過去の仲間たち
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― 江戸・とある廃神社の境内 ―
静かな空気が漂う、もう誰も訪れなくなった神社の奥。
苔むした鳥居の下に、黒い羽織をまとった男がひとり、煙草をくゆらせていた。
あやかは、その背中を一目見ただけで、声が出なかった。
もう何年も会っていなかったのに、その気配は何も変わらない。
「……晋兄。」
男は煙を吐き出しながら、ゆっくりと振り返った。
「……ああ。お前、まだ生きてたか。」
その声は、どこか安堵のようで、それ以上に冷たくもあった。
真島が一歩前に出ると、晋助の目が鋭く光る。
「……そいつが、お前が言ってた“男”か。」
「うん。真島吾朗。神室町っていう世界で――」
「極道だろ?」
晋助の言葉が、鋭く空気を裂いた。
「お前ほどの女が、どうしてよりにもよって“その世界”の男を選ぶ?」
「晋兄……真島さんは――」
「聞いてねぇよ。納得できる理由なんてな、ねぇんだよ。」
鋭い眼光のまま、晋助がゆっくりと腰の刀に手をかける。
「鬼兵隊を断ったお前に、久々に会えたってのによ、どうしても拳のひとつでも交わさねぇと納得いかねぇ。……“どれほどの男か”試させてもらうぜ、真島吾朗」
真島は眉を動かさずに一歩前へ出る。
「……試されんのは慣れとるわ。そっちさんこそ、あやかの“兄貴”名乗るからには、適当な覚悟で挑んだらあかんで。」
空気が張り詰め、ふたりの間に火花が散った。
あやかはそれを止めようとはしなかった。
互いにぶつかることでしかわからない男たちの思いもある。だからこそ――
「……二人とも、ちゃんと“納得”してよね。」
あやかの声に背を押され、真島と高杉の一戦が、始まろうとしていた。
石畳を踏みしめる音が静寂を破る。
月明かりの下、真島吾朗と高杉晋助が向き合っていた。
「……手加減せんで?」
真島が懐から、赤黒く燃えるような“鬼炎のドス”を抜いた。
対する高杉は、妖しく光る細身の刀をすっと引き抜く。
「手加減するような男に、大切な妹は任せられねぇ。」
次の瞬間、地を蹴る音とともに、二つの刃がぶつかり合う。
「チッ、やるじゃねぇか。その世界の街で、ぬるま湯に浸かってたわけじゃなさそうだな」
「こっちもな、女ひとり守るだけでも、死にかけたこと何度あるか数えられんわ!」
火花が飛び、境内の柱をなぎ払う一撃、風を裂く斬撃。
まるで二人は、あやかを巡る“過去”と“今”の象徴だった。
そして、数十合の打ち合いの果て――
晋助の刀がピタリと止まった。
「……十分や。」
息を整えながら、晋助はゆっくりと刀を鞘に収めた。
「……気に入った。アンタは、“本物”だ。」
真島は笑みを浮かべながらドスを引いた。
「そっちもな。妹に慕われるだけの器、確かに見せてもろたで」
晋助はふっと目を伏せて、ぽつりと口を開く。
「……だがな、真島吾朗。覚えておけ」
その声音は、少しだけ悲しげだった。
「あやかは、強いように見えて――本当は、誰よりも脆い。傷つけられた分だけ、誰かを想う心で立ってる。けどそれは、時に……命取りになる。」
真島が目を細める。
あやかが、思わず晋助の顔を見る。
「……それ、どういう意味?」
晋助は何も言わなかった。ただ一瞬、昔の優しい笑みを浮かべると、背を向けて言った。
「……いずれ分かる時が来る。気をつけろ、真島吾朗」
「晋兄……!」
振り返った晋助が、最後にあやかに向けて口を開いた。
「――幸せに生きろよ。もう、誰にもその笑顔、奪わせるな」
「……あたしは、晋兄にも幸せでいてほしい。昔みたいに、笑っててほしいんだよ」
晋助の表情は曇ったままだったが、それでもどこか、懐かしいものを含んでいた。
「……そうだな。お前が言うなら、ちっとは考えてみるさ」
そのまま彼は、夜の闇に溶けるように去っていった。
残された真島とあやか。
ふたりの間に流れる静けさと、それでも深くなった絆が、じんわりと広がっていた――。