貸しボディ屋って、もしかしなくても……、
眩い場所には必ず影が生じる。そんな当たり前のこと、忘れちゃったわけじゃないよねェ?
……なぁんて、露悪的に安っぽく振る舞う必要はもう無いんだけれど。
あの子の前に今更「良きパパ」「良き友人」として再登場するのは何というか……正直に言うと、うん。非常に照れくさいね。僕って実はとってもシャイなんだ。ジャパニーズだからね、「奥ゆかしい」とでも自己評価しておこうか。……どの面下げて、って思った? だって僕があの子の父であり一人目の友人であることは事実だもの。あの子自身がどう思っていようとも、ね。
さて、以前僕が手がけた中でも、大量生産まで漕ぎ着けた通称「Kシリーズ」。その子たちと一緒に研究所ごと打ち捨てられて幾星霜。ってほどの時間は流れていないけれど。例のあの子──シリアルゼロを特定する研究はほぼ佳境に入っている。あとはあの子を誘き出すだけ。そう、僕は気づいたんだ。あちこち捜し回るよりも、あの子の方からこちらに近づいてくるようにワナを仕掛ければ良いのだと。なんとかスクラップを免れた数十体に及ぶKシリーズの、感情を持たない無機質な視線にさらされつつ思案すること約2.6秒、僕の天才的頭脳はある名案を弾き出した。
「よし、店を開こう」とね!
店と言っても、目立ってはいけない。ふつうの店ではないからね。所謂「法に抵触するお店」。ブラックテックを扱うのだから、街の裏路地の更に奥、明らかに怪しいシャッター街に店を構えようと決めて、夜な夜な研究所の跡地からKシリーズを数体ずつ店まで移動させた。さながら夜逃げだ。というか、夜中に人目を避けてコソコソと移動する様子は夜逃げそのものだった。
そして口コミが口コミを呼び。ブラックテックに関することなら割と何でもござれ! 今なら怪我の治療なんかも付いてくる! なんせ僕、元医者だから、まっかせて! といった感じにひそかに繁盛しだした店。貸しボディ屋(仮)。
だけどロボットを邪な目で見る人間は一定数いる。そういう奴には絶対貸してやらない。ミサイルで迎撃して退店願う。感情を持たないとは言え僕の可愛い息子たちであることにはかわりないし、シリアルゼロに恥ずかしくない振る舞いをしなくてはね。……え? 「Dシリーズ」に「Pシリーズ」? さァね、残念だけど『僕』にはない記憶だなァ。僕はずっと、シリアルゼロひとすじさ。あの子が起動するもっと前、こんなに、こーんなに小さなネジだった頃から知ってるんだ。当然思い入れは強くもなるよね。
さあ、ロボ! いつでも来てくれて良いからね!
***
今日のワシはすこぶる機嫌が良かった。ンムッフッフ。なんてったって給料日! オキュウキン……なんと甘美な響きだろうか。低賃金はきらいだが、それ相応の見返りが有るのならば労働そのものは悪くはないかもしれない、そう思ったりもする今日此の頃だ。
ウキウキとパン屋を飛び出し、街なかを闊歩する。ウ~ン、なんとも爽やかな朝ではないか。ワシの目に映るすべての光景がキラキラと輝いて見える。と、思いきや。
「ン〜〜? コンナ暗イ裏路地ナンカアッタカナ」
見るからに怪しい、きらびやかな街の雰囲気にそぐわない小道があることに気づいた。街ゆく人間たちはその裏路地を一切気にしていない、というか気づいていないかのように通り過ぎていってしまう。ワシもそうしようかと思った。しかし、ワシの第六感的センサーがピコーン! と閃いた。往々にしてこういう場所にこそ所謂『掘り出し物』があるものだと。
このミニマムボディになってから、将来の超カッチョイイ新ボディを夢見て、ジャンクショップをはしごするのが趣味になっていた。
この奥にも何かがある気がする。否、絶対に何かある!
