紅と白
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【柄本医院・夜の病室】
静まり返った病室。
点滴の音と、わずかな外の風の音だけが響く。
ベッドでは、眠る信女が静かに呼吸をしている。
その横で、ソファに座ったあやかと真島が並んでいた。
真島が、ふっと煙草をくわえかけ──
しかし眠る信女に気を遣い、ポケットにしまい直す。
「なあ、あやか」
「ん?」
「あの信女ちゅう姉ちゃん──一体、何者なんや。どんな関係なんや」
その問いに、あやかは少し目を細めた。
まるで遠くを思い出すように、天井を見つめながら話し始めた。
「信女ちゃんとはね──昔、向こうの世界で出会った。あたしが15歳の頃、信女ちゃんはまだ8歳だった」
「姉妹…みたいやな」
「うん。天導衆にいた頃、あたしはその実験体で、戦闘員だった。でも同時に、彼女の教育係も任されてたの。でも私が教えたのは、ただ戦うことじゃなくて──心を持つことだった」
「心を…?」
「信女ちゃんはね、感情を知らなかったの。親の顔も知らず、生まれて。暗殺の訓練だけを受けてきたから。人を殺すことに痛みも疑問も持たなかった」
真島が静かに息を吐く。
「それで…教えたんか、感情っちゅうもんを」
「教えようとした。でも、伝わらなかった。まだあたしも子どもで、自分のことで精一杯だったから。
だけどね、あの子──ちゃんと覚えててくれたみたい。今日の戦いで、はっきりわかったの」
「……ふーん」
真島が少し顎を撫でながら、ちらっと信女を見る。
「おまえ、あの子のこと本当に大事に思うとるんやな」
あやかは静かにうなずいた。
「仲間とか、後輩とか、戦友とか、色んな言い方あるけど…たぶん、どれも違う。
ただ“あの子を助けたかった”──それだけなのかもしれない」
真島はしばらく黙ったあと、微笑んだ。
「……そっか。やっぱ“あやか”やな、あんたは」
「は?」
「いや。昔からそうなんやろな。誰かの心を揺らすのが、おまえの生き方なんや。戦うだけやない、救うために刀振るうやつや」
「……変なこと言うじゃん、真島さん」
「あ? なんや文句あるんか」
「ないよ。ありがと」
そのままあやかは、信女の寝顔を静かに見つめ続けた。
過去も罪も、未熟さも──すべて背負って、今、ここにいる。
やっと繋がった思いの上で、夜はゆっくりと更けていった。
静かに眠る信女の横顔を見つめながら、
あやかの声が再び、ぽつりと落ちた。
「…でも、あの事件があってから、信女ちゃんとはほとんど会えなくなった」
真島が視線を移す。
「あの事件?」
「──佐々木異三郎という武士がいた。今は警察庁のエリート、見廻組の指揮官で信女の親。
その人の奥さんと、生まれたばかりの赤ちゃんに天導衆が暗殺命令を出した」
「……赤ん坊まで?」
「ええ。異三郎は当時から“攘夷側の人間と繋がってる”って疑われててね。天導衆は徹底して排除しようとした。でも──信女ちゃんは、異三郎さんと幼い頃仕事をしたりと深い関わりがあった。彼に助けられたこととかもあったんだと思う。」
真島は目を細めた。
「それで、掟を破った…」
「うん。天導衆の暗殺部隊が異三郎さんの家を襲った夜──
信女ちゃんは、その部隊の兵士を“すべて”殺した。たった、8歳で」
その言葉に、真島も軽く息を呑む。
「……難儀やな。」
「そこから信女ちゃんは“裏切り者”として奈落三羽から追放された──けど
異三郎さんの養子になった。“今井信女”という名前も、その時から」
あやかの声が、ほんの少しだけ震えた。
「──私も、二人のことは深くは分からないけど。あの時、彼女に背負わせすぎた。私がもっとちゃんと守っていれば…って、今でも思う」
真島は立ち上がり、ゆっくり歩いて信女のベッドのそばまで来ると、眠る彼女を見下ろし、ポツリ。
「…背負わされたんやなくて、自分で背負ったんやろな、信女っちゅう子も。
あんたが教えたんやろ。“自分で選ぶ生き方”ってやつをな。」
あやかは、その言葉にそっと微笑む。
「……そう、かもね。ありがとう、真島さん」
「礼なんかいらんて。つーか、その子もうちょいで起きそうやし、寝るなら今のうちやで?」
「うん。でももう少しだけ、見てたい」
その夜。
あやかはあの頃の“8歳の信女”を思い出しながら、
