小話
とある刀剣男士の顕現
2022/11/09 21:26昔、Twitterにて参加させていただいた企画で書かせていただいたもの3
1度目の生は刀だった。人に作られ、様々な経緯をたどってとある人の手に行きついた。
僕はその人が大好きで、大切で、だからこそ守りたかった。
それは最後まで叶わなくて、それどころか大好きだったものすべてに置いて行かれてしまったわけだけれど、それでも刀としての人生に悔いはなかったつもりだった。
――それでも、第2の生を享受してみる気になったのは、僕自身にも気づかない未練があったからなのかもしれない。
そうでなければ、きっと自分を呼ぶ声に耳を傾けるなんてしなかったはずだから。
※
鍛刀所に桜が舞った。審神者なる者が、刀剣男士の顕現の議を行ったからだ。
地面から湧き上がるように渦を作った桜たちは、竜巻のように上昇して吹雪のように拡散する。そうして部屋中に広がった桜の中心から、草履を履いた足が出た。
続くように現れた黒髪が纏った花弁を宙に散らせば、翻った襟巻きと羽織の色鮮やかさが目を焼いた。
その羽織の色を、審神者は知っている。永く続く歴史の中で語り継がれる、そんな人たちに所縁があるからだ。
やがて、桜は空気に溶けるように消えた。それを合図にしたかのように、少年はゆっくりと目を開ける。まるで青空のように澄んだ瞳が審神者を捉えると、ふ、と優しく細められた。
「――大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」
第一声はそれだった。愛らしい笑顔でを名乗った彼は、しっかりとした足取りで審神者に歩み寄る。今の主に、自らの忠義を尽くすために。
※
自分を呼ぶ誰かの声がする。名前を呼ばれたわけではないけれど、きっと自分を呼んでいるだという確信が胸にあった。
安定は、一度目を閉じた。その暗闇に浮かんできたのは、自分が慕ってやまない相手。最期まで共に在りたかった人。
――歴史を守るということは、彼の末路も守るということだ。助けることなど許されない。たとえ何があっても。
(でも、――それを君は、きっと望まないんだろうね)
どんなに未練があったとしても、きっとあの人はその運命を受け入れるのだろう。己が理想のため、大切に思うもののために彼が貫いた忠義は、何があっても揺るがない。
だって彼の誠は、浅葱の旗の下にあったのだから。
(だから、僕は戦うよ。君ならきっとそうするだろうから)
記憶の中の笑顔に誓って、安定は目を開ける。姿の見えない声に向かって、ふわりと微笑んだ。
「――うん。今そっちに行くね、『主』。……僕は君と、人とともに在るべき存在(モノ)だから」
そうして彼は歩き出した。失ったはずの表舞台へ、淡い桜に導かれながら。
2度目の生が幕を開けた。ただのモノではない、「神」の一員としての生が。
眼前に舞った桜たちが、それを祝福してくれているような気がした。
1度目の生は刀だった。人に作られ、様々な経緯をたどってとある人の手に行きついた。
僕はその人が大好きで、大切で、だからこそ守りたかった。
それは最後まで叶わなくて、それどころか大好きだったものすべてに置いて行かれてしまったわけだけれど、それでも刀としての人生に悔いはなかったつもりだった。
――それでも、第2の生を享受してみる気になったのは、僕自身にも気づかない未練があったからなのかもしれない。
そうでなければ、きっと自分を呼ぶ声に耳を傾けるなんてしなかったはずだから。
※
鍛刀所に桜が舞った。審神者なる者が、刀剣男士の顕現の議を行ったからだ。
地面から湧き上がるように渦を作った桜たちは、竜巻のように上昇して吹雪のように拡散する。そうして部屋中に広がった桜の中心から、草履を履いた足が出た。
続くように現れた黒髪が纏った花弁を宙に散らせば、翻った襟巻きと羽織の色鮮やかさが目を焼いた。
その羽織の色を、審神者は知っている。永く続く歴史の中で語り継がれる、そんな人たちに所縁があるからだ。
やがて、桜は空気に溶けるように消えた。それを合図にしたかのように、少年はゆっくりと目を開ける。まるで青空のように澄んだ瞳が審神者を捉えると、ふ、と優しく細められた。
「――大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」
第一声はそれだった。愛らしい笑顔でを名乗った彼は、しっかりとした足取りで審神者に歩み寄る。今の主に、自らの忠義を尽くすために。
※
自分を呼ぶ誰かの声がする。名前を呼ばれたわけではないけれど、きっと自分を呼んでいるだという確信が胸にあった。
安定は、一度目を閉じた。その暗闇に浮かんできたのは、自分が慕ってやまない相手。最期まで共に在りたかった人。
――歴史を守るということは、彼の末路も守るということだ。助けることなど許されない。たとえ何があっても。
(でも、――それを君は、きっと望まないんだろうね)
どんなに未練があったとしても、きっとあの人はその運命を受け入れるのだろう。己が理想のため、大切に思うもののために彼が貫いた忠義は、何があっても揺るがない。
だって彼の誠は、浅葱の旗の下にあったのだから。
(だから、僕は戦うよ。君ならきっとそうするだろうから)
記憶の中の笑顔に誓って、安定は目を開ける。姿の見えない声に向かって、ふわりと微笑んだ。
「――うん。今そっちに行くね、『主』。……僕は君と、人とともに在るべき存在(モノ)だから」
そうして彼は歩き出した。失ったはずの表舞台へ、淡い桜に導かれながら。
2度目の生が幕を開けた。ただのモノではない、「神」の一員としての生が。
眼前に舞った桜たちが、それを祝福してくれているような気がした。