夫婦の証
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《シュラック》
空気は静かで、ジャズの旋律だけが淡く耳に残る。
真島は一口ウイスキーを喉に流し込み、グラスを置くと、ゆっくりと語り始めた。
「もう十年以上前の話や。俺が……26の頃、蒼天堀におった頃やな」
あやかは黙って耳を傾ける。
「朴美麗って女がおってな。表向きはアイドルみたいな活動してたんや。ちょっとした人気もあって、気ぃ強ぅて、根性も据わっとって。……おもろい女やった。俺も若くてのう最初は惹かれたんや。」
懐かしむような微笑と、どこか切なげな影が真島の瞳に混じる。
「ほんで、すぐ結婚したんや。でも……1年も続かへんかった。離婚の理由は……」
言いづらそうに間を置いたあと、ぽつりと続けた。
「あいつ……俺に何も言わんと、俺との子ども、降ろしてしもうたんや。」
あやかの目がわずかに見開かれた。
「自分の活動があるからって、“今じゃない”って、勝手に決めてな……。俺は、相談も無しに自分の都合で降ろしたことに……どうしても腹立ってしもうてな。初めて女に手ェ上げてしもうたわ。まぁそれもその1度きりやけどな。向こうもかなり気ぃ強くてのぅお互い、怒鳴ったし、泣いたし、ぶつかった。でも結局、想いが噛み合わんかってん。」
真島は一瞬、視線を落としてから、苦笑混じりに言った。
「……まあ、結局、俺と一緒で、意地っ張り同士や。最後は、互いに“これ以上一緒におっても傷つけ合うだけや”って……離婚したんや。」
あやかは静かに真島の手を取り、ぎゅっと握る。
「そんなことが…。そうだったんだね……ありがとう。辛いのに話してくれて。」
真島はその手を包むように握り返し、優しく微笑んだ。
「お前には、嘘も隠し事もせぇへん。だから……過去の俺ごと、お前に受け止めて欲しんや。」
あやかは小さくうなずき、そのまま彼の胸にそっと身を預けた。
シュラックの静かな夜は、2人の間の時間をそっと優しく包み込んでいた――。
ハイボールの氷がカランと鳴った。
「……ねぇ、真島さん。あたし、自分の過去のことばっか話してるから、真島さんのこと、まだあんまり知らないのかなって今日のことで感じたの。」
真島は少し意外そうに目を見開いたが、すぐにふっと笑ってウイスキーを口に運んだ。
「言うて俺の話なんか聞いても、面白くもあれへんやろ」
「そんなことないよ。……南くんや西田さんに、ちょっとだけ聞いたことあるんだ」
真島の動きがわずかに止まった。
「蒼天堀にいた頃、組を抜けてキャバレーをやってたとか……盲目の女の子を守るために、たった1人で堂島組を潰したって……」
その言葉に、真島は目を伏せて笑った。どこか懐かしそうで、少し切ない笑み。
「……ああ。よう覚えとるな、あいつら。余計なこと話しよって。」
「その女の子のことも聞いてもいい?」
真島はグラスを置くと、ゆっくり話し始めた。
「ええで。あの頃の俺は、もう少し若くてのう…当時、東城会と上野誠和会ちゅう組織があまり仲良くなくてのう。組の命令に逆らって、兄弟と襲撃しに行こうとしたんや。逆らった代償としてそん時にこの左目も失ったわ。そんで破門食らって…穴蔵ちゅう拷問施設みたいな所に1年くらい入れられたんやが、1年経った頃に突然外に出されてな。カタギとして飼われては蒼天堀で“キャバレーグランド”いう店の支配人やらされてたんや。」
「そんで少し経った頃、的を仕留めたら東城会に戻したる言われてのう。戻るのに必死やった俺は仕留めようとしたんや。けど、標的は何故か両目の見えん盲目の女の子でな……マコト言うて。ワケあって目ぇ見えへんかったやけど、めちゃくちゃ芯の強い子やってのぅ。あいつのためなら、命張ってもええって……初めて思えたわ。」
「そうなんだ。でも、そのお人好しな所真島さんらしいかも。」
「そっからは早かったわ。何やかんやで結局的を仕留めること出来ずマコトを守ることになってしもうてのう。けど、あの頃は堂島組が土地の所有権巡って幅利かせててのぅ……奴らがマコトを的にかけた時、俺は……自分を止められんかったんや。結果、1人で暴れて、堂島組を……壊滅状態にしてしまったちゅう訳や!」
あやかは、じっと真島の目を見つめていた。優しい目で、何も言わずに聞いてくれるその存在に、真島は少し肩の力を抜く。
「……暴力でしか守れへんかった俺が、あいつの光になれたかどうかは、今でもわからへん。でも……その時の経験があったから、今の俺がおる」
あやかはそっと真島の手を取った。
「……やっぱり、真島さんはすごい人だね。」
「アホやで、ホンマは。守りたいもん、いつもギリギリでしか守られへん……だから、次はお前をちゃんと守りたいんや。力だけやなくて、ちゃんと人としてもな。」
「……うん」
