弱所突きと魔力感知、闘ったら千日手になるのかな?〈2〉 (金ガ/バリ+モモ)
先程から飽きもせず勉強に励むモモンの横顔を、机に頬杖をついてじぃっと見つめ続けている。結構な至近距離で、食い入るように。それでもモモンは机上の論文誌に夢中で、俺はらしくもなく小さなため息をついた。そろそろこの態勢にも疲れてきたし、一度伸びでもするか。そう思い立ちモモンの隣の椅子から立ち上がると、ぐいと背筋を伸ばす。
モモンに勉強を教えるようになって、そろそろ十年になる。当時高校生だった俺の所に突然現れて師事したいと頼まれ、その気骨に絆されて、身体の効率的な鍛え方やこいつの持つ『特性』の活かし方を教えていくうちに、きらきらした目で頼まれたのだ。「バリー、勉強も教えて!」と。当時七歳かそこらだったモモンは、よりによって『あの』清麿を目標にしたらしく、俺は少し迷って、結局のところ折れた。別に勉強が苦手なわけでもないが、モモンの目指す人物が所謂特別な人間であることは俺に多少のプレッシャーを強いた。小学生の勉強くらいなら……と油断していた俺の目の前に差し出されたのは、俺が使っている高校用の教科書と同じものだった。気が急くのも分かるが段階を踏め。確かそのようなことをモモンに助言した気がする。だがモモンはどこか思い詰めた表情で「みんなと学校で一緒に勉強するのは楽しい。けど……そんなこと言ってられない気がするんだ」と答えた。そして「僕、ちょっと前まではいたずらばっかりして勉強に向き合えてなかったから、急がないとと思って。もっともっと、って勉強してたらいつの間にかここに来てたんだ」と続けた。それを聞いた俺は内心焦った。こいつ、俺の手に負えるのか、と。それでも小さな瞳をうるうるさせて上目遣いに俺の返事を待つモモンに根負けした。『いたずらばっかり』だった割には飲み込みが異様に早く、試しに俺の期末テストの問題をそのまま出題してみたところ、多少苦戦しながらも時間内に解ききったのには相当驚かされた。
そして今。「バリーがいてくれると集中できる」とかいう理由で俺の空き時間を使っている。別にそれは構わない。俺の中でも未だモモンに必要とされることを嬉しく思う気持ちがあるから。それに、俺が床で筋トレしていようが机に突っ伏して隣でぐーぐー寝ていようがモモン的にはいっこうに気にならないようで、これ、本当に俺要るか?と思うほどだ。取り敢えずもう一度着席して、モモンの興味津々で楽しそうな顔でも眺めるか、などと考えてモモンを見ると、あいつも俺を見た。
視線がかち合ってまじまじとモモンの顔を見ることになる。今モモンは俺と出会った当時の俺の年齢に達していて、ちまちましていた手足も発育途上ではあるがすでにすらりと伸び、サル顔がより彫りを深くしてなんとも言えない感じになっている。はっきり言って顔だけ見たらかなりいかつい。うさぎ耳くらいしか当時の面影が無い。あ、でも笑った顔は割と十年前と変わらないんだよなぁ。とか考えていると、モモンが視線をついと逸らした。こころなしか頬が紅い気がする。
「バリー、今日はどうしたの? 僕の顔なんか見ててもしょうが無いよ。筋トレとかしないの」
「ん? うーん、成長したなぁって思って見てただけだ」
「どうせ僕は老け顔だよ。昨日も小さい子に『おじさん』っていわれたし」
ずーん、と俯くモモンに俺は「まあ、それはしょうがねえんじゃねえか。大丈夫だ。おまえ、小さい頃から老け顔だったし」と言いつつあいつの肩に手を置いた。するとモモンは、
「何のフォローにもなってないよ」と微笑った。
それを見た俺は咄嗟にモモンのもちもちした頬をきゅっと左右に軽く引いた。
「そのまま!」
「ふぇ?」
「どれだけいかつくなっても、その笑った顔は変わんねぇよ」
「よ、喜んで良いのかな、それ」
「ああ、少なくとも俺は『わるくねぇな』って思ってる。勉強してるときの真剣そのものな顔も、いつもの特訓で必死に俺の追撃を躱すときの表情も、今の笑顔も、全部」
「ぁ、ありがとう……! 僕も好きだよ、バリーの……その、やさしい表情」
「優しい顔なんざしたことねぇだろ」
「してるよ。今とか。特訓に付き合ってくれた後、僕の頭を撫でてくれる時とかも今みたいな顔してる」
あれ?