ワシは一も二も無く、その路地裏に駆け込んだ。
薄暗い路地の向こう側に、光が見える。これはいよいよ怪しく、期待も自然に高まった。湿った土を撒き散らしながら光に向かって駆け抜けると、そこには。
特に何の変哲もないシャッター街があるだけだった。この街にこんなにアングラな場所があることに少し驚いたが、ただ、それだけだ。自慢のマントに付いた土をはたき落としてから、キョロキョロと辺りを見回す。正直に言えば期待外れも甚だしかった。そのへんの小石を蹴飛ばして、シャッターの下りた店たちを眺めながらゆるゆると歩みを進める。なぁんだ、何もないではないか。がっかりする気持ちを抱えながら元の道を戻ろうと踵を返したその時、足元にネジが落ちていることに気づいた。
「コ、コレハ……Kしりーず専用締結部品、通称『K108』デハナイカ! アッ! アッチニモ! コッチニハ回路基板マデアル!」
すごいすごいと大はしゃぎながら、点々と道に落ちているレアな部品たちを拾い集めていく。数メートルほど進んだところで、ふと、見上げるものがあった。目の前のシャッターが、一軒だけ開いていたのだ。
ここか! 今ではあの組織──終戦管理局──の、とある支部とそのダミーにしか残されていない『ワシら』専用の部品を取り扱うジャンクショップは! これは運命としか思えない。偶々通りかかったシャッター街にワシにお誂え向きな店があるなんて。感無量で店に足を踏み入れた。その刹那。
『ヘラクレスオオカブトを感知。スキャンを開始します。……シリアルゼロのヘラクレスオオカブトと99.9パーセント一致! シリアルゼロ発見! 繰り返します、シリアルゼロ発見!』
暗かった店内に赤色灯が光り輝き、ビコーンビコーンとアラームがけたたましく鳴り響く。この感じのノリ、ワシ知ってるぞ……。
思わず逃げを打とうとしたワシ目掛けて、店の奥からいくつものロボットアームが伸びてきてワシの簡易ボディを拘束してしまった。もはや掴まれていない面積のほうが少ない。驚き半分、呆れ半分。ワシ相手にこのような莫迦げた真似をする輩、ひとりしか思い浮かばない。
ワシは店の奥に向かって声を張り上げた。
「ドウイウツモリダ、駄目博士!!」
……返事がない。かと思いきや、パッと視界が俄に明るくなった。アームで頭部も固定されているため、視線だけを動かす。狭い店内には、ワシの完成後に量産されたKシリーズたちが所狭しと並べられていた。そのうちの一体、ワシの一番近くに立っていた量産型の後ろから、ひょこっと顔をのぞかせたのは、顔の上半分を仮面で隠した人物だった。
「探したよ、ロボ! あーあー、そんな姿になっちゃって! 自爆でもしたんだろう、駄目だよって言っておいたのに! でも大丈夫! この日この時のために君専用の機体を用意してあるんだ! 今繋げてあげるからね!」
そう超ハイテンションの早口でまくし立てる低い声の声紋だけで、相手の正体がやはりあの駄目博士であることは明白となった。素性を隠したいのならボイスチェンジャーくらい使いやがれ! この詰めのあまさ、ある意味懐かしさすら感じるぞ!
そうツッコミを入れようとした瞬間、ワシの意識は途切れた。
***
目を覚ますと、ワシはシャッター街の道の真ん中に座り込んでいた。
先ほどの出来事は夢だったのかと考えながら立ち上がる。やけに視線が高い、というか、自爆するまで慣れ親しんだ駄目オリジナルと同じ身長の視界だ。
体を確かめていく。両腕、両脚、そして胴体と頭部。かつて在り、一度は失くした体が、戻ってきた。しかも、物凄く高性能な造りで。ご丁寧に服まで着せられている。ワシ好みの伊達男風な衣装のポケットに紙切れが入っていた。
『あくまでもレンタルだからね。きちんと定期的にレンタル料を払いにくるように! 友人特典として無料メンテナンスの為だけに来てくれてもいいんだからね!』
見覚えのありすぎる癖字で書かれたメモに、ため息を一つ。
「駄目博士、わしノコト友人ダト思ッテオッタノカ……」
今はそれどころではないのは理解している。だが、この紙切れの端には濡れて乾いた跡があり、文字の一部が滲んでしまっていた。それが何故なのか分からないほど野暮ではない。
もう一度ため息をついて、空を見上げる。世界は広いようで、案外狭いのかもしれない。……逆か?
「ッテ、れんたる料ナンボナンジャ! ソレニヨッテわしノ人生設計変ワッテクルゾ、駄目博士メ!」
