手放した想い
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江戸から帰ってきたあやかは、どこかいつもより静かだった。
張りつけた笑顔の奥に、言葉にしない違和感を感じながらも、真島は何も言わなかった。ただ、彼女が帰ってきた。それだけで充分だと思っていた。
でも、夜になってから様子がおかしくなった。
「ごめん、ちょっと薬、飲んでくるね……」
ふらりと立ち上がり、頼りなげな足取りで寝室に向かった彼女の背中は、小さく見えた。
———
真島は濡らしたタオルをそっとおく。
「ったく……何で熱あるって言わんねん……」
その熱は下がらず、むしろ上がっているように感じた。
タオルを替えようと彼女の額に手を伸ばしたその時だった。
「……っうう、ごめんね……晋助……だから…もう一度……笑ってお願い……」
一瞬、時が止まった。
無意識に紡がれたその寝言に、真島の手がピタリと止まる。
発熱によるうなされもあるのか、過去の夢を見て泣いていた顔だった。
「……晋…助…」
以前、江戸の夜にぽつりと語り、腕試しまでした「あやかの兄貴分」。
今は、ただの兄妹みたいな間柄じゃなかったってことが、この寝言と表情ですべて伝わってしまった。
「…なんでや…そんな辛い顔して…過去に何があったんや…あやか……」
———
ピンポーン、とチャイムが鳴ったのは、そんな時だった。
「……あぁん? こんな時間に誰や……」
ドアを開けると、そこに立っていたのは、銀色の髪に猫のような目をした機械の少女、たま。
「こんばんは、真島さん。あやかさんから頼まれていた物をお届けに来ました」
「……あやかが?」
たまが差し出した木箱には、ぎっしりと詰まった装置が入っていた。中には「時を超える装置・試作一号」と書かれた札と、源外直筆の手紙。
——思い出したい過去に記憶した時間へ、記憶と意識だけを飛ばし、追体験できる“タイムトラベリング”装置。
「……あいつ、こんなん……」
どうやら、江戸にいた頃から源外に頼んでいたらしい。過去の記憶から解決されていない事件に役立てるためだとか言っていた——
だが、今のあやかは熱にうなされて、何もできない。真島は思ってしまったアイツのこれを使って過去を探って見るかと。
「…すまんのう。」
真島はベッドの方に目をやる。彼女の許可無く勝手に過去を見てしまうのはいかがなものかと…。それでも悲しげな寝言を繰り返す彼女の姿が脳裏に焼きついていた。
「お前がそんな辛い顔するくらいな過去はなんや?」
静かに装置に手をかける。
「オレが受け止めたる。お前が、そない謝っとるんか……なんで、そないに苦しんどるんか……全部、見せてもらうで」
装置が淡く光を放ち、真島の意識がゆっくりと追憶の中へ引き込まれていった。
———
次の瞬間、真島の足元には、懐かしくも見知らぬ江戸の街並みが広がっていた。
そして、少し離れた場所には、まだ心に傷を負っていない“あの頃のあやかの姿があった——。
張りつけた笑顔の奥に、言葉にしない違和感を感じながらも、真島は何も言わなかった。ただ、彼女が帰ってきた。それだけで充分だと思っていた。
でも、夜になってから様子がおかしくなった。
「ごめん、ちょっと薬、飲んでくるね……」
ふらりと立ち上がり、頼りなげな足取りで寝室に向かった彼女の背中は、小さく見えた。
———
真島は濡らしたタオルをそっとおく。
「ったく……何で熱あるって言わんねん……」
その熱は下がらず、むしろ上がっているように感じた。
タオルを替えようと彼女の額に手を伸ばしたその時だった。
「……っうう、ごめんね……晋助……だから…もう一度……笑ってお願い……」
一瞬、時が止まった。
無意識に紡がれたその寝言に、真島の手がピタリと止まる。
発熱によるうなされもあるのか、過去の夢を見て泣いていた顔だった。
「……晋…助…」
以前、江戸の夜にぽつりと語り、腕試しまでした「あやかの兄貴分」。
今は、ただの兄妹みたいな間柄じゃなかったってことが、この寝言と表情ですべて伝わってしまった。
「…なんでや…そんな辛い顔して…過去に何があったんや…あやか……」
———
ピンポーン、とチャイムが鳴ったのは、そんな時だった。
「……あぁん? こんな時間に誰や……」
ドアを開けると、そこに立っていたのは、銀色の髪に猫のような目をした機械の少女、たま。
「こんばんは、真島さん。あやかさんから頼まれていた物をお届けに来ました」
「……あやかが?」
たまが差し出した木箱には、ぎっしりと詰まった装置が入っていた。中には「時を超える装置・試作一号」と書かれた札と、源外直筆の手紙。
——思い出したい過去に記憶した時間へ、記憶と意識だけを飛ばし、追体験できる“タイムトラベリング”装置。
「……あいつ、こんなん……」
どうやら、江戸にいた頃から源外に頼んでいたらしい。過去の記憶から解決されていない事件に役立てるためだとか言っていた——
だが、今のあやかは熱にうなされて、何もできない。真島は思ってしまったアイツのこれを使って過去を探って見るかと。
「…すまんのう。」
真島はベッドの方に目をやる。彼女の許可無く勝手に過去を見てしまうのはいかがなものかと…。それでも悲しげな寝言を繰り返す彼女の姿が脳裏に焼きついていた。
「お前がそんな辛い顔するくらいな過去はなんや?」
静かに装置に手をかける。
「オレが受け止めたる。お前が、そない謝っとるんか……なんで、そないに苦しんどるんか……全部、見せてもらうで」
装置が淡く光を放ち、真島の意識がゆっくりと追憶の中へ引き込まれていった。
———
次の瞬間、真島の足元には、懐かしくも見知らぬ江戸の街並みが広がっていた。
そして、少し離れた場所には、まだ心に傷を負っていない“あの頃のあやかの姿があった——。