「……撫でてるか?」
「うん。あれ僕すごく好き。……その反応、もしかして無意識だったりする?」
いや、違っ。子どもの頃から相手してるから癖になっちまっただけで、他意は無い、はず。
俺が二の句を継げずにいるため、どこか気まずい沈黙が降りてくる。
もじもじしていたモモンが、無理に張り切った声で言葉を発するまでそれは続いた。
「さ、さぁ、今日も特訓よろしくお願いしますっ」
「ん、ああ、そうするか!」
ふたりしてがたがたと席を立ち、部屋を出る。
隣を歩くあいつを面映ゆい気持ちで見下ろすと、こちらを見上げたモモンが「特訓頑張ったら、なでなで、してくれる?」と少し不安そうに訊いてくる。その表情がなんだか幼く見えて、俺は「頑張ったらな」と少しどぎまぎしながら答えるに留めた。今すぐこいつの頭を撫でてやりたいと疼く右手を持て余しながら。
モモンに勉強を教えるようになって、そろそろ十年になる。当時高校生だった俺の所に突然現れて師事したいと頼まれ、その気骨に絆されて、身体の効率的な鍛え方やこいつの持つ『特性』の活かし方を教えていくうちに、きらきらした目で頼まれたのだ。「バリー、勉強も教えて!」と。当時七歳かそこらだったモモンは、よりによって『あの』清麿を目標にしたらしく、俺は少し迷って、結局のところ折れた。別に勉強が苦手なわけでもないが、モモンの目指す人物が所謂特別な人間であることは俺に多少のプレッシャーを強いた。小学生の勉強くらいなら……と油断していた俺の目の前に差し出されたのは、俺が使っている高校用の教科書と同じものだった。気が急くのも分かるが段階を踏め。確かそのようなことをモモンに助言した気がする。だがモモンはどこか思い詰めた表情で「みんなと学校で一緒に勉強するのは楽しい。けど……そんなこと言ってられない気がするんだ」と答えた。そして「僕、ちょっと前まではいたずらばっかりして勉強に向き合えてなかったから、急がないとと思って。もっともっと、って勉強してたらいつの間にかここに来てたんだ」と続けた。それを聞いた俺は内心焦った。こいつ、俺の手に負えるのか、と。それでも小さな瞳をうるうるさせて上目遣いに俺の返事を待つモモンに根負けした。『いたずらばっかり』だった割には飲み込みが異様に早く、試しに俺の期末テストの問題をそのまま出題してみたところ、多少苦戦しながらも時間内に解ききったのには相当驚かされた。
そして今。「バリーがいてくれると集中できる」とかいう理由で俺の空き時間を使っている。別にそれは構わない。俺の中でも未だモモンに必要とされることを嬉しく思う気持ちがあるから。それに、俺が床で筋トレしていようが机に突っ伏して隣でぐーぐー寝ていようがモモン的にはいっこうに気にならないようで、これ、本当に俺要るか?と思うほどだ。取り敢えずもう一度着席して、モモンの興味津々で楽しそうな顔でも眺めるか、などと考えてモモンを見ると、あいつも俺を見た。
視線がかち合ってまじまじとモモンの顔を見ることになる。今モモンは俺と出会った当時の俺の年齢に達していて、ちまちましていた手足も発育途上ではあるがすでにすらりと伸び、サル顔がより彫りを深くしてなんとも言えない感じになっている。はっきり言って顔だけ見たらかなりいかつい。うさぎ耳くらいしか当時の面影が無い。あ、でも笑った顔は割と十年前と変わらないんだよなぁ。とか考えていると、モモンが視線をついと逸らした。こころなしか頬が紅い気がする。
「バリー、今日はどうしたの? 僕の顔なんか見ててもしょうが無いよ。筋トレとかしないの」
「ん? うーん、成長したなぁって思って見てただけだ」
「どうせ僕は老け顔だよ。昨日も小さい子に『おじさん』っていわれたし」
ずーん、と俯くモモンに俺は「まあ、それはしょうがねえんじゃねえか。大丈夫だ。おまえ、小さい頃から老け顔だったし」と言いつつあいつの肩に手を置いた。するとモモンは、
「何のフォローにもなってないよ」と微笑った。
それを見た俺は咄嗟にモモンのもちもちした頬をきゅっと左右に軽く引いた。
「そのまま!」
「ふぇ?」
「どれだけいかつくなっても、その笑った顔は変わんねぇよ」
「よ、喜んで良いのかな、それ」
「ああ、少なくとも俺は『わるくねぇな』って思ってる。勉強してるときの真剣そのものな顔も、いつもの特訓で必死に俺の追撃を躱すときの表情も、今の笑顔も、全部」
「ぁ、ありがとう……! 僕も好きだよ、バリーの……その、やさしい表情」
「優しい顔なんざしたことねぇだろ」
「してるよ。今とか。特訓に付き合ってくれた後、僕の頭を撫でてくれる時とかも今みたいな顔してる」
あれ?
「……撫でてるか?」
「うん。あれ僕すごく好き。……その反応、もしかして無意識だったりする?」
いや、違っ。子どもの頃から相手してるから癖になっちまっただけで、他意は無い、はず。
俺が二の句を継げずにいるため、どこか気まずい沈黙が降りてくる。
もじもじしていたモモンが、無理に張り切った声で言葉を発するまでそれは続いた。
「さ、さぁ、今日も特訓よろしくお願いしますっ」
「ん、ああ、そうするか!」
ふたりしてがたがたと席を立ち、部屋を出る。
隣を歩くあいつを面映ゆい気持ちで見下ろすと、こちらを見上げたモモンが「特訓頑張ったら、なでなで、してくれる?」と少し不安そうに訊いてくる。その表情がなんだか幼く見えて、俺は「頑張ったらな」と少しどぎまぎしながら答えるに留めた。今すぐこいつの頭を撫でてやりたいと疼く右手を持て余しながら。
