煌めく海に沈む(ゴカム/現パロ杉辺)
杉辺と言いはります。
またえろも殺し愛も無い、生ぬるくてぱっさぱさなお話。
やまもおちもいみもないです。
ふたりともニセモノです。
ワンパタ製造機とでもお呼びください。
でもしょうがないよねこういう展開が好きで書いてんだからさ。でももっとがんばりたい。
両者とも記憶あり。
──────
あの男にとって、殺人は息をするのと同じこと、だったらしい。
僕の前世とでも言うべき人物、名は辺見和雄。
特段めずらしい名というわけでもないが、奇しくもまったく同じ名前で生まれ育った僕が、前世に気づいたきっかけは子供の頃家族で行った海で溺れたときだ。今は亡き両親の言によると、波打ち際に吸い寄せられるように歩いていき、そのまま波にさらわれそうになったそうだ。その時の記憶はあまり無いが、視覚聴覚呼吸全てが鈍った中で僕は確かな煌めきを見、弟が僕を呼ぶ甲高い悲鳴を聴いた。そしてぼんやりと『ああ、息苦しいな』と他人事のように考えたのは覚えている。
それ以来、少しずつ違和感に苛まれるようになっていった。
どうして弟は生きているんだろう。僕の弟として産まれてきてこうしてそばで生きていてくれるのは嬉しい。だけど僕のこころを占めるのはやっぱり、弟が生きている事実への疑問だった。別に弟を殺そうとか、そういう考えはまったく無い。ただただ不思議でならなかった。たしかこの子は家の裏山の竹林で獣に食われて……いや、うちに裏山なんて無い、だって僕らが暮らすのは普通の住宅街だ。そうやって何処かへ引っ張られそうになる思考を訂正し、否定して生きていくのはなんだか息苦しくて疲れてしまった。足掻くのももうやめてしまおうか。やめるってでも、どうやって?
そう自問自答を繰り返す日々がしばらく続いたある日。弟が死んでしまった。横断歩道上に信号無視の自動車が突っ込んできてのことだった。僕のほうが一歩先に出ていれば僕が死んでいたはずだった。そう後悔のようなものはすれど、弟の死は僕の胸の中にストンと落ち着いた。
弟の死に顔は奇麗に眠っているようで、"あのとき"とは真逆だった。僕のこころの淀みだけが、あの日と、あのひとでなしの人生と、同じだった。
それまで必死に否定してきた記憶の断片が、パズルのピースのように集約されていくような。そんな感覚が僕の中で起こった。
そして今も、息苦しさの中にいる。
「辺見さぁん、起きて」
凛々しい、けれど甘さを多分に含んだ囁き声で呼ばれ、僕は薄っすらと瞼を持ち上げた。ベッドサイドに置かれた柔らかい色の照明をちょっと眩しく感じて、目をしょぼしょぼさせていれば、光を背負った声の主──杉元さんがくすりと微笑う気配がした。
「よかった、起きた」
「んぅ、すぎもとさん……? あれ? ぼくどうして、」
寝てたんですか?
そう問えば、明かりに慣れてきた視界の中で、杉元さんが真剣な顔で言った。
「ごめん、また無理させすぎちゃったみたいだ」
普段は淡い色の瞳に影がさして、少しだけ潤んでいる。だけど視線はしっかりしていて、それに射抜かれた僕は記憶の中にある彼の"かつて"を思い出し身震いした。恐怖からではもちろんない、愉悦によるものだ。
「いいんですよぉ。僕は身もこころも杉元さんのものなんですから。お好きなように使ってやってください。あ……でも途中で寝てしまってはつまらないですよね。せっかく抱いてくださったのに……ごめんなさい」
ぺらぺらと口は軽薄に回っていやになるが、声が掠れているのを自覚してちょっとだけ嬉しくなる。だって、それだけ自分が啼いたというしるし。杉元さんに気持ちよくしてもらった証だから。
「寝ちゃったあと、辺見さん、すっごく泣いてたよ。こわい夢とか悲しい夢でも見た? あ、思い出したくないなら言わなくても大丈夫だからね」
ぎゅうと抱きしめられる。若々しくハリのある杉元さんの胸板に甘えれば、頭上から「ふふっ」とくすぐったそうな笑いが降ってきた。
「辺見さんのほっぺた、ふにふにのもちもちだね。かわいい」
