紅と白
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【記憶の中の温もり──そして、決着】
──刃が交わる瞬間、あやかの脳裏に、あの“あたたかな時間”が蘇った。
まだあやかが十五歳の頃。
実験体として扱われながらも、どこか人として生きる道を模索していた時代。
その時、現れた幼い少女──信女。
感情の欠けた目。誰かに命じられた通り動くだけの小さな兵士。
けれど、その無垢な瞳の奥に、“救える何か”を感じていた。
「ねぇ、信女。これ、食べたことある?」
渡したのは、どこかの隊士がこっそりくれたドーナツ。
信女は無表情のまま口に入れ、少しだけ──ほんの少しだけ、眉を動かした。
「…甘い」
それが、信女の最初の“感情”だった。
あれから、まるで姉妹のように過ごした日々。
夜の訓練後、肩を並べて座り、空を見ながら話したこと。
「どうして死にたいの?」
「どうして生きたいの?私には分からない。誰も教えてくれない。大切だとかそんなの分からないよ。」
「人を殺すだけが、生き方じゃないんだよ」
その言葉に、信女は答えなかったけれど、
一つだけ、彼女の胸に残った言葉がある。
「私はあなたに、“生き方”を教えたい」
──そして今、時を越えて二人はこうしてぶつかり合っていた。
あやかの身体は既に限界を越えていた。
けれど、この戦いはただの勝負じゃなかった。
あやかの目に、ほんの少し、あの頃と同じ“虚ろな目”の信女が重なった。
「……ごめんね、でも──ここで終わらせる」
刃が振るわれた。
最後の一手。
骸の刃を受け流し、体術で組みつくと、そのまま彼女の背後を取って、
掌底一閃──首筋に打ち込まれた衝撃が、骸の意識を刈り取った。
崩れ落ちる骸の身体を、そっと抱きとめるあやか。
「……やっと、あの時の続きを話せるね」
夕暮れが近づき、ビルの隙間から一筋の光が差し込んだ。
そこには、かつて姉妹のように過ごした二人の、
刃を越えた深い絆が、まだ消えていないことを照らしていた──。
崩れかけた廃墟ビルの静寂の中──
信女は、ふと意識を取り戻した。
視界に入ったのは、血に濡れ、傷ついたあやかの顔。
その顔には、どこか昔と変わらぬ温かい微笑みがあった。
「久しぶりだね。信女ちゃん…」
あやかは、信女の頭をそっと膝に乗せながら、
涙を滲ませていた。
「…少しは、生きたいって思えるように、笑えるようになったかな?」
その声は、あの頃と同じように柔らかく、
だけどどこか儚げだった。
「貴方に、…悲しい責任を負わせてしまった。奈落の手から助けてあげることができなかった」
「自分のことでいっぱいで…
本当は、もっとちゃんと向き合ってあげたかったのに。
ずっと、ずっと…ごめんね」
震えるその言葉と共に、ぽとりと涙が信女の頬に落ちた。
信女は、少しだけ目を伏せて──
まるで夢を見るように、ぽつりとつぶやいた。
「……あの時のドーナツ、甘かった」
「……味、覚えてたんだね」
あやかの目がまた潤み、微かに笑った。
信女の目にも、ほんの小さな変化があった。
心の奥底に閉じ込めていたものが、ほんの少し…解けたような、そんな顔だった。
「次は…もっと、ちゃんと教えてよ。
“生きる”ってどういうことか」
「……うん。約束する」
夜明けが近づき、崩れかけた窓から一筋の光が差し込んだ。
その光は、奈落にいた二人の少女に、
少しだけ優しい未来を照らしていた──。