだか嬉しかった。
「あぁ、そうだ。ハリー」
「ん?」
「あいつもな、転生してるぞ」
「え?」
「会うの楽しみにしてろ。俺もまだ会ってねぇんだ。スマホで連絡は取れてるんだけどな」
「──…うん!」
「どうやら、向こうだとマグル界には通信がしにくいらしい。だからお前に連絡出来ないって泣きつかれたぜ」
もう1人の幼なじみ。そして『兄さん』の婚約者。彼女も、この世界にいるらしい。誰に転生してるんだろう…?
「………ねぇ、兄さん」
「ん?」
「もしも『彼女』が女の子だったら?」
「は?それがどうした?あいつは、俺の恋人で婚約者だ。性別は関係ない。あいつの記憶も持ってる。なら変わらず婚約者だ」
あー、これ。この『兄さん節』が懐かしい。でもさ?兄さんよ。相手が同性でも良いってことだけどそれは世間体的にどうなのさ。
「男でも愛せる自信あるからな」
あ、なるほど。ハーマイオニーだけど中身は完全に兄さんだから恋愛対象云々の前に、最早『彼女』以外眼中に無いんだな。うん、ならいいや!(思考を放棄した)
✧• ───── ✾ ───── •✧
ボフッとベッドに流れ込んだ俺は、メガネを外しグリグリとこめかみを押した。疲れたなぁ、半日かけて買い物を終えたからなぁ…少し仮眠を取ろう。夜になったらダドリー夫妻に話さねばならない。
夢を見る。いつものように、ハロウィンの夜の日を。何度も、何度も繰り返し見る。目覚めると、悲しくて。酷い時は泣きながら目覚めることもある。
「何も、できない…出来なかった…」
せめて、夢の中でぐらい、都合のいい展開に改変されてもいいじゃないか。そう思う。けれど記憶は無惨にも、母の絶命する瞬間を何度も俺に見せた。
「──…ねぇ」
「…え?」
「大丈夫かい?」
それは、唐突だった。いつもなら真っ暗に暗転して、暫くしたら目が覚める。それがこの悪夢のルーティーンだったからだ。
「……きみは、だれ?どうして、ここに?」
「…多分、うたた寝をしてるんだと思うんだけど……僕と君の夢がリンクしてしまったのかな?昔そういう現象が稀に報告されているって論文を読んだことがあるよ」
息を飲むほど美しい造形のルックスをした10代半ばの少年が困ったように微笑んだ。サラサラと揺れる絹糸のような黒髪が羨ましい。良いなぁ、ストレート。前世の俺もストレートだったのになぁ…
「これ、使って」
「…ありが、とう」
絵に書いたようなスマートな動作でハンカチを渡される。涙でぐしゃぐしゃになっている俺のために出してくれたらしい。すいません、普段からハンカチ持ち歩かないタチなもんで…少し借りた。夢だし、洗って返すとかその辺のことは考えてなかった。
「……これ、どういう状況なんだろう?」
「多分、僕と君の波長が近いのかもしれないね。波長が近い魔法使いや魔女はこうして夢でコンタクトを取り合えるという論文を読んだよ。訓練次第でその技術も習得できるらしいけど…僕はそんな技術を習得してないから、可能性としては前者かな」
「気が合う、てきな?」
「そんな感じかな」
おそらく5つ前後は歳が離れている見た目なので(中身は四十手前だけどな!)彼の俺に対する口調がとても優しい。あ、あともしかしたら女の子に思われている可能性もあるかも。オーバーサイズが好きなせいか少し大きめの服を好む俺は、伸ばしている髪の長さとガリヒョロな体型のせいで日常的に女の子に間違われることが多かった。
(ただの夢なら、別に訂正しなくてもいいか)
いちいち訂正するのも億劫なので、関係が薄い人には勘違いさせたまま放置している俺だった。
「…落ち着いた?」
「……うん。ありがとう…えっと」
「うーん…こういうのは、名前言わない方が面白いと思わない?」
少年は悪戯小僧のように微笑みながら提案してきた。おそらく、彼も同じことを考えているのだろう。
(まぁ、どうせ今後関わることもないだろうしな)
俺は小さく頷いた。すると、ふわりと優しく頭を撫でられる。何故かその手の温もりに、俺は酷く安心感を覚えてしまった。
「そろそろ起きる時間だ。またね、眠り姫」
「───…っ」
ふわりと、夕焼けのような赤い瞳が柔く蕩けるように微笑まれた。完璧なルックスの彼に、こんな微笑み方をされたらさすがの俺でもちょっと心臓が跳ねる。恋愛思考は女性と同じなのもで……俺の恋愛対象、男なんだよね。ハリーに転生していても。
耳元で、設定していたアラームのバイブが鳴る。ブブブ…と。ノールックでそれを止めてぼんやりと見慣れた天井を見上げる。完璧なルックス。甘い声。そして紅茶色を濃くした夕焼け色の瞳。そして身につけていた“シルバーとグリーンのネクタイ”。
「………なんで、夢にトム・リドルが出てくるんだ?」
そりゃ、『ハリポタ』の中ではスネイプ先生と並んで好きなキャラだったが。俺はヴォルデモート卿ではなくて、何故か学生時代のトム・リドルが推しだった。なんでは未だに不明。だ・が!