「もぅ、こんなおじさん相手に『かわいい』はナシですよ、杉元さん」
顔を上げると、こちらを見下ろす杉元さんと目が合った。その表情は、曇っている。
「……かわいいかわいい辺見さん。お願いだから自分の身体のこと、『使う』とか物扱いしたり卑下したりしないでくれよ。俺が抱かせてもらってる側なんだからさ」
むぅ、と唇をとがらせている拗ねた子どものような杉元さんが可愛らしくてたまらない。
「前は殺し合いだったから、出逢えたらとことん甘やかすって決めてたんだ。辺見さんの望みは何でも叶えてあげたい、『殺して』っていう願い以外は」そう告げられたのは一年ほど前の秋口。なんて残酷で、甘美なことを言うのだろうと思った。僕の一番の願いを知りながら、それを叶えてくれるという選択肢ははじめから杉元さんの中には無い。叶えられるのは彼だけなのに。だけどその代わりに齎される愛の熱量は確かなもので、僕のこころはどろどろに溶かされて原型を留めていないような恐怖を覚える。こんな気持ち知らないし、知りたくもなかったけれど、杉元さんが与えてくれるものなら何だって受け入れたい。その気持ちだけは今も昔も変わらない。ああ、でも。
息苦しい。
杉元さんが優しくしてくれればくれるほど、息苦しさは強くなる。彼の熱で溶かされ溢れ出した僕の心の淀みで、僕は溺れていく。痛苦は好きだけどこの苦しみは、正直得意じゃない。
「ねぇ、杉元さん。僕、弟がいたんですよ」
「……知ってるよ」
突然話を変えた僕にも返事をくれる、律儀なひと。
「前の人生で獣に食われちゃった幼い弟が、今の世ではすくすく育って当時の年齢を超えたとき、僕はこころから安心しました、救われたような心地でした。でも、」
やっぱり。
「僕は世にいう神さまとやらに、心底嫌われていたようです。人を殺め続けた僕を永劫苦しめるために、何も悪くないあの子が命を奪われる。あの子は僕の『幸せ』のカタチ。可愛くて愛おしくて大事に大事にしてあげたい。それなのに、僕の弟として生まれてきてしまったばかりに、幼くして命を落とし続ける。だから、ね、杉元さん。もう二度と世に生まれ出ることの無いように、完膚なきまでに殺して欲しいんです、僕のこと」
知らず下げていた視線を上げると、その先で杉元さんが歯を食いしばって涙を流していた。あれ、どうして……? とおろおろしていると、杉元さんにまた強い力で抱きしめられる。
苦しい。けど、嬉しい、このまま杉元さんに絞め殺してもらえたらしあわせ。そんなふうに考える自分の浅ましさに嫌気が差す。
「っ、俺の幸せのカタチはぁ、辺見さんなんだよぉッ。今も昔も変わらずやさしくて、弟さん思いで、俺のことも大好きでいてくれて、柔らかい言葉遣いと声が素敵で、かしこいのにちょっぴりおっちょこちょいで、殺したがりの死にたがりっていうある意味一本芯の通ったひとで、隙あらば俺を殺そうとしてきちゃうところも返り討ちにされちゃうところも可愛くて愛おしい、大切なひとなんだよぉッ!」
時折ずびずびと洟をすすりながら、叫ぶ杉元さん。
思わずかつて幼いあの子にしていたように、頭を撫でてあやしてしまう。
「ああ、ああ。どうか泣かないで、杉元さん。不死身の杉元なんでしょう? 強い子なんですから」
「今はそうでもないもんっ」
拗ねたように言う杉元さんの頭を撫でつつ身を起こし、ベッドサイドに置かれたボックスティッシュから何枚か抜き出して杉元さんのお鼻に当てる。
「はい、ちーんしてくださいねぇ」
「ぁい」
素直にちーんした杉元さんの頭をまたよしよしと撫でる。
「今日の辺見さん、なんだかかっこいい……!」
「どこがですか……」
杉元さんがきらきらした目で見つめてくれるけど、その感想には賛同しかねる。
「僕がかっこいいのではなくて、杉元さんが可愛いんですよ」
事実を伝えたつもりでも、相変わらず杉元さんは瞳を輝かせて僕を見ている。なんだかまた申し訳ない気分になってきて、僕は彼から視線を外しぼすんとベッドに沈んだ。