今、こうして傍にいる“今井信女”の穏やかな寝顔を静かに見守っていた。
静まり返った病室。
点滴の音と、わずかな外の風の音だけが響く。
ベッドでは、眠る信女が静かに呼吸をしている。
その横で、ソファに座ったあやかと真島が並んでいた。
真島が、ふっと煙草をくわえかけ──
しかし眠る信女に気を遣い、ポケットにしまい直す。
「なあ、あやか」
「ん?」
「あの信女ちゅう姉ちゃん──一体、何者なんや。どんな関係なんや」
その問いに、あやかは少し目を細めた。
まるで遠くを思い出すように、天井を見つめながら話し始めた。
「信女ちゃんとはね──昔、向こうの世界で出会った。あたしが15歳の頃、信女ちゃんはまだ8歳だった」
「姉妹…みたいやな」
「うん。天導衆にいた頃、あたしはその実験体で、戦闘員だった。でも同時に、彼女の教育係も任されてたの。でも私が教えたのは、ただ戦うことじゃなくて──心を持つことだった」
「心を…?」
「信女ちゃんはね、感情を知らなかったの。親の顔も知らず、生まれて。暗殺の訓練だけを受けてきたから。人を殺すことに痛みも疑問も持たなかった」
真島が静かに息を吐く。
「それで…教えたんか、感情っちゅうもんを」
「教えようとした。でも、伝わらなかった。まだあたしも子どもで、自分のことで精一杯だったから。
だけどね、あの子──ちゃんと覚えててくれたみたい。今日の戦いで、はっきりわかったの」
「……ふーん」
真島が少し顎を撫でながら、ちらっと信女を見る。
「おまえ、あの子のこと本当に大事に思うとるんやな」
あやかは静かにうなずいた。
「仲間とか、後輩とか、戦友とか、色んな言い方あるけど…たぶん、どれも違う。
ただ“あの子を助けたかった”──それだけなのかもしれない」
真島はしばらく黙ったあと、微笑んだ。
「……そっか。やっぱ“あやか”やな、あんたは」
「は?」
「いや。昔からそうなんやろな。誰かの心を揺らすのが、おまえの生き方なんや。戦うだけやない、救うために刀振るうやつや」
「……変なこと言うじゃん、真島さん」
「あ? なんや文句あるんか」
「ないよ。ありがと」
そのままあやかは、信女の寝顔を静かに見つめ続けた。
過去も罪も、未熟さも──すべて背負って、今、ここにいる。
やっと繋がった思いの上で、夜はゆっくりと更けていった。
静かに眠る信女の横顔を見つめながら、
あやかの声が再び、ぽつりと落ちた。
「…でも、あの事件があってから、信女ちゃんとはほとんど会えなくなった」
真島が視線を移す。
「あの事件?」
「──佐々木異三郎という武士がいた。今は警察庁のエリート、見廻組の指揮官で信女の親。
その人の奥さんと、生まれたばかりの赤ちゃんに天導衆が暗殺命令を出した」
「……赤ん坊まで?」
「ええ。異三郎は当時から“攘夷側の人間と繋がってる”って疑われててね。天導衆は徹底して排除しようとした。でも──信女ちゃんは、異三郎さんと幼い頃仕事をしたりと深い関わりがあった。彼に助けられたこととかもあったんだと思う。」
真島は目を細めた。
「それで、掟を破った…」
「うん。天導衆の暗殺部隊が異三郎さんの家を襲った夜──
信女ちゃんは、その部隊の兵士を“すべて”殺した。たった、8歳で」
その言葉に、真島も軽く息を呑む。
「……難儀やな。」
「そこから信女ちゃんは“裏切り者”として奈落三羽から追放された──けど
異三郎さんの養子になった。“今井信女”という名前も、その時から」
あやかの声が、ほんの少しだけ震えた。
「──私も、二人のことは深くは分からないけど。あの時、彼女に背負わせすぎた。私がもっとちゃんと守っていれば…って、今でも思う」
真島は立ち上がり、ゆっくり歩いて信女のベッドのそばまで来ると、眠る彼女を見下ろし、ポツリ。
「…背負わされたんやなくて、自分で背負ったんやろな、信女っちゅう子も。
あんたが教えたんやろ。“自分で選ぶ生き方”ってやつをな。」
あやかは、その言葉にそっと微笑む。
「……そう、かもね。ありがとう、真島さん」
「礼なんかいらんて。つーか、その子もうちょいで起きそうやし、寝るなら今のうちやで?」
「うん。でももう少しだけ、見てたい」
その夜。
あやかはあの頃の“8歳の信女”を思い出しながら、
今、こうして傍にいる“今井信女”の穏やかな寝顔を静かに見守っていた。