「めっちゃ……顔が良かった…映画の俳優さんもバチくそイケメンだったけどその上をいくイケメンとか…マジかー」
あのルックスなら『完璧なルックス』と表現されるのも納得だ。生きた彫刻のようにホントにマジで全てがかっこよかった。惚れそうになるレベルだ。
「…まぁ、来年嫌でも関わるけど。関わりたくないなぁ…平和に暮らしたい…でも」
俺は、ハリー・ポッターなのだから。きっと平和にはいかないだろう。周りが否応無しに関わりに来る筈だ。それらから身を守るためにも、俺はホグワーツ魔法魔術学校に行かないといけない。そのことを、夫妻に報告しないといけなかった。だから夜まで待ったんだ。ダドリーが寝た後に、報告する為に。
「そんな……!」
「ふん!やはりな、お前は両親と同じでヘンテコだった!!」
うん、2人の反応が真逆過ぎて俺ビックリよ。特にペチュニアなんて泣いてるけど。え、そこまで気に入ってくれてたの?
「あんな姉さんでも、私にはたった一人の姉さんだったのよ…」
「おばさん…」
普通の家庭だったのに、突如開花した姉の魔女としての才能。そこから生まれた両親からの、姉妹の格差。何となく、想像がついた。映画を見ても、女優さんの演技が上手くてすごく読み取れたことを覚えてる。姉に嫉妬しながらも、優秀な魔女だった彼女のことを愛してもいたと。
「おばさん、ごめんね。傷つけたくなくて、ずっと隠してたんだ。俺も父さんと母さんと同じ力を持ってるんだ」
俺の告白にさらに嗚咽が酷くなっていくペチュニア。吠えるバーノン。ごめん、正直黙っててくれバーノン。今大事な話してんのよ。
「俺はね、魔法魔術学校に行かないといけないんだ。復讐の為じゃないよ。おばさんたちのことを、両親を殺した様な奴らから守りたいんだ。もう、家族を喪いたくないから」
「……ハリー…!」
「だから、俺は、ホグワーツ魔法魔術学校に行くよ。魔法使いになる。そんな選択をする俺でも、甥だって……思ってくれる?」
実は昔から、彼女から、これ以上親族を取り上げるのは酷ではないかと思っていたんだ。姉を殺されて、忘れ形見の甥と疎遠になっていくなんて…なんか辛いじゃないか。一緒に生活して来て彼女がただの嫌味なだけの女性ではないとわかっているから尚更だ。
「…約束してちょうだい、ハリー。手紙をちょうだい。月末に1枚。それだけでいいわ」
「おばさん…」
「姉さんのことは今でも嫌いよ」
「…うん」
「でも、あなたは違う。ここは、あなたの家ですからね」
あぁ、ほら。優しく笑うとそっくり。俺はこの笑顔に逆らえない。この笑顔が見たくて、いい子を演じていたまである。綺麗事を並べたけれど、俺が、母に似たこの笑顔を失いたくないだけだった。
「ありがとう、ペチュニアおばさん」
ちゃんとご飯を食べること。夜更かしをしないこと。勉強を真面目に受けること。ヘンテコな友達ばかり作らないこと。月末に月1でいいから手紙を書くとこ。
これらを条件に保護者の欄にサインを貰った。
色々端折ったりしたけれど、やっと俺はホグワーツ魔法魔術学校へ入学する運びとなった。
部屋に戻って寝巻きに着替える為にポケットの中身を全部出していると見慣れないものをベッドにほおり投げていた。
薄いエメラルドグリーンの綺麗なハンカチ。夢で少年から渡された刺繍入りのハンカチだ。刺繍は『T・R』。
「……夢じゃないって、こと?」
妙な胸騒ぎを覚えた俺は暫くそのハンカチを握りしめていた。