2人の手が重なる夜。
言葉よりも深い、過去と現在が静かに重なっていく。
空気は静かで、ジャズの旋律だけが淡く耳に残る。
真島は一口ウイスキーを喉に流し込み、グラスを置くと、ゆっくりと語り始めた。
「もう十年以上前の話や。俺が……26の頃、蒼天堀におった頃やな」
あやかは黙って耳を傾ける。
「朴美麗って女がおってな。表向きはアイドルみたいな活動してたんや。ちょっとした人気もあって、気ぃ強ぅて、根性も据わっとって。……おもろい女やった。俺も若くてのう最初は惹かれたんや。」
懐かしむような微笑と、どこか切なげな影が真島の瞳に混じる。
「ほんで、すぐ結婚したんや。でも……1年も続かへんかった。離婚の理由は……」
言いづらそうに間を置いたあと、ぽつりと続けた。
「あいつ……俺に何も言わんと、俺との子ども、降ろしてしもうたんや。」
あやかの目がわずかに見開かれた。
「自分の活動があるからって、“今じゃない”って、勝手に決めてな……。俺は、相談も無しに自分の都合で降ろしたことに……どうしても腹立ってしもうてな。初めて女に手ェ上げてしもうたわ。まぁそれもその1度きりやけどな。向こうもかなり気ぃ強くてのぅお互い、怒鳴ったし、泣いたし、ぶつかった。でも結局、想いが噛み合わんかってん。」
真島は一瞬、視線を落としてから、苦笑混じりに言った。
「……まあ、結局、俺と一緒で、意地っ張り同士や。最後は、互いに“これ以上一緒におっても傷つけ合うだけや”って……離婚したんや。」
あやかは静かに真島の手を取り、ぎゅっと握る。
「そんなことが…。そうだったんだね……ありがとう。辛いのに話してくれて。」
真島はその手を包むように握り返し、優しく微笑んだ。
「お前には、嘘も隠し事もせぇへん。だから……過去の俺ごと、お前に受け止めて欲しんや。」
あやかは小さくうなずき、そのまま彼の胸にそっと身を預けた。
シュラックの静かな夜は、2人の間の時間をそっと優しく包み込んでいた――。
ハイボールの氷がカランと鳴った。
「……ねぇ、真島さん。あたし、自分の過去のことばっか話してるから、真島さんのこと、まだあんまり知らないのかなって今日のことで感じたの。」
真島は少し意外そうに目を見開いたが、すぐにふっと笑ってウイスキーを口に運んだ。
「言うて俺の話なんか聞いても、面白くもあれへんやろ」
「そんなことないよ。……南くんや西田さんに、ちょっとだけ聞いたことあるんだ」
真島の動きがわずかに止まった。
「蒼天堀にいた頃、組を抜けてキャバレーをやってたとか……盲目の女の子を守るために、たった1人で堂島組を潰したって……」
その言葉に、真島は目を伏せて笑った。どこか懐かしそうで、少し切ない笑み。
「……ああ。よう覚えとるな、あいつら。余計なこと話しよって。」
「その女の子のことも聞いてもいい?」
真島はグラスを置くと、ゆっくり話し始めた。
「ええで。あの頃の俺は、もう少し若くてのう…当時、東城会と上野誠和会ちゅう組織があまり仲良くなくてのう。組の命令に逆らって、兄弟と襲撃しに行こうとしたんや。逆らった代償としてそん時にこの左目も失ったわ。そんで破門食らって…穴蔵ちゅう拷問施設みたいな所に1年くらい入れられたんやが、1年経った頃に突然外に出されてな。カタギとして飼われては蒼天堀で“キャバレーグランド”いう店の支配人やらされてたんや。」
「そんで少し経った頃、的を仕留めたら東城会に戻したる言われてのう。戻るのに必死やった俺は仕留めようとしたんや。けど、標的は何故か両目の見えん盲目の女の子でな……マコト言うて。ワケあって目ぇ見えへんかったやけど、めちゃくちゃ芯の強い子やってのぅ。あいつのためなら、命張ってもええって……初めて思えたわ。」
「そうなんだ。でも、そのお人好しな所真島さんらしいかも。」
「そっからは早かったわ。何やかんやで結局的を仕留めること出来ずマコトを守ることになってしもうてのう。けど、あの頃は堂島組が土地の所有権巡って幅利かせててのぅ……奴らがマコトを的にかけた時、俺は……自分を止められんかったんや。結果、1人で暴れて、堂島組を……壊滅状態にしてしまったちゅう訳や!」
あやかは、じっと真島の目を見つめていた。優しい目で、何も言わずに聞いてくれるその存在に、真島は少し肩の力を抜く。
「……暴力でしか守れへんかった俺が、あいつの光になれたかどうかは、今でもわからへん。でも……その時の経験があったから、今の俺がおる」
あやかはそっと真島の手を取った。
「……やっぱり、真島さんはすごい人だね。」
「アホやで、ホンマは。守りたいもん、いつもギリギリでしか守られへん……だから、次はお前をちゃんと守りたいんや。力だけやなくて、ちゃんと人としてもな。」
「……うん」
2人の手が重なる夜。
言葉よりも深い、過去と現在が静かに重なっていく。