断章 亡春の幻(はるのゆめ)

――助けてあげましょうか。

 その声は優しかった。薄れゆく意識の中、私は霞む目でそれ・・を睨む。

――どうぞ、お手を。そうすればすぐに楽になれましょう。

「戯言を……」
 
 はじめから、これが狙いだったのだ。
 だから、今まで私たちを騙し続けた。

「いつからだ……」

 いつから、これは確定していた。
 わたしの――わたしたちの末路けつまつはいつから!

『――知 ら な い わァ……』

 声が、嘲笑に変わった。おぞましい目がひとつ、しなった弓のように歪む。

『ワタシがするのは、たったこれだけ』

 その瞬間、私の体に衝撃が走った。強烈な圧迫感と吐き気に、逆流した液体が口から迸る。それは、目が覚めるくらい赤い色をしていた。

 ――暗くなっていく視界の中、一つ目のそれがとても楽しそうに笑うのが見えた。


「――歴史の、修正を」
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