しあわせなのに、息苦しさがつきまとう。
しあわせだから、息苦しいのだと今更気がついた。
「くるしいなぁ」
「えっ!? だ、だいじょうぶ? 病院行く?」
「ぇ、あ……いえいえ。お気になさらないでください。今のは言葉のあやというかですね……」
あわあわしていると、杉元さんもベッドに身を沈め、思い切ったように言った。
「……さっき寝てるときも、『くるしい』とか『ごめんなさい』って泣きながら繰り返してたよ」
「ごめんなさい、」
「どうして辺見さんが謝るの」
「わかりません、ごめんなさい。僕にはこんなに幸せになる資格なんてないのに。いろんな人を殺めました。苦しめました。あの子には、別の未来があった筈なのに、僕の弟として生まれてきたばかりに。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
今度はまた僕が泣く番だった。風景が滲む。
ああ、あきれただろうな。愛想を尽かしてしまっただろうな。
この期に及んで保身に走ろうとする自分が許せなかった。
「罪悪感を感じるなとは言わない。でも、それが死にたい殺したい理由になっちまうなら、忘れることも必要なんじゃないか」
杉元さんの真摯な声と僕の醜い嗚咽が寝室に響く。
「前の人生の分まで罪悪感に溺れてちゃ、そりゃ苦しいよ。今の辺見さんは、今の世で亡くなった弟さんを覚えてりゃいいし、それもつらいならこうして俺にぶつけてくれりゃあ良い」
その度に受け止めるから。
この一言に、僕の嗚咽はぴたりと止まった。
「そ、それじゃあ不公平です。杉元さんも僕にぶつけてください。何でも受け入れますッ」
「無理しなくていいんだよ?」
「無理じゃないです。僕がそうしたいんです。……だめ、ですか?」
寝返りを打って杉元さんを見上げる。彼はどこか照れくさそうに染めた頬をぽりぽりと掻いて、僕と同じように寝返りを打ってこちらに向き直ってくれる。そして僕の両頬を包みこんでむにむにしながら、とびきりの美しく凛々しい微笑みで言った。
「じゃあ、お互いさまってことにしとこっか。俺は、昔のあんたも今のあんたも、ぜぇんぶ引っくるめて愛おしくてたまらないんだ」
「僕も、です」
やっと息継ぎができたような気がした。
また息苦しくなるかもしれないけど、杉元さんと一緒ならきっと大丈夫なのだろう。
またえろも殺し愛も無い、生ぬるくてぱっさぱさなお話。
やまもおちもいみもないです。
ふたりともニセモノです。
ワンパタ製造機とでもお呼びください。
でもしょうがないよねこういう展開が好きで書いてんだからさ。でももっとがんばりたい。
両者とも記憶あり。
──────
あの男にとって、殺人は息をするのと同じこと、だったらしい。
僕の前世とでも言うべき人物、名は辺見和雄。
特段めずらしい名というわけでもないが、奇しくもまったく同じ名前で生まれ育った僕が、前世に気づいたきっかけは子供の頃家族で行った海で溺れたときだ。今は亡き両親の言によると、波打ち際に吸い寄せられるように歩いていき、そのまま波にさらわれそうになったそうだ。その時の記憶はあまり無いが、視覚聴覚呼吸全てが鈍った中で僕は確かな煌めきを見、弟が僕を呼ぶ甲高い悲鳴を聴いた。そしてぼんやりと『ああ、息苦しいな』と他人事のように考えたのは覚えている。
それ以来、少しずつ違和感に苛まれるようになっていった。
どうして弟は生きているんだろう。僕の弟として産まれてきてこうしてそばで生きていてくれるのは嬉しい。だけど僕のこころを占めるのはやっぱり、弟が生きている事実への疑問だった。別に弟を殺そうとか、そういう考えはまったく無い。ただただ不思議でならなかった。たしかこの子は家の裏山の竹林で獣に食われて……いや、うちに裏山なんて無い、だって僕らが暮らすのは普通の住宅街だ。そうやって何処かへ引っ張られそうになる思考を訂正し、否定して生きていくのはなんだか息苦しくて疲れてしまった。足掻くのももうやめてしまおうか。やめるってでも、どうやって?