「はい、すいませんでした!」
「わかりゃ良いんだよ。おら、行くぞ」
俺は今、ダイアゴン横丁に来ている。最初はもちろんハグリッドと来ていたがグリンゴッツ銀行の後の別行動中に本屋の前でばったりと『彼女』に出会ったのだ。そう、ホグワーツ魔法魔術学校きっての才女『ハーマイオニー・グレンジャー』に。
物語ではまだ絡むはずがないのでスルーしようとしたら日本語で『おい、無視すんな。愚妹』と話しかけられ咄嗟に振り返ったのが運の尽きだった。
目を細め、片眉を上げたふわふわ栗毛の美少女がそこには立っていた。原作にあった『出っ歯』は何処かへ消えている。イメージして欲しいのは『映画のハーマイオニー』だ。あの美少女がまじで目の前にいる。何人か振り返って彼女を確認しているほどだ。そんな美少女の口から違和感ありまくりの流暢な日本語が飛び出しているのだから目を見開くのは致し方ない。
「…え、その呼び方、え??まさか……兄さんなの?」
「チッ…そこに触れんな。黙って着いてこい。今後のこと話すぞ」
「いやいやいや!せめて口調は改めよう?!ハーマイオニーだよ?!女の子!今は女の子!!」
「あ?知るかよ。女だろうが男だろうが、俺は俺だ。合わせる気も直す気もねぇよ」
うわぁ…全国のハーマイオニーファンの方、ごめんなさい……どうやら転生前に従兄弟だった俺の幼なじみ、通称『兄さん』が『ハーマイオニー・グレンジャー』へ転生してしまっていたようです。もう品行方正な彼女は出てこないと思ってくれ…今目の前にいるのは、格闘技・武術マニアで剣術の師範の資格を持っている青年の魂を受け継いだ可憐な美少女だ。兄さんは医者だったから才女には変わりないだろうけど。
「ここでいいか」
適当な喫茶店へ入った兄さんは慣れた様子で注文していく。俺の分も勝手にしていく。
「んで?お前は『お嬢』で間違いないな?ハリー・ポッター?」
「……うん」
「はぁあ…マジかよ。よりにもよって『ハリー』かよ…毎年トラブルに巻き込まれるじゃねーか」
「ごもっともです…俺は平和に暮らしたい」
「ならあまり目立つ行動は控えるこったな。それでどう変わるかは知らねぇけど」
さっきから思っていたけど、なんで兄さん、魔法界のものに違和感無く溶け込んでるんだろう。所作というか…なんか慣れてる?板についてる?感じ。映画しか知らない俺より詳しいのはわかるけど(婚約者の幼なじみがハリポタマニアだったから、おそらくその影響は受けてるはずだ)明らかに生活に慣れている。
「とりあえず、買い物を済ませるか」
「え?」
「俺のは終わって、もう両親に渡してある。友達と会うと言って先に帰ってもらってるからな。気にするな」
「そうなんだ」
「ほら、行くぞ」
「うん!」
性別は、お互い逆になってしまったけれど。なんなら歳も同じになったけれども。昔のように『従姉妹というか妹』のように扱ってくれるのが、なんだか嬉しかった。
「あぁ、そうだ。ハリー」
「ん?」
「あいつもな、転生してるぞ」
「え?」
「会うの楽しみにしてろ。俺もまだ会ってねぇんだ。スマホで連絡は取れてるんだけどな」
「──…うん!」
「どうやら、向こうだとマグル界には通信がしにくいらしい。だからお前に連絡出来ないって泣きつかれたぜ」
もう1人の幼なじみ。そして『兄さん』の婚約者。彼女も、この世界にいるらしい。誰に転生してるんだろう…?
