小話

草葉の陰

2022/11/04 11:46
※前半の語りは女の子の審神者
(名前なし、年齢は10代くらい)
※ホラーテイスト()



 この間、愛染くんと一緒に買い物行ったのね。それで、ちょっと遠回りしよっかーって話になって、万屋街からちょっとだけ離れた川沿いの道を通って帰ったの。
 その途中で、土手の草むらに赤い封筒が置いてあるのを見つけたんだ。こんな所になんだろーって思って、封筒を取ろうと屈んだの。そしたらね、その瞬間に愛染くんが「ダメだ、主さん!」ってすごい勢いで叫んで腕引っ張ってきたのよ。
 もう何かと思った。愛染くんめちゃくちゃ焦ってるんだもん。どうしたのって訊いたら、「最近危ないものが落ちてるから、むやみに拾うもんじゃない」って。
 それもそうだなって思って封筒をそのままにして帰ったんだけど、愛染くんはなんであんなに慌ててたのかなあ。

      ※

「英断だったね。それはきっと"冥婚"の小道具だよ」
 石切丸はふわりと笑った。硬い顔をしていた愛染は、やっぱりか、とため息を吐く。
「やばいと思ったんだよ。草むらの影から、すげえ数の目が主さんを見てたからさ。……怖がらせたらまずいと思ったけど、うまくごまかせたかなあ」
 不安を吐露する愛染に、大丈夫だよと石切丸は笑う。
「主がそれに触れていないのなら、縁は繋がらないよ。けど、しばらくその道は通らない方がいいね」
 わかったと愛染は頷く。今の近侍は自分だ。主を危険な目に遭わせるわけにはいかない――と、固く自分に言い聞かせた。
「そこまで気負わなくて大丈夫。でも、一応主と一緒にまたおいで。簡単にお祓いはしておこう」
 くすくすと笑いながら、石切丸は愛染に労いの言葉をかけた。お祓い? と不思議そうに問うた愛染に、神妙な顔で頷いた。
「……いくら低かろうと、可能性はつぶしておいた方がいいからね」
 話を聞く限り、彼らは今も諦めてはいないだろうから。

 ――中庭で、草叢が揺れたような気がした。

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