そう自問自答を繰り返す日々がしばらく続いたある日。弟が死んでしまった。横断歩道上に信号無視の自動車が突っ込んできてのことだった。僕のほうが一歩先に出ていれば僕が死んでいたはずだった。そう後悔のようなものはすれど、弟の死は僕の胸の中にストンと落ち着いた。
弟の死に顔は奇麗に眠っているようで、"あのとき"とは真逆だった。僕のこころの淀みだけが、あの日と、あのひとでなしの人生と、同じだった。
それまで必死に否定してきた記憶の断片が、パズルのピースのように集約されていくような。そんな感覚が僕の中で起こった。
そして今も、息苦しさの中にいる。
「辺見さぁん、起きて」
凛々しい、けれど甘さを多分に含んだ囁き声で呼ばれ、僕は薄っすらと瞼を持ち上げた。ベッドサイドに置かれた柔らかい色の照明をちょっと眩しく感じて、目をしょぼしょぼさせていれば、光を背負った声の主──杉元さんがくすりと微笑う気配がした。
「よかった、起きた」
「んぅ、すぎもとさん……? あれ? ぼくどうして、」
寝てたんですか?
そう問えば、明かりに慣れてきた視界の中で、杉元さんが真剣な顔で言った。
「ごめん、また無理させすぎちゃったみたいだ」
普段は淡い色の瞳に影がさして、少しだけ潤んでいる。だけど視線はしっかりしていて、それに射抜かれた僕は記憶の中にある彼の"かつて"を思い出し身震いした。恐怖からではもちろんない、愉悦によるものだ。
「いいんですよぉ。僕は身もこころも杉元さんのものなんですから。お好きなように使ってやってください。あ……でも途中で寝てしまってはつまらないですよね。せっかく抱いてくださったのに……ごめんなさい」
ぺらぺらと口は軽薄に回っていやになるが、声が掠れているのを自覚してちょっとだけ嬉しくなる。だって、それだけ自分が啼いたというしるし。杉元さんに気持ちよくしてもらった証だから。
「寝ちゃったあと、辺見さん、すっごく泣いてたよ。こわい夢とか悲しい夢でも見た? あ、思い出したくないなら言わなくても大丈夫だからね」
ぎゅうと抱きしめられる。若々しくハリのある杉元さんの胸板に甘えれば、頭上から「ふふっ」とくすぐったそうな笑いが降ってきた。
「辺見さんのほっぺた、ふにふにのもちもちだね。かわいい」
「もぅ、こんなおじさん相手に『かわいい』はナシですよ、杉元さん」
顔を上げると、こちらを見下ろす杉元さんと目が合った。その表情は、曇っている。
「……かわいいかわいい辺見さん。お願いだから自分の身体のこと、『使う』とか物扱いしたり卑下したりしないでくれよ。俺が抱かせてもらってる側なんだからさ」
むぅ、と唇をとがらせている拗ねた子どものような杉元さんが可愛らしくてたまらない。
「前は殺し合いだったから、出逢えたらとことん甘やかすって決めてたんだ。辺見さんの望みは何でも叶えてあげたい、『殺して』っていう願い以外は」そう告げられたのは一年ほど前の秋口。なんて残酷で、甘美なことを言うのだろうと思った。僕の一番の願いを知りながら、それを叶えてくれるという選択肢ははじめから杉元さんの中には無い。叶えられるのは彼だけなのに。だけどその代わりに齎される愛の熱量は確かなもので、僕のこころはどろどろに溶かされて原型を留めていないような恐怖を覚える。こんな気持ち知らないし、知りたくもなかったけれど、杉元さんが与えてくれるものなら何だって受け入れたい。その気持ちだけは今も昔も変わらない。ああ、でも。
息苦しい。
杉元さんが優しくしてくれればくれるほど、息苦しさは強くなる。彼の熱で溶かされ溢れ出した僕の心の淀みで、僕は溺れていく。痛苦は好きだけどこの苦しみは、正直得意じゃない。
「ねぇ、杉元さん。僕、弟がいたんですよ」
「……知ってるよ」
突然話を変えた僕にも返事をくれる、律儀なひと。
「前の人生で獣に食われちゃった幼い弟が、今の世ではすくすく育って当時の年齢を超えたとき、僕はこころから安心しました、救われたような心地でした。でも、」
やっぱり。
「僕は世にいう神さまとやらに、心底嫌われていたようです。人を殺め続けた僕を永劫苦しめるために、何も悪くないあの子が命を奪われる。あの子は僕の『幸せ』のカタチ。可愛くて愛おしくて大事に大事にしてあげたい。それなのに、僕の弟として生まれてきてしまったばかりに、幼くして命を落とし続ける。だから、ね、杉元さん。もう二度と世に生まれ出ることの無いように、完膚なきまでに殺して欲しいんです、僕のこと」