「………ねぇ、兄さん」
「ん?」
「もしも『彼女』が女の子だったら?」
「は?それがどうした?あいつは、俺の恋人で婚約者だ。性別は関係ない。あいつの記憶も持ってる。なら変わらず婚約者だ」
あー、これ。この『兄さん節』が懐かしい。でもさ?兄さんよ。相手が同性でも良いってことだけどそれは世間体的にどうなのさ。
「男でも愛せる自信あるからな」
あ、なるほど。ハーマイオニーだけど中身は完全に兄さんだから恋愛対象云々の前に、最早『彼女』以外眼中に無いんだな。うん、ならいいや!(思考を放棄した)
✧• ───── ✾ ───── •✧
ボフッとベッドに流れ込んだ俺は、メガネを外しグリグリとこめかみを押した。疲れたなぁ、半日かけて買い物を終えたからなぁ…少し仮眠を取ろう。夜になったらダドリー夫妻に話さねばならない。
夢を見る。いつものように、ハロウィンの夜の日を。何度も、何度も繰り返し見る。目覚めると、悲しくて。酷い時は泣きながら目覚めることもある。
「何も、できない…出来なかった…」
せめて、夢の中でぐらい、都合のいい展開に改変されてもいいじゃないか。そう思う。けれど記憶は無惨にも、母の絶命する瞬間を何度も俺に見せた。
「──…ねぇ」
「…え?」
「大丈夫かい?」
それは、唐突だった。いつもなら真っ暗に暗転して、暫くしたら目が覚める。それがこの悪夢のルーティーンだったからだ。
「……きみは、だれ?どうして、ここに?」
「…多分、うたた寝をしてるんだと思うんだけど……僕と君の夢がリンクしてしまったのかな?昔そういう現象が稀に報告されているって論文を読んだことがあるよ」
息を飲むほど美しい造形のルックスをした10代半ばの少年が困ったように微笑んだ。サラサラと揺れる絹糸のような黒髪が羨ましい。良いなぁ、ストレート。前世の俺もストレートだったのになぁ…
「これ、使って」
「…ありが、とう」
絵に書いたようなスマートな動作でハンカチを渡される。涙でぐしゃぐしゃになっている俺のために出してくれたらしい。すいません、普段からハンカチ持ち歩かないタチなもんで…少し借りた。夢だし、洗って返すとかその辺のことは考えてなかった。
「……これ、どういう状況なんだろう?」
「多分、僕と君の波長が近いのかもしれないね。波長が近い魔法使いや魔女はこうして夢でコンタクトを取り合えるという論文を読んだよ。訓練次第でその技術も習得できるらしいけど…僕はそんな技術を習得してないから、可能性としては前者かな」
「気が合う、てきな?」
「そんな感じかな」
おそらく5つ前後は歳が離れている見た目なので(中身は四十手前だけどな!)彼の俺に対する口調がとても優しい。あ、あともしかしたら女の子に思われている可能性もあるかも。オーバーサイズが好きなせいか少し大きめの服を好む俺は、伸ばしている髪の長さとガリヒョロな体型のせいで日常的に女の子に間違われることが多かった。
(ただの夢なら、別に訂正しなくてもいいか)
いちいち訂正するのも億劫なので、関係が薄い人には勘違いさせたまま放置している俺だった。
「…落ち着いた?」
「……うん。ありがとう…えっと」
「うーん…こういうのは、名前言わない方が面白いと思わない?」
少年は悪戯小僧のように微笑みながら提案してきた。おそらく、彼も同じことを考えているのだろう。
(まぁ、どうせ今後関わることもないだろうしな)
俺は小さく頷いた。すると、ふわりと優しく頭を撫でられる。何故かその手の温もりに、俺は酷く安心感を覚えてしまった。
「そろそろ起きる時間だ。またね、眠り姫」
「───…っ」
ふわりと、夕焼けのような赤い瞳が柔く蕩けるように微笑まれた。完璧なルックスの彼に、こんな微笑み方をされたらさすがの俺でもちょっと心臓が跳ねる。恋愛思考は女性と同じなのもで……俺の恋愛対象、男なんだよね。ハリーに転生していても。
耳元で、設定していたアラームのバイブが鳴る。ブブブ…と。ノールックでそれを止めてぼんやりと見慣れた天井を見上げる。完璧なルックス。甘い声。そして紅茶色を濃くした夕焼け色の瞳。そして身につけていた“シルバーとグリーンのネクタイ”。
「………なんで、夢にトム・リドルが出てくるんだ?」
そりゃ、『ハリポタ』の中ではスネイプ先生と並んで好きなキャラだったが。俺はヴォルデモート卿ではなくて、何故か学生時代のトム・リドルが推しだった。なんでは未だに不明。だ・が!
「めっちゃ……顔が良かった…映画の俳優さんもバチくそイケメンだったけどその上をいくイケメンとか…マジかー」
あのルックスなら『完璧なルックス』と表現されるのも納得だ。生きた彫刻のようにホントにマジで全てがかっこよかった。惚れそうになるレベルだ。
「…まぁ、来年嫌でも関わるけど。関わりたくないなぁ…平和に暮らしたい…でも」
俺は、ハリー・ポッターなのだから。きっと平和にはいかないだろう。周りが否応無しに関わりに来る筈だ。それらから身を守るためにも、俺はホグワーツ魔法魔術学校に行かないといけない。そのことを、夫妻に報告しないといけなかった。だから夜まで待ったんだ。ダドリーが寝た後に、報告する為に。
「そんな……!」
「ふん!やはりな、お前は両親と同じでヘンテコだった!!」
うん、2人の反応が真逆過ぎて俺ビックリよ。特にペチュニアなんて泣いてるけど。え、そこまで気に入ってくれてたの?
「あんな姉さんでも、私にはたった一人の姉さんだったのよ…」
「おばさん…」
普通の家庭だったのに、突如開花した姉の魔女としての才能。そこから生まれた両親からの、姉妹の格差。何となく、想像がついた。映画を見ても、女優さんの演技が上手くてすごく読み取れたことを覚えてる。姉に嫉妬しながらも、優秀な魔女だった彼女のことを愛してもいたと。
「おばさん、ごめんね。傷つけたくなくて、ずっと隠してたんだ。俺も父さんと母さんと同じ力を持ってるんだ」
俺の告白にさらに嗚咽が酷くなっていくペチュニア。吠えるバーノン。ごめん、正直黙っててくれバーノン。今大事な話してんのよ。
「俺はね、魔法魔術学校に行かないといけないんだ。復讐の為じゃないよ。おばさんたちのことを、両親を殺した様な奴らから守りたいんだ。もう、家族を喪いたくないから」
「……ハリー…!」
「だから、俺は、ホグワーツ魔法魔術学校に行くよ。魔法使いになる。そんな選択をする俺でも、甥だって……思ってくれる?」
実は昔から、彼女から、これ以上親族を取り上げるのは酷ではないかと思っていたんだ。姉を殺されて、忘れ形見の甥と疎遠になっていくなんて…なんか辛いじゃないか。一緒に生活して来て彼女がただの嫌味なだけの女性ではないとわかっているから尚更だ。
「…約束してちょうだい、ハリー。手紙をちょうだい。月末に1枚。それだけでいいわ」
「おばさん…」
「姉さんのことは今でも嫌いよ」
「…うん」
「でも、あなたは違う。ここは、あなたの家ですからね」
あぁ、ほら。優しく笑うとそっくり。俺はこの笑顔に逆らえない。この笑顔が見たくて、いい子を演じていたまである。綺麗事を並べたけれど、俺が、母に似たこの笑顔を失いたくないだけだった。
「ありがとう、ペチュニアおばさん」
ちゃんとご飯を食べること。夜更かしをしないこと。勉強を真面目に受けること。ヘンテコな友達ばかり作らないこと。月末に月1でいいから手紙を書くとこ。
これらを条件に保護者の欄にサインを貰った。
色々端折ったりしたけれど、やっと俺はホグワーツ魔法魔術学校へ入学する運びとなった。
部屋に戻って寝巻きに着替える為にポケットの中身を全部出していると見慣れないものをベッドにほおり投げていた。
薄いエメラルドグリーンの綺麗なハンカチ。夢で少年から渡された刺繍入りのハンカチだ。刺繍は『T・R』。
「……夢じゃないって、こと?」
妙な胸騒ぎを覚えた俺は暫くそのハンカチを握りしめていた。