知らず下げていた視線を上げると、その先で杉元さんが歯を食いしばって涙を流していた。あれ、どうして……? とおろおろしていると、杉元さんにまた強い力で抱きしめられる。
苦しい。けど、嬉しい、このまま杉元さんに絞め殺してもらえたらしあわせ。そんなふうに考える自分の浅ましさに嫌気が差す。
「っ、俺の幸せのカタチはぁ、辺見さんなんだよぉッ。今も昔も変わらずやさしくて、弟さん思いで、俺のことも大好きでいてくれて、柔らかい言葉遣いと声が素敵で、かしこいのにちょっぴりおっちょこちょいで、殺したがりの死にたがりっていうある意味一本芯の通ったひとで、隙あらば俺を殺そうとしてきちゃうところも返り討ちにされちゃうところも可愛くて愛おしい、大切なひとなんだよぉッ!」
時折ずびずびと洟をすすりながら、叫ぶ杉元さん。
思わずかつて幼いあの子にしていたように、頭を撫でてあやしてしまう。
「ああ、ああ。どうか泣かないで、杉元さん。不死身の杉元なんでしょう? 強い子なんですから」
「今はそうでもないもんっ」
拗ねたように言う杉元さんの頭を撫でつつ身を起こし、ベッドサイドに置かれたボックスティッシュから何枚か抜き出して杉元さんのお鼻に当てる。
「はい、ちーんしてくださいねぇ」
「ぁい」
素直にちーんした杉元さんの頭をまたよしよしと撫でる。
「今日の辺見さん、なんだかかっこいい……!」
「どこがですか……」
杉元さんがきらきらした目で見つめてくれるけど、その感想には賛同しかねる。
「僕がかっこいいのではなくて、杉元さんが可愛いんですよ」
事実を伝えたつもりでも、相変わらず杉元さんは瞳を輝かせて僕を見ている。なんだかまた申し訳ない気分になってきて、僕は彼から視線を外しぼすんとベッドに沈んだ。
しあわせなのに、息苦しさがつきまとう。
しあわせだから、息苦しいのだと今更気がついた。
「くるしいなぁ」
「えっ!? だ、だいじょうぶ? 病院行く?」
「ぇ、あ……いえいえ。お気になさらないでください。今のは言葉のあやというかですね……」
あわあわしていると、杉元さんもベッドに身を沈め、思い切ったように言った。
「……さっき寝てるときも、『くるしい』とか『ごめんなさい』って泣きながら繰り返してたよ」
「ごめんなさい、」
「どうして辺見さんが謝るの」
「わかりません、ごめんなさい。僕にはこんなに幸せになる資格なんてないのに。いろんな人を殺めました。苦しめました。あの子には、別の未来があった筈なのに、僕の弟として生まれてきたばかりに。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
今度はまた僕が泣く番だった。風景が滲む。
ああ、あきれただろうな。愛想を尽かしてしまっただろうな。
この期に及んで保身に走ろうとする自分が許せなかった。
「罪悪感を感じるなとは言わない。でも、それが死にたい殺したい理由になっちまうなら、忘れることも必要なんじゃないか」
杉元さんの真摯な声と僕の醜い嗚咽が寝室に響く。
「前の人生の分まで罪悪感に溺れてちゃ、そりゃ苦しいよ。今の辺見さんは、今の世で亡くなった弟さんを覚えてりゃいいし、それもつらいならこうして俺にぶつけてくれりゃあ良い」
その度に受け止めるから。
この一言に、僕の嗚咽はぴたりと止まった。
「そ、それじゃあ不公平です。杉元さんも僕にぶつけてください。何でも受け入れますッ」
「無理しなくていいんだよ?」
「無理じゃないです。僕がそうしたいんです。……だめ、ですか?」
寝返りを打って杉元さんを見上げる。彼はどこか照れくさそうに染めた頬をぽりぽりと掻いて、僕と同じように寝返りを打ってこちらに向き直ってくれる。そして僕の両頬を包みこんでむにむにしながら、とびきりの美しく凛々しい微笑みで言った。
「じゃあ、お互いさまってことにしとこっか。俺は、昔のあんたも今のあんたも、ぜぇんぶ引っくるめて愛おしくてたまらないんだ」
「僕も、です」
やっと息継ぎができたような気がした。
また息苦しくなるかもしれないけど、杉元さんと一緒ならきっと大丈夫なのだろう。
